弓と鉄砲
柚木山不動
第1話 1625年 立花宗茂
大御所様、このたびは御相伴衆としてのお召しにより参上つかまつりました。…え、そういう堅苦しいのは良いと?大御所と呼ばれるのもここではナシとおっしゃいますか。それでは失礼して秀忠様、かつて石田殿の挙兵に呼応した我らが所領を失ったのち旧領柳河に戻ることができたのも、何かと気にかけて引き上げてくださった秀忠様のおかげでございます。この上御相伴衆としてお召しくださることこの上ない誉れでございます。この宗茂、御礼の言葉もございませぬ。えぇ、これでも堅苦しゅうございますか。申し訳ありませぬ。
さて、本日は秀忠様がそれがしの若い頃の話をご所望ということでございますか。ならば、武人らしく武芸の話というのはいかがでしょうか。
あれは太閤殿下の下にて朝鮮渡海の際、碧蹄館での戦いに勝った後の宴の折でございます。我らは小早川隆景殿や加藤清正殿や黒田長政殿らと共に、総大将である宇喜多秀家殿の戦勝祝いの宴に招かれ申しました。ええ、そこにおられる伊達政宗殿もでございます。まあ、それがしも先鋒としていくらかの槍働きができて面目が立ったというものでございました。
宴も酒も進んだ頃、誰が言い出したか武具の良し悪しを語る流れとなりました。槍がどうであるとか打刀がどうだといったことでございます。朝鮮に参陣していた諸大名の皆様はいずれも腕に覚えのある方々ばかり。それぞれの武具に何かしら一家言があったようでございました。
黒田長政殿が鉄砲の事に触れた時でございます。黒田殿はこのようにおっしゃいました。
「我が家中では鉄砲隊を厳しく鍛えており申す。これからは鉄砲の時代であり、弓などとは比べ物にもなりますまい。弓はいずれ不要となることでしょう。」
それがしもまだ若かったためでございましょう。酒も入っていたためについ余計な口を挟んでしまいました。
「黒田殿、それはいささか言い過ぎと申すもの。鉄砲は雨などで火縄や玉薬が湿気てしまうと使い物になりませぬ。時と場合に応じて使い分けるのが武具というものでございますぞ。」
言った瞬間、しまったと思いました。黒田殿は酔いも回っていたのでしょう、ムッとした面持ちでなおも続けます。
「そのようなこと無論存じておる。わしは弓と鉄砲の威力を比べたうえで申しておるのだ。立花殿が弓に秀でておることも聞き及んでいるが、さすがに弓では鉄砲にかなうまい。」
「これ黒田殿、いつの間にか立花殿の腕前の話になっておるぞ。ここはこの秀家に免じてこの話はこれまでということに…」
せっかく宇喜多殿がややこしくなった話を収拾しようとしたところでございましたが、ことが我が弓の腕前となっては、それがしも引くわけには参りませぬ。
「では皆様にそれがしの弓の腕前をご覧いただくというのはいかがでございましょうか。不肖ながらそれがしの腕前をご覧いただければ、黒田殿とて弓が無用とは言えますまい。」
「面白い!ならばわしの鉄砲と立花殿の弓とで勝負致そうではないか!ただ勝負するというのでは面白くない。勝負に勝った方が相手の武具を取り上げるというのは如何だ?」
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