第78話 八方塞がり
モリカは追跡系の魔法ではないか?と話してくれた。あらかじめ追跡したい相手に魔法をかけておくと、その相手がどこに行っても居場所が分かるらしい。
ただ魔法の有効範囲はよく分からない。島での修行中に試したこともあるらしいが、近くの集落の人が自分の家に帰るまでの距離はいけた。そこから先はモリカにも分からないとのこと。
精霊女の使った魔法がモリカの使った魔法と同一のものとしても、やはり肝心なのは有効範囲だ。いやーまいりました。魔法の特定ができない以上、対策のレベルもそれなりのものになってしまうよね。
って言うかそもそも追跡の魔法は事前に相手にかける必要があるんでしょ?だとしたら俺はあの精霊女と会ったことがないとおかしい。もちろん俺の記憶にあんな精霊女はいないよ?相手が一方的に俺を知っているだけとか?
今から追跡の魔法をかけさせて下さいなんて言って目の前で魔法を使うバカなんかいるわけないから自然に考えればそっちか。
あるいはモリカかママさんに魔法がかけられていて、それを追ってきたという可能性もあるし、別の追跡魔法の可能性もあるし・・・。
モリカとママさんに聞いてみたが精霊女については会った事ないはずと言われた。あそこの島はオープンだから色々な人が出入りしていた。その全部を憶えているはずもない。聞いても意味がなかったな。
「モリカが使ってた魔法だと同時に何人追跡できるの?」
「えっとね。何人でも出来るよ。その人を思い浮かべると大体の方向と距離が分かるの。あっ、でもその人を忘れちゃうと追跡できなくなるのかなぁ?」
モリカはその魔法を数回試しただけ。詳細不明か。ただ複数の相手に魔法をかけることができるのは間違いないようだ。
ママさんかモリカを追ってきたのなら俺だけ逃げれるかもしれない。が、さっき精霊女と会った時に俺にも魔法をかけたとするともうダメだ。
飲料水がなくなって完全に動けなくなる前に何かしらの手を打たなければならない。暗殺者キーンにジョブチェンジしたところで、勝てる確率は相当低いな。
精霊女だけならいけるかもしれないがあのネコの動きは異常だった。現状あれに勝つ手立てがない。俺の左腕をご馳走した格好だがそれで満足してはくれないよな。
「キーン君。モリカの誘拐犯達を空から落としていたでしょう?ああいう風に色々な場所から外に出れば移動できるんじゃないの?」
「ママさんそれは出来ません。中からは入った場所と同じ場所にしか出口を指定できないんですよ。好きなところに出られればいいんですが無理なんです」
ここでも素敵な閃きは訪れず・・・か。いや待てよ、換気に気を取られて出入り口を開くのを我慢していたが、外の音だけ拾うことは出来る。なんてバカなんだ俺は!いまさら気づくなんて。
遅くなってしまったとはいえすぐやるべきだ。こちらからは何も出ることを許さない、外からは音が入ることを許可する。地獄の扉オープン!
ママさんとモリカは急に現れた黒い扉のようなものに驚いている。内側からならこれが見えるんだよね。この謎仕様のおかげで助かってます。
「外の音が聞こえるようにしました。今までこれが出来ることに気がついていなくて・・・こちらの音は外に聞こえないので大丈夫です。音で外の様子を窺いましょう」
二人と一緒に外の音に注意してみる。話し声はおろか魔物や虫の声も聞こえない。風と草木の揺れる音っぽいものが聞こえるだけだ。
「僕が後で偵察に出ます。ヤツラの姿がなければ移動、一人現れたらそいつを始末、二人以上なら何もしないでここに戻ってくる。どうでしょうか?」
ママさんは黙って頷いた。モリカは何か言いたそうにしていたが我慢したようだ。食欲はないが保存食を食べておく。もう時間の感覚がないが、外が真っ暗だったら嫌だなぁ。
「キーン。大丈夫?つらそうだよ?もっと寝たほうがいいの!」
「モリカありがとう。ホントに大丈夫だよ。モリカこそ大丈夫?疲れてるでしょ?」
「ううん。わたしは平気。くさいのも慣れた!」
確かに鼻がバカになってきた。なんでも慣れるもんだな。
「それにこの部屋ってなんか不思議なの。島と同じ感じがするの。落ち着くの」
なんとも言えない表情でモリカが呟いた。あらら、島での生活を思い出しちゃったか。しかしモリカちゃん妙なことを仰る。この部屋が島と同じ感じ?
「島と同じ感じってどういう意味?」
「え?島と・・・なんか・・・ママ!ママもそう思わない?」
「なに?この部屋の感じ?そうねえ、そう言われるとなんだか不思議ね。何かに包まれているというか、見られているというか、そんな感じがするわね」
ママさんまでそんなインスピレーションを?いつからそんな感受性豊かな芸術家みたいになったんだ?え?島にいた時から?ですよね。疑ってごめんなさい。
それにしても「自宅」が島と似ているって?なんだそりゃ。実は「自宅」も聖域でしたってか?となると俺は「自宅」の神様に大出世か。
汚物でにおう神殿と左腕を失って逃げ続ける11歳の神様。そして信者はゼロ。なかなか立派な神話が誕生しそうじゃないか。
二人の感覚を否定する気はないけど・・・ないけど・・・そうだ、前にキラクルの野郎も俺の魔法について似たようなことを言っていたな。銀貨がミスリル化したなんて事件もあったわけだし。
なんの脈もなくてすっかり忘れてたけど、「自宅」には濃密な魔力が溢れているのでは?なんて考えたこともあったよね。二人はその魔力的な何かのことを言ってるのかな?俺は今までそんなもの感じたことないんだけどなぁ。
やれやれ。今重要なのは逃げるための策だ。このことは生き残った後で考えよう。それとも逃げるための何かに役立つかな?うーん。溢れる魔力を使って神様キーンによる「祈り」ばりの魔法無双か。
ハハ、北極に海パン一丁で乗り込んでいくぐらいあり得ないな。ちょっと笑えて気が楽になったところで偵察でもして見ますか。
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