第6話 無茶は分かっているつもり

俺の放ったお試しの一撃により、取りこぼし無しで第1波が制圧されたようだ。

おそらく、第1波に交じっていたであろう特殊モンスターも圧死したようで音が完全に回復していた。

その証拠に、盛大なグロテスクな効果音が響き渡りましたからね。

流石にあの音量だと村にも響き渡ったことだろう…想像すると怖すぎるね。

情報錯そうする中での大音量グロテスク効果音とか、村に居たらオシッコちびっちゃってたかも。


まぁ、当然、兄ちゃん達が異変に気が付いて現場に来てしまうだろう。


いやん、急がないと大目玉だぜ。


自分の想像の上をいく結果で自覚無しに混乱していたが、兄ちゃんの魔王モードの顔を思い出して一気に冷静になれた。

しっかりとスタンピードの現状を把握して、次の手を考えないといけない。


分かる。分かってはいるんだよ?現状を把握するためには、またあの場所を見なくてはならないってこと…

自分でやったことだけどさ…視界にダイレクトアタックされるとシンドいので、薄く瞼を開いてスタンピードが起こっている方向を見る。

口の中に独特の酸っぱい嫌な感覚が残る状態からの追加リバースとか息できなくなることは明らかで、考えつく限りの抵抗である。


やはり、直視するには耐え難い。

視線を逃がすように隣のポールを見たら目が合った。

同じ表情、つまり薄目を開けている状態だったから驚きだ。

コイツと俺の対策が同レベルとか泣きたい。

ポールはどう考えても脳筋なのに。


2人で無言のまま見つめ合っていると、尻から背筋に掛けて寒気が這い上がるような音が聞こえてきた。

全身の毛や皮膚が逆立つ感覚なんて初めてだ。


ーニチャニチャー

ーグジュッ!グジュッ!ー


なんと第2波とも呼べる波が、ダンジョンのある方向から血肉の池と化したクレーター内を歩いて横切り出したのだった。

先程と違うのは、小型のモンスターでは無く中型のモンスターや大型モンスターが、軍隊の様な隊列を築いて進行している。

ファンタジー映画の一場面のようで、現実であるのを忘れてしまいそうな光景だった。

麻痺した感覚のまま目を凝らすと中心に頭が無く、漆黒の鎧に包まれた騎士が、馬鹿デカい馬に跨り指揮をとっているではないか。

前の世界にいた、ばんえい競馬の馬の二倍くらいあるな…どっかの覇者が乗ってそうだ。

迫力あるな。ゴツイ鎧のモンスターとバカでかい馬…


「…ポール!見たくないだろうけど中心を見てくれ。あれは特殊個体じゃないか?」


この世界の人国にいるモンスターは、獣に近くて考えたりはあまりせずに欲望のまま行動する。

知識があったり、話せたりするモンスターは、かなり珍しい上に強くて厄介だ。

このような個体を特殊モンスターと総称している。

誕生も大なり小なりスタンピードを起こして大迷惑なのに、強くて知恵が回るとか非常にめんどくさい。

数が一番多いであろう50000位いた第1波よりも少ない第2波とはいえ、20000近いモンスターをまとめ上げているのだから特殊モンスターだと言える。


「あれは…確かに特殊個体だ…普通の首なし騎士ならば鎧は錆び付いているし、馬だってあんなに大きくない。それに、こんな光景見たことがないぞ…いや、似た光景は見たことあるが、国同士の戦いでしかない。」


人位の知識と統率力があるってのか…ってことは、俺たちに気がついて攻撃してくるのも時間の問題か。

ただ、それは黙って見ていたらの話。

それでは、何もできないのと同じだし意味がない。


俺が、重力魔法を再び繰り出したら、すぐに位置を特定して攻撃してくるに違いない。

何か対策を考えなくては…一撃で制圧出来ればいいが、今回は先ほどよりも強い個体ばかりだ。

取りこぼす可能性が高い。

ポールが、どれくらいのモンスターを倒せるか、または引き付けられるかがポイントになって来るかな。


ともかく、こんな化け物御一行様を兄ちゃんや村にいる奴らに近づけるわけにはいかない。

作戦が失敗しても良いように、波の方向を変えれば、村は助かるかも…淡い期待だけどな。


「さっきとは違って、大音量の音がしている。十中八九、村にいる人間にも伝わってると思う…俺たちが失敗したら、かなりの確率で全滅だ…」

「確かに…騎士団が駆けつけても不可能だ。統率された大型モンスターなんて一体につき、10名で挑むのが鉄則だ。」

「はぁー…人生最後の瞬間、一緒にいるのがモブ騎士ポールなんて運がないな。」


ーポコンッー


バカ力にしては珍しく軽く俺の頭を小突いて笑った。


「モブって言うな。それに、諦めるなんてまだ早いだろ。」

「保険のない状態で諦め入るなって無理な話だっての。これを制圧できたとしても次の波がきたら完全に詰んじまうよ。」


さっきと同じ魔法を展開したら俺の魔力は尽きるだろう。

魔力を半分くらい持っていかれた気がするくらい全身がだるい。


どちらにしても魔法を展開するしかないだろうから、枯渇して落下する前にポールを下へと降ろし、俺は確実に魔法が当てられるように、見晴らしが良く、尚且つ村とは違う方向である場所へ移動しなければならない。

重力魔法で取りこぼしがあったとしても、ポールや後から駆けつけてきそうな騎士団ならなんとかしてくれそうな気がするけど、第3波がきたらどうにもできないだろう。

第2波がこんな絶望的な状態なんだから、第3波なんてあったらラスボスみたいなのが出てきても不思議じゃない。


第3波がなかったとしても第2波で取りこぼした奴が、見晴らしのいいところで倒れてる俺を見つけて殺しに来るだろ。

けれど、村とは違う方向だから方向転換して向かってくる可能性がある。


ただ…


失敗=俺の死確定


美人薄命ですね…


「ポール、同じ重力魔法をもう一回打つと魔力枯渇の危険があるからお前を下へと降ろす。こっから落下したら俺もお前も死んじまうからな。」

「わかった。失敗しても俺が全力でサポートしてやる。」

「…俺はお前と一緒にいられないわ。

この魔法は目標物を見て当てないとダメだから見晴らしのいい…あそこが良さそうだな。あそこに行く。」


降り立って視界を木々が邪魔しないか、逆に見晴らしが良すぎて敵に見つからないか色々と見回しながら吟味し、村とは違う方向に聳える崖を指さして微笑んだ。


「もしも取りこぼしちまったら、村に行かないように頼むわ。」

「わかった……後で迎えに行くからな!」


俺の思っていることがすべて伝わっているかのように、見たことのないくらい強い眼差しで見てきた。

何とも言えない熱い気持ちで目頭まで熱くなるのが分かり、奥歯を噛みしめて笑みを浮かべるのが精一杯だ。

ポールをゆっくり地面に降ろし、振り返ることなく崖へとモンスターに見つからないよう低空飛行で向かった。


一人になった寂しさが込み上げてくる前に敵に見つからないで崖へとついた。

さて、失敗できないミッションの開始ですな!


見晴らしが思ってた以上によく、急いで展開しなくてはならない。

うん。

だって、第2波の大型モンスターが俺に気が付いて指さしているからね!


心の準備も深いことも考えることなく、魔力を高めて第2波へと両手を向けた。


「グラビティー!!出力最大!!」


手から魔法が放たれると全身がいう事を利かなくなって周りの景色が後ろへと流れていく。


「やっぱ…ごっそり持ってかれるな…って確認するまで気を失うとか…持ってくれよ…」


力はいらなく震える腕を何とか立て、霞む目を肩で擦って放った方へ顔を向けると焦って打った為か数匹中型モンスターを逃がしてしまったようだ。

更に最悪なことに首無し騎士が傷を負いながらも生きていた。


「ポール…すまない…」


カラカラの口から出た言葉はポールに届くことはなかった。


森から異常な速度で飛び出した小さな影が、次々と閃光と共にモンスターを切り裂いていく。

ああ、モブでも龍騎士なんだな…

胸に安堵が広がるが、それも一瞬でダンジョンの方から凄まじい殺気と魔力を感じ目を凝らした。


「……こりゃ…詰んでるわ…」


大きな腐った龍が鱗や酸のような粘液を垂らしながら出てきたのである。

なにこの最終決戦クラスのモンスターの質と量。

首無し騎士で手一杯そうなポールも気が付いているだろう。

いくら、ポールが龍騎士でもアレは無理だわ。

あれは龍の形をした巨大なアンデット。

粉々にするか、適性を持つ人が極端に少ない聖魔法でなければ完全に葬り去ることはできない。


ラスボスを倒すのは…やはりモブ騎士では役不足だ。


倒れてる場合じゃないでしょ、美少年エルグラン君!


「どっこいしょ…どうせ死んじまうなら…派手にあいつをぶっ倒してやるよ。」


枯渇状態で魔法を使うと命を削ると聞いたことがある。

でも、こんな詰んでる状態で自分の命なんて無いも同じだろ。

体を地面につけたまま鉛のように重い腕を上げて、手のひらを死にぞこないの龍へ向けた。


「あばよ…グラビティ…クラッシュ!!」


残り僅かな魔力と生命力を魔力に変換して藍色に光りだした龍を持ち上げ、圧力をかけて粉々に吹き飛ばした。


「はは…ポール…あと頼んだぞ…ゴフッ…兄ちゃんに…会いたいな…」


兄ちゃんの幻を見ながら、口の中が鉄の味で満たされると意識が落ちていった。

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