第126話 地下の町

かの偉大なるソウルの帝王ジェームス・ブラウンつまりはJ.Bがステージの上で見せるフェニックス性さながらのしぶとさを発揮してオアシスに到着。倍の倍の倍ってな具合に吹っかけられる物資を購入して再び砂地獄へ出発。


もちろん憎たらしい商人を皆殺しにはしていない。高い買い物だったが手が届かない金額ではない。お金は心に余裕をくれる。金は精神安定剤。金持ち喧嘩せず。マネー成立。


「気配察知」の先読みは地形の変化にも応用できるようになり、そうなってしまえば砂漠行は大して問題にならなくなった。慣れってすごいよね。


暑さと寒さの繰り返しで精神は疲弊したものの、肉体は意外とタフなもの。1年の特訓のおかげです、はい。二週間ほどでドワーフの地下王国の入り口らしきポイントに到着した。岩で作った半球のドームが周りの風景とはミスマッチに存在している。入り口を探して勝手に入ると鉄で作られた門があり、ドワーフの門番が立っていた。


「やっと着いた。砂のうねりからしばらくは安全。キーンがいなかったらホントやばかったな。なぁ、楽しみだよな?商人連中があの砂漠を抜けてくるだけの価値はあるんだろうからよ」


「だといいな。ま、到着だ。許可証とかってちゃんと持ってるよな?」


「あるある」


シュラーが一族の伝手と俺の金を使って手に入れた入国許可証を門番に手渡し、無事に門を抜けることができた。そのまま進んでいくと道は右回りで螺旋状の下り坂になり、ラクダに乗ったままどんどんと地下へ。


この道もそうだが壁とかも一体どうなってんだ?あの砂のなかにこんな空間を作ろうだなんてどういう神経してたらそんなことになるんだ。技術と根気が半端ねーな。


この町を作り始めた遥か昔は砂漠じゃなくて、豊かな自然溢れる土地でしたとかそういうことなのかな?何にせよこんな空間を作り出せる技術だか魔法だかがあるってことなんだろうから素晴らしい。


それと同時に他国との文明の差とでもいうものを感じるな。今まで見てきた国にもドワーフはいたし、鍛冶屋を開いているドワーフの店で買い物だってしたが、飛びぬけてすごいものはなかった。俺が見逃していただけか?


しかしこの国のドワーフだけが突出して優れているのか、あるいはこの地下を作ったのがドワーフ以外の別の何かか。考え出したら色々な可能性があるけどそれはまぁいいや。実際この国の物を買おうと命がけで旅してくる商人達がいるんだから何かしらすごいものがある。それが大事だ。


浅黒一族と一緒に働いたお宝発掘現場もかなり興奮したが、ここの物も期待大だ。魔法の感覚からいくと50メートルほど降りたところで坂道は終了となる。ゆるゆると下ると目の前にいきなり町が出現した。


わお。どうやって明かりをとっているのか地下なのに昼間のように明るい。天井を見ると照明具のようなものが光を放っている。オーバーテクノロジーっすわー。お前らだけこんなところで技術を囲いこんでさ、相当ヤバイ集団かもしれんなぁ。


「すごいね。私こんなの見たことないよ。なんで光ってるんだろう?魔法かな?魔法だよね?便利な魔法。私達のところにも欲しいよね?シュラー見て見て、ドワーフがいっぱいだよ。おいしいものあるかな?でも水浴びしたいなぁ。体くさいし。でもシュラーの方がくさいよ?だからこっちこないでね?」


まずは指定された宿に向かう。滞在期間中は毎日一度居場所を確認される決まりになっていて、それを破るとものすごい罰金が請求されるらしい。出口は一つしかないから、逃げるのは難しい。罰金で済めばいい方ということだなこれは。金額をチェックしておく必要があるかな。


町の建物は意外と普通で石造りの四角い単純そうなものだ。鍛冶や武器防具関係の店は多いようだが、生活用品だの食堂だのもちらほら見えた。思った以上に巨大な空間でパッと見じゃ町の大きさがわからない。今歩いているのはメインストリートで商店街みたいなものなのだろう。少し外れれば住宅街になるのかな?


「宿についたら自由行動ってことでいいな?」


「うん。私は水浴びして寝る」


「俺もそれでいい。この町の情報を仕入れてくる」


シュラーは情報収集か。それはぜひやって欲しい。


「疲れてるところ悪いが頼む。聞いてた話と実際じゃ違うだろうからな。金が必要ならあとで払うよ」


「あぁ。どうせ大した話は聞けないだろうけどな。まぁ何があるか分からないし、修行にもなる。出来れば地下二層以降にもいきたいんだがな。そのあたりをメインで探るさ」


今回俺達に許されているのは一層での行動のみ。さらに下層に下りるともっとレアな何かがあるんだろうけど、今のところ下層に下りるための伝手は何もない。


浅黒一族の村長さんならもっと知っているんだろうけど、シュラーは教えてもらえていない。一層への入国許可だけでも並みの商人じゃ無理らしいから贅沢はいえないんだけどね。ここに入るのに使ったお金だけでもかなりの額になる。手持ちのお金は旅の出発時点から既に三割ほど無くなっている。


魔法に頼って金稼ぎしたとはいえそれなりに苦労して手に入れたお金も、使い始めるとあっと言う間に溶けていく。でも俺はここに商売のタネを探しに来たわけではない。売れそうな商品を仕入れて外で転売なんて少しも考えていない。


お金は大事だが金儲けのタネは持っているから、使うところはガンガン使ってしまっていいと思っている。欲しいのは防具か剣だ。理想は左腕のハンデをカバーするための何か。オーダーメイドでいいもの作ってくれないかな。


宿にチェックインして荷物を下ろすと、ふたりに出かけてくると言ってさっさとそれらしい店を回ることにする。本命の武器防具の店を覗いて回る。剣に関しては目利きは出来ないもののある程度の良し悪しは分かる。加えて魔法を使えば使っている材料の純度もなんとく分かるので思いっきり騙される心配はしていない。


いくつかの店を回ってみて分かったのは、どの店の物も総じて品質、価格、品揃えに大差がないということ。この感じでは掘り出し物的なものは期待できそうにない。あーあ「自宅」があれば、あんなことやこんなことが出来たんだけどなぁと思いつつその後も店をあちこち移動した。


時間が経つのも忘れて歩き回っていると次第にあたりが暗くなってきた。天井を見上げると照明具の光が少しずつ弱くなっている。明かりも外に合わせているのか。立ち止まってぼーっとしていたら急に疲労に包まれた。


お腹が減って、喉も渇いた。眠気もぐいぐいやってくる。気温というか室温というか、温度の変化はほとんどないので、夜が来ても寒くなさそうだ。今日の探索はこの辺までにしよう。宿に戻ってふたりと合流し、一緒にご飯を食べながら軽く情報交換して寝た。

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