第11話 魔法は控えめに


「どうして…結界までしてあったのに…」


巫女が口を震えながら覆い、化け物を見るような少々怯えた目でこちらを見ていた。


結界?そんな物騒なものなかったぞ?

この女、おかしなことばっかり言ってるけど本当に巫女なのか?

頭に疑問符が沢山浮かんでいると、巫女の言葉を聞いた兄ちゃんが俺をウデの中から解放して巫女を殺意を帯びた鋭い目つきで睨みつけた。

兄ちゃん、女性に優しかったんだけどどうしたのかな?

そんな目で見られたら人によってはトラウマになっちゃいそうだよ!


「結界だと?そんな説明も話も聞いていないぞ!秘密裏に何をしている!

弟は、国の尻拭いを命懸けでしたようなもんだろ!」

「…結界とは、俺も聞いていない。」


国の尻拭い?

確かダンジョンの誕生や特殊モンスター誕生は、予兆が報告された場合、国から巫女へ聖魔法を使った遠方探査が依頼されるんだったか?

それである程度目星がつけられて、規模によって騎士団の人数や人が決まるんだったな。

ポールに無理やり聞いた情報だから間違いないだろう。

つか、ポールの奴やっと口を開いたな。

俺みたいに喋れなくなったのかと思ったぞ。


「…それに関しては…私の力不足で申し訳なく思っています。本来なら英雄として対処しなくてはならない事も重々分かっています。」


巫女は、悔しげに特徴のある短い眉を顰め、胸の前に組んでいた手に指先が白くなるほど力を込め出した。

零れそうな涙を堪えて、俺へと視線を戻した。

この巫女…もしかしたら国の対処をかなり不服に思っているけど、逆らえないくらいの圧力を受けているのか?


「ごめんなさい。しかし、国が貴方を危険だと判断しているんです…いくら恨んでも構いません。ですが、これは国の安全を護るためには必要なことなんです!」


自分自身へ言い聞かせているように言い放つと、巫女と俺の間に眩い光が生まれ、何かを察知した兄ちゃんやポールが俺を守るように前へ出た。


「私の結界術は標的以外をとらえない…あなた方には、効果はありません。


サンクチュアリ ホールド


ごめんなさい。これは、国の決定なんです。」


オーロラのような複雑な輝き方をする光りは、2人を擦り抜けるように通過し、俺へとネットリまとわりついてきた。

美少年に有るまじき案件再びですよ。

まとわりついてきたこの感じは、先程廊下で遭遇したラップだった。

ふざけた結界だ。

こんなことが似合うのなんて笑いが欲しい特殊な職種の人間だけだろ!

つまり、全身に光るラップがぐるぐる巻にされている状態。

眩しいし、息苦しいし、さり気に湿気が籠るし、とにかく不快極まりない。

巻きついてきて少ししてから、安定したのか光りが落ち着いてきてラップの締め付けが緩み出した頃、薄目で見えた光景は兄ちゃんとポールが凄い剣幕で泣いてる巫女に詰め寄るが、女騎士によって2人は巫女から引き離された。

硬くなったラップの中は、音をあまり通さないようで薄っすらしか音が聞こえない。

外では言い争いが始まり、耳を澄ますが何を言っているか聞き取れないで見つめるしかなかった。

しばらくして、埒が明かないと考えたであろう2人と女騎士は、剣を抜いて対峙し始めた。

このままじゃ、お互い無傷では済まないんじゃないか?


それにしても国から危険認定とか…まぁ、わからなくもないけど、俺の話も聞いてもらいたいものだ。

復活しても俺の人生はジェットコースターなんですね。

国と戦う訳にもいかないし、この場もそうだけど事態を何とか好転させたいな。

俺自身、蘇生してからすぐに戦うとか…戦いは、スタンピードでお腹いっぱいもう食べられないっての…


まずは、このラップ結界をどうにかしないとな…向こうの話が聞こえ辛いってことは、こちらの話も聞こえ辛いという事。

ならば聞いてもらいましょう。

今度は油断しないし、一芝居でも打って、力づくでいかせてもらいましょうかね。


思いついたことを試すために結界の外へと重力魔法を使おうとしてみるが上手くいかない。

うん!

一応結界って言ってるからね!

はいはい、無駄な努力をしましたよ。

でも可能性って話もあるじゃないか!


気を取り直して、第二案を決行することにした。

第二案は、離れた場所に落ちてるマントの上に、重力魔法で結界ごと体を浮かせて落下する。

多分なんだけど、あのマントとんでもない機能が追加されちゃってる気がするんだよね。

何万ものモンスターの血を吸ってるんだよ…

あのマント呪われチックになってると思われ、さっきも建物の中の結界をあっさり破っちゃったんだと思うんだよね。

それに、この結界は先ほどの結界と同じ性質の聖魔法で出来てる上、手首を動かして内側から叩いてみると高い音がする。

憶測だが、建物内のが時間があってじっくり張られた結界だとすると、今のこの結界は即席だから脆い筈だ。


4人がバトルチックになっていてこちらを見向きもしないので重力魔法を自分にかけて浮かせてみた。


ちょ!少ししか浮かないんだけど!魔力回復してないからか!いつもよりも光も少ないし!

でもいい!気が付かれる前にとっとと作戦決行だ!


数センチしか浮いてない状態で内部で勢い付けて移動し、マントの上で魔法を解除した。


うん!ビンゴ!

足の部分から結界が砕けて消えていったのだ。

ガラスが割れるような盛大な音を立てて…


「な…なんてことなの!!」

「よくやったね、エル!」


巫女と兄ちゃんが見事対照的だった。

巫女は顔面蒼白。兄ちゃんは高揚して頬が薔薇色に染まっていた。

やっぱ兄ちゃんマジ天使!


「さて…人の話を聞かない悪い子はどうしてくれようかね…」


俺は不敵に笑いながら重力魔法で、おどおどしながらも魔法で戦っていた巫女と人離れした戦いを繰り広げていた女騎士を建物へと押し付けた。

幸いなのか、俺の魔力が弱っていたので壁にめり込むとか、スタンピードの時のようなことはなく、ただ押し付ける形になった。


「知ってはいるだろうけど、俺にとっては初めましてだから挨拶させてもらおう。

俺は、カラコット村の村長さんちの次男坊、エルグランだ。

ちょっと魔法が使える12歳の普通の村民。」


相手は女性なんだから怖がらせないように、あざと可愛いスマイルのまま優しく話しかけた。

怖がらせては話が進まなくなるし、余計なことにもなりかねない。


「わ…私は、この国の巫女…サフラン…挨拶は済んだでしょ?魔法を解除していただけないかしら?」

「巫女にこのようなことをしてタダで済むと思うなよ…」


あー…こういうタイプって嫌いだなぁ…

状況も空気も読めない奴。


「エル、このようなことになってはどうにもならん。」

「確かにポールさんの言うとおりだよ。」


この二人は、なんでこんなにいい顔で俺に促してくるんだろ…

俺は、善良な村民なんですよ?魔王じゃないんですよ?


【本来なら君の今の生を辿る者は、TUEEEEチート勇者。

または、TUEEEEチート魔王。

騎士は、仲間にもなり、敵にも成り得る。】


ううああああああ!!!アイツ!!!なんか言ってた気がする!!嫌だぞ!魔王とか!!せめて勇者にしてくれ!!


心の中で頭を抱えていたが、二人の笑顔の圧迫に耐えられずに、足元にあったマントを翻して身に纏い、あざと可愛いスマイルのまま磔になっている二人に近づいた。


「二人の言う通りだ…俺の言うことに耳も傾けず、不遜な態度…

こうなったら、兵士たちが気付く前に、この場でお前達も国も滅ぼしてやろうか…

俺の力は知っているんだろ?」


うん!今は二人を張り付けるので精一杯だけどね!

しかし、悟られないよう演技を続けるしかない。

いつでもギリギリで困っちゃうな!


演技でもなんでも、この場を上手く立ち回って切り抜けないと、兄ちゃんもポールも追われる身になってしまう。

俺も指名手配だよ…下手したら魔王として…


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