第73話 次いってみよう
「ではここで真面目な相談です。率直に言ってママさん達はこれからどうするか何か考えはありますか?巡礼女の始末はこちらでつけるのでそこは無視してもらって大丈夫です」
「そうね。また島に戻るのは無理でしょうね。私の実家もダメ。となるとモリカを連れてどこか遠くの町に行くしかないと思うわ。治癒魔法は使えるからそれで生活はできると思うの。今思いつくのはそれぐらいだわ」
治癒魔法で生活か。それは結構危ないんじゃないか?
「ママさん。とりあえず歩きながら話をしましょう。ひとまず北に抜けます」
モリカにもわかるように魔法を使ったお金稼ぎの危険性を伝える。ママさんの魔法は攻撃魔法ではないのだから、ママさんを利用しようと考える連中からしたらいいカモだ。
この国の現状に詳しいわけではないが、貴族連中だって黙っていないだろう。逆を言えば権力者に保護してもらえる可能性も結構な確率であるということ。それでもあの島と無関係かつこれからもそうだろう人物を選ばなければならない。ハードルは相当高い。
「言われてみればそうね。ありがとうキーン君。私も結婚するまでは島の外で暮らしていたとはいえ湖周辺から離れたことはなかったの。大きな町や貴族様なんて想像もしていなかったわ」
「いえ、これくらいは当然です。それと失礼ながらこれを受け取ってください」
「これは・・・キーン君。そこまでしてもらうわけにはいかないわ。これは受け取れません」
「当面のお金はどうしても必要でしょう。しばらくは旅をしなくてはいけないのだしモリカもいます。僕が島でお世話になった分の代金だと思ってください。狩りで稼いだお金はあまり使っていないので、僕にとっては大した額ではありません」
銀貨で50枚ほどをママさんに無理やり渡す。島にいた3ヶ月ほどの稼ぎを考えれば安いものだ。それにこれは俺自身のためでもある。この先何が起こっても最低限の義理は果たしたと自分に言い訳できる。
「キーン君。何から何まで本当にありがとう。でもあなたはこれからどうするの?よかったらこれからも私達と一緒に暮らしたらどうかしら?あなたはまだ子供なのだし大人と一緒の方がいいわ」
「そうよ。キーン!これからも私達と一緒にいこうよ!」
悪くはないがそれほど良いってわけでもないんだよなぁ。気持ちは嬉しいけど。この二人が完全に味方だと決まったわけでもないし。次の囲い込みのために誘われている可能性だってある。
二人は白だと思ってるけど、そんなこと関係なしに敢えて二人と生活する必要もないっていうのが本音だ。生きていくだけだったらひとりでもなんとかなりそうだからね。
「その言葉はありがたいけど、僕はひとりでなんとかやっていきます。二人とはどこかの町でお別れです」
「そう。分かったわ。でも気が変わったらいつでも言って頂戴ね。しばらくは一緒にいてくれるんでしょう?」
「そうですね。今日はなんとか北の町まで進みましょう。食料もあまりないので僕が町で調達します。二人は町の外で待ってもらって、合流後にどこかで野営。こんな流れでどうですか?」
「もちろん大丈夫よ。モリカが疲れたら私がおぶって歩くわ。キーン君には迷惑かけるけどよろしくお願いします」
冷血な俺でもそれぐらいはするよ。俺に被害がない限り二人には幸せになって欲しいからね。見捨てていこうと考えたのはただの選択肢のひとつだよ?本気ではないのだ!と思う。
幸い天気も悪くない。これなら日没前に町に着くだろう。モリカの機嫌も少しとりつつどんどん歩いていく。なんとか町に到着して必要なものを買い揃え、二人とすぐに合流して街道を東へ。暗くなる前に適当な場所で野営の準備をする。
こんな町から近い場所で野営するのもおかしいが、火を使わなければそんなに目立たないだろう。
ご飯を食べてママさんに周囲の警戒を頼む。俺は「自宅」でお待ちの皆さんとお話の時間だ。
さぁみんな!元気にお返事できるかな?こーんにーちわー。あれ?元気がないなぁ。もう一度いくよ?こーんにーちわー!
チッ。ノリの悪い連中だ。黙っていたって何も解決しないよ?向こうからの声がこっちには聞こえないとかはないよな?
「何も喋る気にはなりませんか?僕はそれでも構いませんけど。持っていた水や食料だってそんなに多くはないでしょう?あぁできれば排泄物はうまいこと処理しておいて欲しいですね。そこがあなた達の墓場になるかもしれないんですから。どうせならきれいな場所で死にたいでしょう?」
返事がない。まさかもう全員死んでいるとか?覗いてみたいけどリスクが高いからそんなことはしない。
「何か話す気になったら遠慮しないで話してください。魚心あれば水心ありですよ。次はまた半日後くらいに声をかけます。それでは」
こちらが下手に出たら調子に乗るだろうからチャンスはそう与えないよ?ママさんとモリカには話し合いが出来なかったことを伝え寝ることにした。
交代で見張りをしようかとも思ったがここはまぁ俺が我慢するか。最悪昼間に寝ることにすればいい。二人には寝てもらって俺は見張りをする。
朝まで色々ぼんやり考えながら暇をつぶした。日が昇って二人を起こしてご飯を食べて野営道具を片付けたらすぐに出発。
街道は北東に伸びているので仕方がないがそちらに向かう。ママさん情報ではこのまま進めばかなり大きな町に着くとのこと。
そこから先はママさんも知らないらしい。じゃあそこの町で情報収集だな。途中に小さな村なんかもあるだろうから食料はなんとかなるだろう。
問題は「自宅」のなかの荷物だ。魔物が現れた場合「自宅」を使い難い。もちろん危なくなったら躊躇なんてしない。魔物のだろうがなんだろうが「自宅」に沈める予定です。
「自宅」で待機中のみんなには運動も大事だよね。新しいお友達が来ても仲良くやってよね。
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