第4話 第一犠牲者はポール

ポールの話を聞いて、予想よりもかなり悪い状況だったので閉口してしまった。


スタンピードは、ダンジョンの誕生や特殊なモンスターの誕生等突然起こる爆発的な魔素の増幅に伴い、モンスターが異常発生したり、魔素を大量に摂取してしまう事による集団での興奮、混乱等状態異常を起こしたまま波のように襲ってくることを指している。

つまり、魔素の増幅する速度や濃度、規模によってスタンピードの危険度が変わってくる。

父さんたちが地図を広げて唸っていたのは、その大きさと発生しだしているモンスターの強さに手の打ち方を考えていた。

特殊モンスター発生だとその系統のモンスターが大量発生するんだが、大体規模が特殊モンスター周辺に限定されるので小さい。

今回は規模の大きさからみてダンジョン誕生だと思われる。


何故、思われるとしているかというと、ポールの話ではダンジョンらしきものを目にはしたが、湧き出てきているモンスターの数と見合わないというのだ。

確かにここ数日、冒険者の話でもこの辺りでダンジョンやポールの言うダンジョンらしき洞窟の目撃情報はない。

うちの村はダンジョンがないから、そんなものが少しでも発生したらすぐに報告が来るはず。


モンスターが居そうなところと言えば、ここいら辺じゃ森くらいだけど、たいしたモンスターはいない。

モンスターの存在が少ないという事は、モンスターの力となる魔素が少ない。

ダンジョン誕生に必要な魔素は溜まり辛い状況だったはずなのだが……


ポールの考えだと、地下に魔素が流れる空洞があり、それが長い時間かけて溜まっていって、出来たダンジョンかもしれないとのこと。

そして、珍しいことに地下からじわじわと大規模なダンジョンが作られて、数日前からその一角が地上へと出てきたのだったら、今回のスタンピードの規模が大きいという説明がつく。


通常ならダンジョンが出来始めると、ダンジョンコアっていう珍しい球が目撃されたり、見かけなかった種類のモンスターが発生したりと予兆があり、早めに国へ報告が上がって、その規模やダンジョン完成状況等で指示が出て騎士団なり、冒険者だったりが対処する。

まあ、大体そういう報告は、その土地に拠点を持つ冒険者がギルドにするものなんだけどね。

平和ボケして、あんまり森の深くへは足を延ばさない村の冒険者じゃ、気が付かないのも納得できる。

対処が早いとダンジョンの規模縮小やスタンピードの制圧が容易にできるけど…今回は仕方がないとしか言いようがない。


都には巫女という人たちがいて、国内部の異変に気がついたらすぐに報告を上げて調査させる制度があり、今回はそのパターン+たまたま都から行商に来ていた商業団体が、村からの帰りに水を汲もうと森へ入った時、異変に気が付いたので都に帰ったついでに報告した。

それがほぼ同時くらいだったそうです。


そう、調査なんです。

制圧じゃないんです。


ポールの話を纏めると…


発見報告が遅れた為、大規模でほぼ完成されたダンジョン。


ダンジョン周辺はカオスでスタンピード寸前。


巫女、商人から聞いた噂を確かめに、念のため来た調査騎士団12名。


嫌な予感がしたのでついてきた冴えないモブ龍騎士1名。


元々モンスターが少ない地域の冒険者ギルドにいる冒険者20名弱。




つ………詰んでる。


あんまりのことに吐血するかと思ったよ。

あの夢は…容姿だけのことじゃなかったのかよ…命の危険が迫ってる分、前世よりハードなんじゃないのか?

つーか、生命の危機レベルがおかしいぞ!

だから、平凡がいいって言ったじゃん!

つか、こんなんだったらチート能力くれよ!あの時の自分バカ!貪欲なくらい能力をリクエストするべきだった‼

非力な自分が憎い!

普通、異世界転生とかって俺TUEEEEE!じゃないのかよ!!って俺が断ったんだけどもさ!

俺にできることって…氷が出せる。おいしい水が出せる。お湯が出せる。飲み物冷やせる。


異世界生活が快適にできますね…ウォーターサーバーがいらない上に、冷蔵庫もいらないね。


ダメじゃん!!


足止めすらも難しいじゃん!!!平和だったから戦闘に向けた水魔法とかやってないよ!

ギルドの冒険者バカにできねぇ…俺も平和ボケだ。


体術だって時間制限がある。

スタミナもそうだけど、身体強化の魔法を苦手だけど使わなくては話にならない。

体は普通の人間の子供だから、そら魔法で武装してなかったら戦えないよね。

身体強化の魔法は、コツを掴んじゃえば息を吸うように使えるらしいんだけど、魔法にも得手不得手があって、魔力も集中力もかなり必要だから俺には不向きなんだよ。

周囲も警戒して気を研ぎ澄ませ、魔力も全身に巡らせるなんて器用なことは15分が限度です。


だから、平和な村には戦闘向けのことは必要なかったんだって!


さっき使ってた重力魔法の方が得意ではあるけど、体や物を浮かせるくらいしか使ったことがない。

寒い朝にクローゼットから着替え持ってくるとか…ね?こっそりと生活にしか使ってないんだよ。


なんなら思い切ってモンスター浮かせて遠くへポイって投げちゃう?

それとも重力重くして地面に沈めちゃう?

………やったことないのに、大規模なスタンピードへ応用できるわけがない!

別に天才じゃないんだから、何でも一発OKじゃない。

魔法は大体イマジネーションがあればなんとかなるよ?けど、重力魔法はエグイでしょ。

一歩間違えたら、グシャッ!とかベチャッ!って大量になるんだよ?

モンスター限定にできれば問題ないかもしれないけど、討伐の為に騎士団も冒険者も行くでしょ?

いざやるとなると加減が難しいと思うんだよね。

俺は、非力だから集中して魔法を使うとなると、相当遠くで見晴らしのいいところからじゃないと無理。

モンスターに見つかって攻撃されたら瞬殺だからね。


それに、戦いとなったら両者入り乱れるわけだから、器用にあっちもこっちもってね…

ああ、そうだよ!あれだよ!虫眼鏡レベルでやるもぐらたたき!

視力良いけど自信ない!


だけど、これが一番有力な手段…てか藁だよな。

掴めるものこれしかないんだし…

でも、成功するかわからないから大々的に発言はできない。

考えれば考えるほど問題点ばかりが浮かんでくる。


こっそり影から試してみるか?


作戦会議にすら参加させてもらえない子供を現地に連れていくわけがなーい!


頭を抱えて唸っていると、黙って俺を見守っていたポールが妙に優しく背中を撫でてきた。

人が悩んでいるのにイラッとさせるな…ポールめ!力加減下手くそだな!


「どさくさに紛れてセクハラしないでください。」

「え!?せ…くはら?…あー、よくわからないんだが…君が思い悩むことない。

一応、応援を頼むために騎士を一人途中で引き返させたし、援軍が来るまでの足止めなら、今いる騎士団員と龍騎士である俺でなんとかできる。」


俺が女だったり、年相応な少年なら今ので胸キュンフォーリンラブなんだろうが…残念ながら美少女のごとき見た目の俺は、ガッツリ男であり、守りたいものが沢山あるんだよ!

守りたいものを人任せにできるほど、人間できてない。

悠長に騎士団様頼みで村の中で燻ってらんねーの!

何にも手がないんじゃ燻ってるしかないけど、試せる手があるならやらなきゃ損だろ!


って声を大にしてコイツに言えたらいいんだけどなー。

自信満々胸張って言えるかって言われると…試したことのない問題山積みの重力魔法しかない。

悔しい気持ちで奥歯を噛みしめながらポールを睨んでいると、ふと気が付いた。


あ、そうだ!こんなところにいいやつがいるじゃないか!

俺に協力できそうで、実験が成功した暁には、俺を現場へと連れて行くことができる発言権のある実験動物よりも頑丈な男が。

ワクワクと胸が躍りだすと抑えきれない黒い微笑みが顔を支配していくのがわかる。


「ポール…俺に少し考えがあるんだ。上手くいったら誰もケガすることなくスタンピードを止めることができるかもしれない。しかし、それには強くて頑丈な騎士の協力が必要なんだよ…」

「本当にそんなことが?…俺で協力できることなら…ってちょっと、君の笑顔が怖いんだが…」

「は?俺は、村長さんちの美形三兄弟の次男なんですよ?怖いわけないでしょ?」


少しずつ俺から距離を取ろうとしているポールを逃がさないよう、身体強化の魔法を使って手首を掴んで距離を詰める。

逃がさねぇよ?

君の犠牲は無駄にはしない。

恨むならモブ顔だった自分を恨むがいい。


あ、俺のこと、ちょっとは恨んでいいからな。

これからそれだけのことをさせてもらうし。



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