第3話次男坊は辛いよ

兄ちゃんからの恐怖(?)の尋問により、俺の秘密晒すことになった。


一つ 水系の魔法が使える

二つ 重力という変わった魔法が使える

三つ 身体強化の魔法が使える

四つ 好きな人は居ない

五つ 兄ちゃん大好き



後半は、前半よりも無理矢理言わされた感がある。

兄ちゃんってば過度のブラコンなんですね。人のこと言えないけど。

王子様キャラで若干(?)腹黒なんて前世では爆発的人気じゃないですかね…15歳にして恐ろしい!!

しかもブラコンですか…兄ちゃんと村の将来が心配です。

最悪、俺が嫁として兄ちゃんの隣に君臨することもやぶさかではないです。


「エル、魔法関係の話は俺とだけの秘密にしようね。」

「分かりました…はい…」


兄ちゃん…爽やかな満面の笑みが眩しいです。目が潰れそうなくらい眩しいです。

俺は頷くしか選択肢ない。

逆らうコマンドは、とうの昔に廃止されていますよ。


「それじゃ、俺がお湯を出すから兄さんが床と浴槽を磨いてくれる?」


秘技、可愛い弟を気取ってる流、小首を傾げて上目遣いの術ですよ。あざと可愛いでいいんです!

今日は仕事が詰まりに詰まってる状態だから、早く終わらせて食堂の手伝いに行きたいんだ!!

仕事の速度と質が良ければ給料上がるからね!

今の変なスイッチ入った兄ちゃんとの空気マジでシンドいってのは内緒だぜ…


当の兄ちゃんは、蕩けそうなプリンススマイルでデッキブラシを握って構えてる。

俺が、妹だったらイケナイ世界を繰り広げちゃってるかもしれない…

しかし、残念!!弟なんで!しかも、俺の守備範囲20歳以上なんで…

…とか言いながらも、兄ちゃんならそれを無視してイケナイ世界展開しちゃいそうでヤバし!


残念ブラコン王子に引き攣り気味の笑顔を向けてから息を吐き、掌に魔力の流れを集中させてお湯へと変換させる。

集中、集中!雑念よ、消え去れ!

この世界の魔法ってイマジネーションだよ。9割がた。


丁度いい温度のお湯が、カラカラに乾いていたタイルへ染み込み、タイルが艶を取り戻す。

兄ちゃんは、鼻歌を歌いながら慣れた手つきでブラシで磨いて汚れを落としていく。

兄ちゃんは、無駄に家庭スキル高いからなぁー。

弟は、残念兄さんを死んだ魚のような目で見つめながらお湯で汚れを流してサポートする。


そんなこんなで1時間後には、すっかり綺麗になった浴場に湯気が立ち上っている。

浴槽満タンだぜ!石鹸新品だぜ!安物だけど…

床も桶もピカピカだぜ!中古感は否めないが…


だがしかし!これで調査騎士団が文句言ったら重力魔法で沈めてやる。

こちとら、神経も魔力もゴリゴリ削りながらご奉仕したんだからな!そんでもってこれから食でもご奉仕だ!

あ、作るのは主に料理長だけどね。


食堂へ行く前にお湯が冷めない様、外に作られた窯へ火を焼べる。

兄ちゃんが、気を利かせて村共有の倉庫から薪を沢山持ってきてくれた。

更に、出来た兄さんは、火の番までしてくれることになった。

持つべきものは優しいイケメンお兄様。

火の番の間に、村の女豹達が来ませんように…アイツら隙あらば兄ちゃんを捕食しようとしてるからな…心配事は尽きません。


兄ちゃんと話しながらだったこともあって、当初予想していた時間よりも大幅に遅れて食堂へ入った。

あ、俺が自分のスキルの用量で予想立ててた時間だから、魔法無しの作業時間よりも早いけど。


中に入るとため息が出た。さすがギルドの食堂を任されているおっちゃん。

殆ど料理は出来ていて、シンプルだけど料理の艶や彩を前面に出すような完璧な盛り付けをされ、並べるだけになっていた。

楽だなぁーなんて考えていたが、違和感がある事に気がついた。

調査騎士団がくるからか、冒険者達はギルド内には居らず、大衆酒場や安宿へと移動している。


いつもだと考えられない静かな食堂を目の前にして、胸騒ぎがした。

嵐の前に空を見上げた時のような胸騒ぎ。


嫌な感じだな。


そもそも、なんで調査騎士団がこんな田舎の小さな村にくるんだ?

観光するところもないし、これといった銘品もない。

それどころか珍しくダンジョンもない。

最近、盗賊や緊急討伐対象モンスターが出たなんて話も聞かない。

気になるからってサジムさんに聞いても答えてくれないだろうな。


頭にクェッションマークを漂わせながら、食堂のおっちゃんに言われた通り料理や食器を並べていると、地響きのような馬の団体が近付いてくる音が聞こえた。


調査騎士団がおいでなさったみたいだ。







ここまでが、俺のわりと平坦な人生だった。



ギルドの扉がスローモーションの様に開く。


外から聞こえてくる女達の悲鳴。


男達の野太い怒号。


血塗れで疲弊した馬と騎士団。


耳が痛いくらい警報の如く鳴る自分の心臓。


状況を理解する事ができない。


さっきまで生まれてから変わらずに、流れていたゆったりとした愛しい時間が崩れようとしている事は、なんとなくわかった。


誰かが俺の肩を揺すった。

声のする方へ顔を向けるとサジムさんが、真っ青な顔色で見ていた。


「村長をすぐに呼んできてくれ。緊急事態だ。」


何度か頷いてから、肩で息をしながらサジムさんに話しかけてきた騎士団達を横目に、父さんがいる役場へと走った。

途中、慌てるあまり足が縺れそうになったり、力が入らなくなり何度か力いっぱい膝を叩いた。


父さん


父さん


頭の中は、とにかく父さんの元へ。ギルドへ。村によくないことがある。


その繰り返しだった。


早く着かないと!!


いつも近く感じる距離がとても遠かった。


「父さん!!サジムさんが、ギルドに来てくれって!!」


役場に転がり込むように入ると、視界に入った父さんに叫んだ。

役場には、8人程度しか常時居ないせいか、くだらない話ばかりして毎日賑やかだった。

しかし、慌ててきた俺を見ると大人達はそれぞれ緊急時の配置があるらしく黙って動き出した。


「エル、走ってきたところ悪いが、ライルにギルドへ来るように言ってくれ。」

「は…はい!」


言われるがまま、兄ちゃんのいる浴場へと再び走り出した。

疲れたからか、ただならぬ空気に飲まれたのか、足が鉛の様に重い。

早く知らせに行かなくちゃいけないのに……って、こういうときの為に魔法があるんじゃないか!

みんな混乱し出してるから誰も他人を気にしていないし、もう浴場に向う一本道だから大丈夫だろ。

念のため周りを見てから自身に魔法ってをかける。


「グラビティ」


小さな体が、巡る魔力に共鳴しているように藍色に光り出すと体が軽くなった。

この魔法は、何か知らないけど発光が長いからあんまり使いたくないんだけど、緊急時にそんなこと言ってられません。


長く細い煙突から薄い煙が見えた。

やっと浴槽に着いた…

発光してるのがなんとなく恥ずかしくて、魔法を解除して窯に向うと、兄ちゃんがまったり本を読んでいた。

金髪イケメンの読書シーンは絵になります。


「騎士団よりも先にエルが来るなんて…って凄い顔色悪いよ!?何かあったんだね?」


本を座っていた切り株に立ち上がりながら放り投げ、駆け寄ってきて俺を支えるように抱きしめた。

俺、どんな顔してんだろ…

兄ちゃんの腕の中で深呼吸を繰り返し、上がりっぱなしの呼吸を整えて離れる。


「騎士団が到着したんだけど、みんな血塗れで村中パニック状態なんだ…父さんが、サジムさんに呼び出されて、兄さんもギルドに来るようにって…」


抱きしめられたせいかな?

今度は、息は切れ切れだったけど、落ち着いて状況を伝えられた。


「エル、俺は先に行くから火を消して、村の人達に落ち着くように声掛けしながらギルドへきてくれ。…もう、大丈夫そうだからできるね?」

「はい!」


15歳なのにしっかりしてるわぁー。イケメンでしっかりしてるなんて無敵ですね。ブラコンだけど。

俺の返事に麗しのお兄ちゃんは、頭を優しく撫でて微笑み、疾風の如く村の中心にあるギルドへと走って行った。

ちょ…なにあれ…確実に強化魔法かなんか使ってるよね!?速すぎでしょ!!あんな速度で移動ってこの世界じゃ見たことないよ。

兄ちゃん、村で人身事故起こさないようにしてね…


また、兄の知らない顔を知ってしまった気がする。


はっ!惚けてる場合じゃない!

火かき棒で窯から灰や薪を全てかき出し、魔法でたっぷり水を掛けて後始末をして兄の後を追った。


ギルドに向かう途中、兄ちゃんの疾走した痕跡を追いながら、混乱する村人達に心配しないよう呼び掛けていく。

中には、話を聞けるような状態じゃないくらい震えている老人もいた。

そりゃそうだ。

都の調査騎士団って言ったら、結構強くて優秀なエリート集団って国中の人間が知っている。10人居たら伝説クラスのドラゴンとだって対峙できるって話だ。

その騎士団がみんな血塗れで疲弊してんだからこんな村じゃ、あっという間に知れ渡って混乱するだろう。


俺もビックリしすぎて走ってる間、何度も転びそうになったし、魔法の存在も忘れきっていたし。


身も心も疲れて、肩で息をしながら目的の建物に着く頃には、人がギルドを遠巻きに囲んでいた。

え?犯人が立てこもってるんですか?

それくらいみんな緊迫した表情でギルドの扉を見つめていた。


「ちょっとごめん。中に入るよ。」


周囲の大人達に声をかけ、人の壁を割ってギルドの扉を開いた。

開け慣れた扉なのに緊張で重く感じるが、それ以上に重かったのは、中の人間の空気だった。

村長である父さんとギルマスのサジムさん、騎士団の団長と思しきゴッツイ体格のおじさんが、食堂にある広いテーブルにこの世界では貴重な地図を広げて唸っていた。

その周りを美麗な兄さん、騎士団の精悍な顔つきの団員達が囲んでいる。


ん?


精悍な顔つきじゃないやつが一人いるぞ?

なんていうか平凡。モブ。当たり障りない優男っぽいやつが俺の近くにいた。

こいつなら話しかけても大丈夫そうだな。


「あの…ちょっといいですか?」

「ん?…あっ!ちょっと、いま大事な話をしてるところだから子供が勝手に入ってきちゃダメだよ。ほら、出てってね。」


このモブ騎士!問答無用で俺をギルドの外に出そうとしてきたぞ。

まぁ、普通そうなりますよね!でも、超モブ騎士のこいつが話を聞けて、美少年で村長さんちの次男坊であるこの俺が話を聞けないなんてなんか納得いかない!


「あ、あの!俺は、兄さんに言われてきたんですけど…」


そうですよ!俺は、超絶かっちょいいお兄様に言われてきたんですからね!

モブ騎士が、一旦俺を外に出そうとしている手を素早く止める。

あらあら、話が分かりそうじゃないか。

ちょっと満足げにモブ騎士を見上げると、胡散臭いものを見る目で俺を見ている。

おいこら!なんて目で美形の俺を見てんだよ!こんな目で見られるなんてこの世界来て初めてだ!


「ポールさん、その可愛い子は正真正銘、僕の弟ですよ。」


兄ちゃん!大好き!ありがとう!

目を潤ませながら愛しのお兄様に感謝していると、モブ騎士ことポールが再び俺をギルドの外へと向けるではないか!

なんなの!?話通じてないの!?都だと言語違うの?


「だったら、尚更話を聞かせるわけにはいきません。この子は、こんなにも小さな子供です。そして、貴方方にとって大事な家族。無為に怖がらせる必要はありません。」

「それもそうだな。ポール、その子を連れ出してくれ。」


おい!団長まで同調してんじゃん!

慌てて助けを求めるように父さんやサジムさん、兄ちゃんを見る。

父さんとサジムさんは視線を反らし、兄ちゃんは…口パクで謝ってきた。


裏切者たちを恨めし気に睨みながらポールに連行されていく可哀想な美少年の俺。


ギルドの外に出され、ポールは自分だけ中に入ろうとしていたので赤く染まっているマントを引っ張った。


「ん?…どうしたんだい?」

「なんだか村の空気がおかしいから怖くて一人じゃ家に帰れない…騎士様、一緒に来て?」


ふっざけるな!俺を追い出してタダで済むと思うなよ!貴様も道連れじゃ!

道すがら根掘り葉掘り、あの手この手で詳細を聞いてやる!


もじもじと恥じらいながら瞳を潤ませて、かわいこぶった演技をしつつポールを見上げると、モブらしい笑顔を向けて俺の手を取った。


「それもそうだね。送ってあげよう。」

「我が儘言ってごめんなさい…でも、ありがとう。」


ぐはははは!小さな復讐だが成功だ!どうせ、モブ騎士で扉近辺に立たされてんだから下っ端だろ?


俺は、勘違いを思い込んだままギルドをポールと共に出て家へと歩き始めていた。


モブで下っ端って思ったんだけど…ポールさん?アナタ手がかなりゴッツイね…

握られた手に違和感を感じて歩きながらも横目でポールを見る。


ちょっと…こいつ、ただのモブじゃねーぞ!鎧に龍のマーク入ってんぞ!

龍のマークは、竜を退治したことのある印で国王から授かる勲章と同等のものだ。

調査騎士団に龍騎士がいるのはおかしい。

田舎暮らしの俺でもわかる。

龍騎士の称号を得た騎士は、ずば抜けた強さ故、本来どこにも所属しないハズだ。

それが、調査騎士団と同行してるなんて…もしかして…


「…ダンジョン誕生による大規模なスタンピード……いたっ!」

「あ、すまない!……どこで聞いてたんだい?」


うっかり呟いただけなのに…ポールのバカ力で握られたら俺の白魚のような手が折れちゃうよ。

痛む手を摩り、辺りに人気がないことを確認してからポールをまっすぐ見つめた。

可愛くて弱い子供を演じている場合じゃない。

本当にスタンピードなら把握しておかなくては…


「聞いたんじゃない。現状を整理して導き出した答えだ。

まず、都からこんな何もない田舎に調査騎士団が10名以上も派遣されること自体異例だ。派遣されたとしても様子見がてら2,3人だろ。

次に、エリート集団が血塗れで疲弊しているが、誰もケガをした様子がない。スタンピードの始まりは弱いモンスターの大量発生から始まることが多い。

もう一つは、どこにも所属することがない龍騎士であるアナタが一緒にいることだ。」


ポールのモブならではの特徴ない顔が驚きに染まり、俺の頭を荒々しく撫で回してきた。


「よく分かったな…子供なのにアタマがいい。」

「いたたっ!頭捥げる!!こんのバカ力騎士がぁぁぁあああああ!!」


頭皮と首が悲鳴を上げそうな痛みと、なりたかったモブ顔にやられる訳の分からない屈辱に耐えかねた俺は、無遠慮なゴツい手を払い落とし、噛み付く勢いで怒鳴りつけた。

このダメ騎士め!力加減とかわからなすぎだろ!


「す…すまない…あまり子供と触れ合う機会がなかったもので…」


反省したのか、申し訳なさげに視線と肩を落として頭を下げてきた。

こいつは…根っからの騎士なんだろう。

子供どころか同僚以外につるむ相手いなかったんじゃないのか?


「子供以外でも力加減大事だろうが…ったく、仕方がない。許してやるから村に迫る危険について詳細を教えてほしい。

俺は、確かに子供だが守りたい家族や友人がいる。ポールの考えと同じで大切な村の人たちに話を振りまいて無駄に不安を煽ったり、悪戯に混乱させる気もない。」

「無茶はしないと誓えるか?」

「無茶なんてしたら兄さんに、死ぬよりも酷いことをされると思う…」


ポールは、先ほどの変に子供に語り掛けるような口調ではなく、大人に話しかけるような口調に変えて俺に事の詳細を周りを警戒しながら話してくれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る