第99話 配置換え
朝いつものように役所の広場に行き、奴隷を監督する人間様から今日の仕事の指示を受けようとしたら、お前は今日から外だと言われた。
わかりましたと返事をして、とりあえず命令された場所に行くと一人のじいさんが立っていた。首には黒く光るおしゃれな鉄のアイテムを装備している。このじいさんも奴隷か。一体何十年奴隷生活をしているんだろう?
「おはようございます。今日はここに行けと言われました」
じいさんは人族で七十歳はいってるように見える。背はそんなに高くなくてガリガリだし髪も白いものが目立つ。厳しい雰囲気を漂わせているが威圧感はない。
「ああ、聞いてるよ。坊主よろしくな」
「今日は何をするんでしょうか?いきなりで何も聞かされていないので、教えてもらえますか?」
じいさんは草食動物のようなつぶらな瞳で俺をじっと見ていたが、急にため息をついて天を見上げた。
「坊主はワシと外で薬草類の採取だ。ワシの相棒は昨日魔物にやられて死んじまったからな。坊主はその代わりだ。しかし話には聞いていたがホントにまだ子供だなな」
町の掃除屋さんから薬草採取班に異動ってことか。よかった。魔物討伐班になったら死ぬ確率が急上昇するからな。討伐班といっても俺達奴隷が剣を持って戦うわけじゃないよ?人間様を守る肉の壁として使用されるだけ。
しかしこのじいさんと二人か。なかなかしんどそうだ。採取班は結果を出さないと罰が待ってると聞いたことがある。まぁ端的に言って鞭打ちだ。
「採取ですか。僕は以前に薬草採取をやったことがあります。ずっと遠い国でのことなので、ここら辺りの薬草とは違うかもしれませんが」
「なに、心配いらん。若いんだからすぐに憶えられる。坊主が死ななければな」
「気をつけます。足を引っ張りたくないので色々教えてもらえると助かります」
「もちろんだとも。ワシの命にも関わることだからな。とりあえず出発しよう。時間が無くなる。説明は歩きながらだ」
背負うタイプのカゴと小さめの鉈のようなものを渡されて町の外に出る。この辺りは森はおろか林と呼べるようなところもない。
木もひょろひょろのものがまばらに見えるばかりで緑が少ない。一年を通して乾燥していて気温は高く、雨もあまり降らないらしい。
水はオアシスから毎日奴隷が運んでくる。農業もやっていはいるが、ここよりもう少し北の地方でやっているらしい。
この国の主な収入は鉱物。金や銀や石炭だということだ。それらを売って食料などを買っているという話を聞いた。
じいさんは街道をすぐに外れて道なき道を進む。目の前に広がるのは乾いた荒野といったところだが、こんなところで何を採取するつもりなんだろう。
「ほれ、そこ。分かるか?」
えーと、この砂に半分埋まっている雑草のこと言ってるのか?
「このひょろひょろの草ですか?」
「そうだ。その葉はハーブだ。掘り返して根も一緒にとるんだ」
じいさんが見本を見せてくれる。
それからひたすらじいさんが見つける草や実や虫などを集めた。
「こんなものが売れるんですか?」
「もちろんだ。ある程度数を揃える必要はあるがな。ほとんど食用だが、さっき見つけた虫は薬になる。高く売れるぞ」
え、あのムカデみたいな気持ち悪いやつがお宝だったの?虫はほとんどが地面の中にいるから見つけるのが大変だが、探す価値があるのね。
日が暮れるまで採取を続け、町に戻る頃にはもう真っ暗になっていた。じいさんについて冒険者ギルドに行って採取したものを渡す。
この国の冒険者ギルドは国営のようで、俺が属している役所との繋がりも当然ある。ものを渡して確認が終われば、とりあえず今日の仕事は終わりらしい。
今日の収穫は初心者の俺がいたためあまり捗らなかった、そこはさすが年の功。じいさんが単価の高い素材に的を絞って採取を行ったため、なんとか合格点をもらえたようだ。
「どうだ?歩くのは疲れるが楽な仕事だろう?」
「あなたが一緒なら。でも僕一人だとまぁ無理でしょうね」
「当たり前だ。ワシはこの知識で生き延びてきたんだからな。お前にも教えてやる。だから簡単に死ぬなよ?いちいち教えるのもくたびれるからな」
「採取もそうですけど、僕は魔物が心配ですよ。前の相棒は魔物にやられて死んだんですよね?」
「あぁ。この辺の魔物は空にいるか地中にいる。空はまだ分かりやすいが、地中のヤツは注意していてもいきなりくる。まぁその内分かってくるだろう。ワシもいる。そう心配することはない」
まぁ今はこのじいさんについていくしかないか。長屋に帰って薄い豆スープをいただく。うん、相変わらずの薄さだ。ろくに味なんてしない。微かに塩気があるだけだ。
よくもこんな食事で半年生きてこられたもんだな。他の奴隷達も俺と同じメニューで何年も生きてるんだからすごい。
子供の俺でも足りないのに、大人はよくあんなもので死なないものだ。何か抜け道があるのかもしれないな。たった半年くらいの新入り奴隷たる俺にはまだ教えてもらえないだけか?
抜け道がないとしたらそっちの方が問題だ。体の成長とともに栄養が足りなくなってきて、いずれ耐えられなくなるに違いない。いいタイミングでじいさんにでも聞いてみよう。
すぐに思いつくのは採取したものをちょろまかしてどこかに売ることだ。でも奴隷の俺が物を売る場所なんてない。つまり換金が出来ない。だとすると採取した物を自分で食べるくらいがせいぜいか。
ちょっとくらいなら問題ないはずだ。あの草や葉は生でもいけるか確認だな。薬草なら少量でも栄養が豊富かもしれない。
じいさんだって何かしら似たようなことをやっているはずだ。今日はともかくいつもバカ真面目に全てをギルドに渡していたとは思えない。
じいさんに色々聞くにしてもまずは信用を得る必要があるか。まさかとは思うが、じいさんが奴隷のふりした管理側の人間なんてこともあるかもしれない。
生きていくための知識はいくらでも欲しい。現状ではじいさんに頼るしかない。俺が何歩でも譲歩して信用を積まないとな。
しかし掃除よりも疲労も少ないし、採取班はかなりいいポジションかもしれない。
あとはやんちゃな魔物が登場しないことを願うばかりだ。
あぁお腹すいたなぁ。ペットの餌でもいいから食べたいっす。仕方ない。いつも通り水で腹を満たすとするか。それだって飲みすぎがバレたら殺されるんだ、泣けてくるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます