第74話 応答アリ

夜のお外でキャンプ中のキーンです。夜番を頑張ってます。町から近いとはいえ魔物が全くいないわけではない。ほら耳を澄ませば何やら鳴き声が聞こえるでしょ?

ネズミ型の魔物だ。虫の鳴き声に埋もれてしまいそうだが、聞こえたよ?


ママさんの治癒魔法という保険もあるからネズミごとき怖くない。積極的にナイフと短剣で相手した。すばしっこくて結局逃げられたけどね。


改めて自分の立ち回りの未熟さを思う。まだ子供なんだから仕方ない部分はあるが、魔物は俺が子供だからと見逃してくれるわけじゃない。少しずつ粘り強く訓練するしかないのは分かるが、もっと一気に強くならないとやばいな。


家族や仲間や何かの共同体に属しているならともかく俺はひとりだ。焦っても何も解決しないけど焦る。イライラする。「自宅」を使った緊急避難だって今は使えないんだぜ?攻撃魔法でも使えたらなぁ。


牛っぽいやつとか、スライムみたいな魔物も姿を見せた。初見の魔物だし、なかなかのサイズ。俺の手には負えない。さっさと「自宅」に放り込んだ。


現状では俺の命令を一切聞かない召喚獣こと、ナナシ及びモリカ拉致犯のみなさんにプレゼントだ。牛なら食用にもなるし最高だよね。


日が昇った段階でママさんとモリカを起こし、簡単な朝食を食べ、すぐに出発する。休憩しながら移動を続け、昼食を食べて少し長めの休みをとることにした。さてさて、今回こそ彼等が何か話してくれるといいんだけどなぁ。


「みなさんこんにちは。先程の魔物のプレゼントは気に入ってもらえましたか?貴重な食料なんですから当然喜んでもらえたでしょうね?さて何か話す気になりましたか?自分の墓碑銘はこうしてくれ!なんて相談でも一応は聞きますよ」


「頼む!ここから出してくれ!俺達はただの冒険者だ。金で雇われただけでこいつらとは関係ないんだ!」


「おぉ、聞こえた。自称冒険者さん、聞こえましたよ。まだ生きていたんですね。僕は皆さんの姿を見ることは出来ないので誰が生きているのかも知らないんですよ。今声を上げた人の名前はなんでしょう?」


「俺の名前はマールだ。あんたはキーンさんだろ?頼むよ。出してくれ!」


「それでマールさん。なかでは何人が生きていますか?」


「全員生きてるよ。五人だ」


「巡礼の女も後から放り込んだはずですが、生きているんですか?」


「あぁ、俺達に指示してたヤツとその巡礼の女はこっちで抑えて生かしてある」


「なぜですか?」


「あんたとの交渉に使えると思ったからだ。あんたはこいつらから話を聞きたいんだろ?」


「うーん。いや、どっちでもいいんですけどね。聞けても聞けなくても。それで今まで黙ってた理由はなんですか?抑えて生かしていたというならもっと早く返事できたでしょう?」


「あんたが何をしたいのか分からずに迷っていたんだ。巡礼の女に聞いても分からないとしか言わないからな」


「へー。僕は返事してくれと言っただけなんだけどなぁ。まぁいいか。マールさんだっけ?外に出たいんですか?」


「そりゃ。もちろんだ。出してくれるなら俺達はおとなしく引き下がる!」


「なるほど。それはいい心がけだ。僕も悪魔じゃない。まずはマールさんだけ外に出てもらおう。仲間の人?も別々の場所だけど後で出してあげますよ。それでいいですか?」


「もちろんだ。感謝する!」


「じゃあこれからそっちに黒い扉みたいなのが出るからそこを潜って下さいね。もちろん武器関係は全てそこに置いていって。あ、あと頭は最後じゃないと出られませんよ?じゃあ、はいどうぞ」


首から下が出てきて最後に頭が出た。

お?ちゃんと丸腰で出てきたんだな。武器を持って出ようとして「自宅」に引っかかると思っていたが。まぁ「身体強化」があるなら子供相手に武器なんていらないか。


「うぉ!」


出口はもちろん空中に設置した。地上20メートルといったところかな?

さて彼はどうなることやら。


わお。さすがの「身体強化」だな。派手に地面に激突して弾かれたがちゃんと生きているぞ。骨折すらしていないのかな?それは困るんだけど。


一応無傷の可能性も考慮して冒険者落下地点から100メートルほどは距離をとっている。すぐにこちらに襲い掛かってきてもなんとかなるだろう。・・・たぶん。


多分ではダメか。なんとかならない場合はこっちが死んでしまうよ。空中から落ちて地面に倒れているマールとやらを肩まで「自宅」に沈める。肩より下だけ「自宅」へ入ることを許可すれば、こうして拘束系らしい使い方もできる。うん。素晴らしい。


俺はもう「自宅」無しでは生きていけない体になっちまったよ。「祈り」に呪われたなんてキラクルをあざ笑っていたが、俺だって同じなんだな。


いや、この魔法ってやつが曲者なんだ。俺の「自宅」が魔法かどうかは置いておいて、こいつは確かに自分自身の力のはずだが明らかに異常な力だ。


魔法使いとそうでない者との力の差が大きすぎるよね。もはや同じ種類の生物とは思えないレベルだ。神がいるとして・・・魔法が神に与えられたものだとして・・・モヤモヤするわぁ。魔法なんて無い方がいいだろ。あるなら誰でも使える力でないとさぁ。ムカつくわ。


俺が魔法を使っているのか、魔法に俺が使われているのか?永遠の問題だな。考えても答えの出ないことを考えても無意味だ。だが後味が悪い。魔法は素晴らしいと依存しつつ後味が悪い。うん無意味だ。止めよう。


マールのところにゆっくり歩いていく。オイオイそんな、なんで?みたいな顔するなよマールのおっさん。子供一人さらっておいて、タダで帰れると思ったのか?むしろこっちがなんで?って言いたいよ。無事にお家に帰れると思っていたのか?


さて詳しいお話を聞かせてもらおうじゃないか。その後はママさんとモリカによる裁判が待っているからね。その辺をよく考えて喋ってもらいたいな。


「マールさんかな?そうじゃなくてもいいや。分かりますよね?あなたは今断崖絶壁の淵にいるんですよ?ほらここにいる女の子の力でもちょっと押してあげれば奈落の底って具合です。ちゃんと話をしてくださいね?」


ナイフをひらひらさせながら拷問を匂わせる11歳児って・・・何しでかすか分からなそうで怖いよねー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る