第75話 魔法は毒です

モリカ誘拐犯3人を順番に尋問したが 大した話は聞けなかった。ヤツラの主張は金で雇われただけの冒険者、他に知っていることは何も無いという一点張りだ。


仕方がないので何回か空から落ちてもらったよ。ママさんもモリカも絶句していたがこれは譲れない。身体強化の魔法使いが三人も集まっているのに、ただの冒険者だなんて言い訳はあまりにふざけている。こいつらは金に困るような人間ではないはずだ。


ある程度痛い思いをしてもらって再び「自宅」に放り込んだ。さすがにこれで解放するわけにはいかない。しばらく放置だ。


後は冒険者を雇っていたと思われる人物とナナシの二人か。こりゃどちらにも期待できないな。もう全員始末してしまうしかないのか?


二度とこちらに関わってこないならばこのままお帰りいただくところなんだけど。そんなお気楽流に生きていければどれだけいいか。はぁ面倒だ。


キラクルみたいな静かな狂信者が死ぬまで追いかけてくるなんて悪夢は見たくないのに、こいつらを生かして返すと悪夢が現実になるだろう。


待っているのは泥沼の暗闘。圧倒的に分が悪いし勝つ見込みゼロだわ。今までなんとか人を殺さずにやってきたがここらで限界か?連中を殺そうと思えばやれるだけの力が俺にはあるってところがお悩みポイントだ。


やはり魔法は色んな意味で危険だよ。こんなことになった原因の一つはやはり俺の魔法なんだろうし、その解決にも魔法を使おうとしている。


魔法は確実に俺の精神をむしばんでいる。いまに血に飢えた殺人狂になってしまうかしらん。あらゆる言い訳で自分を納得させて正当化しはじめる画が見える。まるでキラクルが神様神様と言っていたように、盲目的に手段は選ばず・・・。


一刻も早く魔法に変わる力を手にしたいよなぁ。もちろんそんな力はひとつしかない。皆さんご存知の、そう金だ!


魔物狩りでかなり稼いだとはいえまだまだ足りない。もっと金が欲しい。マネーを積み上げたいんだ。金貨で倍プッシュしたいんだよ!あの魔法の金属が俺を呼んでいる声が聞こえる!みんなにも聞こえているはずだ!


チャリーンチャリーン!


よし!分かってる。すぐに行くぞ!待っていてくれ。頼むから!頼むから待っていてくれ!すぐだ、ダッシュですぐに行く!待ってくれ!頼むよ!このとおりだよぉ!


ハッ!ショートトリップしてしまった。現実から目を背けたい気持ちがオーバーフローしたな。だが分かったよ。お金も魔法と同じってことか。過ぎた力は己を滅ぼす。お気に入りのスキルだったがあいつらは封印したほうが良さそうだ。


「ばら撒き」そして「倍プッシュ」よ。お疲れ様。ここぞという時には登場してもらうからな?永遠のお別れではないよ。俺がお前らを使いこなせるだけの器量を備えたら・・・その時また会おうぜ。


で、なんの話だったっけ?えーとそうか、「自宅」内の連中の話か。期待はできないがとりあえず残りの二人の話でも聞いてみるか。


「モリカ拉致の親玉さん?聞こえてますよね?次はあなたの番ですよ。外に出たいのなら返事をして下さい。そんな気はない、または誰かに痛めつけられたり殺されたりしているのなら巡礼女さんが返事して下さい。どちらも返事するつもりがないならそのままそこで死んでもらいます。最後の機会です。十秒待ちます」


ろく、ご、よん、さん。


「俺だ。ここで死にたくはねえ。知っていることは話す。ここから出してくれ」


「分かりました。ではまず頭だけ出してください」


これで他の連中には俺達の話は聞こえない。


「大丈夫なようですね。では質問するので答えてください」


話しを聞いてみたが、親玉さんは汚れ仕事を請け負う組織の下っ端の使い走りだということだ。上からの命令でモリカ拉致を実行したが、依頼主やモリカ拉致のあとのことについては何も知らないという話だ。


「お嬢ちゃんにはすまないことをした!なんとか許してもらえないだろうか!」


俺は黙ってニセ親玉の鼻のあたりに蹴りを入れる。


「お前が下っ端の使い走りだと?魔法使いのお前が?どこの巨大組織で働いていたらそんなことになるんだ?随分舐めたこと言ってくれるじゃねぇか。つまりこれはあれか?どうか殺してくださいっていうお願いを遠まわしに俺に伝えてるってことでいいのか?いいんだよな?そうとしか思えないものな」


「なっ!そんなことは言ってない!何か誤解があったようだ!蹴るのを・・・やめてくれ!やめてくれ!」


「誤解なんてどこにある?冒険者の野郎もそんなこと言っていたがな。身体強化の魔法を使えるヤツが三人だぞ?なかなか集まるもんじゃない。そんなヤツラが子供の拉致なんてするからには、まず普通の冒険者じゃないだろうよ。なのにヤツラは金で雇われただけの冒険者だなんてほざく。誤解か?俺の誤解なのか?なぁお前。俺が間違ってるのか?」


「あいつらのことは俺もよく知らねぇんだ。あいつらを連れて行けと言われただけなんだ。嘘じゃねぇ!」


「3人の冒険者のことはまあいい。お前の話を続けよう。喋りたくないならそれで構わない。俺にとっても聞かない方が気分的には楽かもしれないしな。どうする?お前が決めろよ」


「話すとも!もちろん喋るが・・・それで俺はどうなるんだ?話が終わったら俺を殺すのか?」


「話の内容によるな。だが話をしないなら間違いなく死んでもらう」


ニセ親玉は少しずつ話しを始めた。ナイフを握り、時には軽く切りつけ、蹴りを入れながらそれを聞く。こんなヤツラの話すことなんて信じられないと決めているのに一応聞いたよ。


この状況は誰のせいだ?俺の?こいつの?ナナシか?または聖域が?白か黒かだけじゃない。混じりあっていてもう何色か分からない。分かっているのは俺も着実にクソ野郎の仲間入りをし始めているってことだ。そしてこれからどんどん深入りするはめになるんだろうよ。クソッタレ。

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