第2話 1601年 伊達政宗

 斯様な次第で宗茂殿は弓で、長政殿は鉄砲で、各々の腕を披露することとなったのだ。小十郎よ、お主であれば弓と鉄砲、どちらに優劣をつける?ふむ、やはり知恵者のお主でも鉄砲と思うか。まあ待て、順を追って話そう。


 かつて太閤殿下よりその武勇を称えて「東の本多、西の立花」とのお言葉を賜った宗茂殿の武名は小十郎も存じておろう。とは言え、長政殿の武勇とてかなりのものだ。戦場いくさばにあっては大将でありながら家臣と手柄争いするほどなので、もう少し大将らしく後ろでどっしりと構えていてほしいくらいだと後藤又兵衛がこぼしておったわ。彼奴めは主君の愚痴を言っておるのか主君の武勇を自慢しておるのか、まことわからん奴だ。

 話がずれたな。とにかく両名とも戦働いくさばたらきでは決して後れを取る御仁ではない。長政殿は鉄砲上手、宗茂殿は弓上手というのは肥前名護屋ではおおむね一致しておった。酒の席でのことだ、どちらが勝つかということでそれは大いに盛り上がったわ。宇喜多殿は難儀であったろうがな。


 勝負の方法は三十間さんじゅっけん先の木の枝につるしたこうがいを的とすることに決まった。両者とも当てれば的から一間いっけんづつ離れて撃っていき、先に外した方が負けとなるわけだ。なに?三十間も離れた笄などまるで楊枝のようなもの、狙って当たるものではないとな?そうは言うがな、これがなかなかどうして練達というものはあるものよ。俺もかくありたいものと思ったぞ。


 長政殿の鉄砲が勝つと予想したのは石田三成殿、大谷吉継殿、小西行長殿、増田長盛殿といった面々。対して宗茂殿の弓が勝つと予想したのは加藤清正殿、小早川隆景殿といったところだ。

 石田殿と大谷殿は「さても刑部よ、如何に立花殿が弓の上手と言えど果たして鉄砲にはかなうかどうか…」「うむ、立花殿の弓はどこまで黒田殿の鉄砲に食らいついていけるか…」と言っていたのに対して、小西殿と増田殿は「鉄砲の方が勝つに決まっておるわ、のう増田殿」「それよ、わかり切ったことで立花殿の弓を欲しがるとは黒田殿もお人が悪いのう」とすでに鉄砲が勝ったようなことを言っておったわ。

 加藤殿と小早川殿はというと、「この虎之助、此度の戦でも立花殿の救援のおかげで勝ちを拾ってきたようなもの、あの武勇と豪胆さをもってすれば鉄砲に負けることは考えられぬ」「この隆景もこれまで立花殿の武勇を身近に見てきたが、立花殿が弓を手にして負けるところなど想像もできぬな」とこちらも引かない。いや、双方それは無邪気に応援しておった。


 かくして、大名同士互いの得物を賭けて弓と鉄砲での勝負が始まったのだ。

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