第127話 取引開始

「おっちゃん。下の層にいけばもっとすごいのがあるんだろ?正直ここにおいてあるものでも外じゃなかなかお目にかかれないレベルなのにさ。これよりすごいってどんなものなんだ?」


「あんちゃん。俺の口からは何も言えねぇんだ。知ってんだろ?」


「折角命がけで砂漠を越えてたんだぜ?いい物があるならそれを欲しくなる気持ちはわかるだろ?もちろんそっちの事情も分かる。そこでだ、俺は取引がしたいんだ。おっちゃん、誰か紹介してくれない?偉い人」


「取引って何をだ?あんちゃんの売り物を言ってみな。商売になりそうなら紹介だろうがなんだろうがしてやるよ」


「ホントに?約束は守ってもらうよ?俺の売り物はね。アダマンタイトって鉱石だよ。どう?興味ある?」


「あんた・・・入国許可証は?」


「連れがもってるよ。どうしたの?そんなこわい顔してさ。そんな回りくどい質問は止めようぜ。俺の正体なんていくら探ったって分からないよ。ただの元奴隷ってくらいしかね。この首輪は趣味でしてるだけで、今は流民だけどね。ほら見てよこの焼印。知ってるかもしれないけど一時期話題になった奴隷に焼かれて奴隷を産んだ町。俺はそこから来たんだ。それで問題なのはさ、アダマンタイトなんてどこで知ったのかってとこだよね?これはちょっと事情があって簡単には説明はできない。さぁおっちゃん。どうする?この話を前に進める?それとも他に何か聞きたいこととかあるかな?」


「その名をここでそれ以上口にしないでくれ。俺では何とも判断つかねぇからな。お望み通り上に話を持っていく。後であんたの宿に迎えをよこすから待っててくれ。ただそうしたらもう冗談でしたじゃ済まねぇぞ?いいんだな?」


鍛冶屋のおっちゃんに話を進めてもらうことにしてから宿に戻った俺はシュラーとチャンネリに取引のことを話して、すごい勢いで怒られた。事前に相談しろというのがふたりの言い分だ。


「なぁキーン。俺達はいつからお前の奴隷になったんだ?首輪なんて見せびらかしていながら内心では俺達のことを自分の奴隷だと思っていたんだな?じゃなきゃそんな危ない取引を勝手にしようだなんて考えるわけがない。俺達のことなんかこれっぽっちも考えていないんだよな?いや答えなくていい。分かってる。もういい。いやもう本当にいいんだ。俺がバカだったんだからな。はぁ、やってられねぇよ」


シュラーには心底クズだなという目を向けられてしまった。


「キーン。私もこれはひどいと思う。巻き込むならせめてシュラーまでにして欲しかった。ほらわたしってそこ関係ないじゃん?ふたりとはさ?今のうちに決めとこうよ。キーンとシュラーはわたしとは一切関係ありませんってさ。だよね?ね?」


チャンネリは俺達と縁を切ろうとしてきた。


実にいい反応だな。それでこそ心置きなくこいつらを巻き込める。俺達は仲間じゃない。お互い利用し合っている他人なんだ。だからもうちょっと付き合ってもらうぜ。なんやかんやで死んじゃったらごめんね。


お茶を飲みながら揉めていると武装したドワーフ4人が迎えにきた。今責任のなすりつけ合いの最中だからちょっと待ってとも言えず、大人しく指示通りに案内を受けることになった。


連れて行かれたのは一軒の普通の家。なかに入ると中年のドワーフがまた4人座って待っていた。挨拶を済ませ着席。お茶を出されたがちょっと怪しいし、さっき大量に飲んだばかりだったので遠慮してお話を始める。


アダマンタイトの情報をなぜ知っているか聞かれると思ったが、ドワーフさん達は俺の連れを見て勝手に納得したようだ。浅黒一族の情報だと思ったんだろう。それはそれで都合がいいので放置。


鉱石足りてませんよね?とストレートにぶつけてみたが無視された。取引したいというなら商品を出せとのことだ。鉱石の採掘場所をしっているならそれを採掘して持ってこいと。


「残念ならが手元にはありません。鉱石が眠る場所は知っていますが我々にはそれを掘り出す力がない。だからこそあなた方に話を持ってきたんです。つまり買って欲しいのは情報です。あなた方もこのふたりはご存知みたいですから一々説明しませんが、我々は情報収集のプロですから」


ちゃっかり浅黒一族の名を利用しつつ、俺もその集団の一員だとアピールしておく。かけられる保険はかけておかないとね。


「なるほど。そういうことなら理解はできる。ワシ等としても鉱石は欲しいのでな。もう少し詳しい話を聞かねば判断できぬが情報に間違いがないのなら買いたいと思う。いくらで売るかね?」


「お言葉ありがとうございます。我々がつける値段はずばり魔道具です。これを3つほどいただきたい」


「魔道具?なんだね、それは?」


「とぼける必要はありませんよ。ご存知でしょう?情報収集のプロだと。我々を殺しますか?それとも監禁なんかをお考えかな?どういたしまして、そうはいきません。この彼は共鳴を使います。我々の一族と全面戦争だと言うならそれも結構ですが、一度ゆっくりお考えになってはいかがですか?もちろん取引に応じられないというのであれば我々はこのまま引き下がります。あとから余計なことも言いません。まぁこの辺は信じてもらうしかありませんが」


「ワシ等はそれほど若くはない。まだまだ聞きたいことは多いのでな。そんなことで一々焦ったりはしない。しかしあなた達には俄然興味が湧いてきた。楽しませてくれるんだろうね?」


「それなりのお代をいただければもちろん。まさか酒手もなしに酔いたいんだなどとは仰らないでしょう?個人的な考えで恐縮ですが、分かりそうで分からない秘密というのはとても楽しいものです。そして大なり小なり誰もが秘密を持っている。ここからが本当に楽しいところです。我々の口を開く鍵を間違えないようお願いします。もちろん私も大いに勉強させて頂きたいと思っています」


「ハッハッハッ!秘密か。本当に若い。ゆえに楽しいの。よろしい。話を聞かせてもらおう。だが念のために場所を変えさせてもらうぞ?よろしいか?」


「結界をお使いになりたいと?もちろん。結構です」


「ふむ。結界の有無がわかるのかな?ハッハッハッ!では案内しよう。悪いがそれまでは何も話せん。どうかな?来なさるか?あなた達にとっては今よりずっと危険になるかもしれんが?」


「よろしくお願いします」


こうして俺達は地下3層に入ることになった。

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