第72話 島から出ればこっちのもの
キラクルは本当にママさんを捨てるようだ。体面を保つためにもなんやかやと誤魔化すかと思ったが意外だな。所詮はこんなものか。
モリカはママさんにぴったりくっついて離れようとしない。ナナシは相変わらずの無表情だが苛立っているのが雰囲気で分かる。
「リンカー殿のことは私には関わりのないこと。承知しておいてくれ」
誰に向けて言ったのか不明だがナナシはそういうと出発だと歩き始めた。誘拐犯は引き渡さないのね。忘れてるんだか、わざとなんだか。
ママさん、リームのことは諦めたのかな?まぁキラクルがあの調子じゃ無理だろうな。あまりはしゃぎすぎるとまた「祈り」が始まっちまうもんな。
こわいこわい。神様に縛られた人達か。ドMの人にはたまらないんだろうさ。ママさんとモリカはある意味解放されたと言っていいだろう。
解放されたとはいっても自由になるって意味じゃないところがつらいな。ナナシはモリカをどうするつもりなのか。
ヤツラの目的はよく分からない。まぁいいさ。楽しむだけ楽しんだらこいつらとはオサラバしよう。だって俺にはこいつらの都合なんて関係ないもん。
「ママさん。大丈夫ですか?リームのことが心配でしょう?」
「キーン君。私は今になってやっと目が覚めたのかもしれないわ。モリカがさらわれるまでは何の疑いもなかったし、聖域での生活に誇りを持っていたのにね。私はライン一族としては失格なのだわ。けれど後悔はないの。リームのことは確かに心配だけれど、神様との繋がりをあの子はきっと捨てられない。夫もそれを許さないでしょうね。だから今はせめてモリカのそばにいてあげたいの。キーン君にはとても酷いことをしてしまって、謝っても許してはもらえないでしょうけれど」
「ママさん。僕はあなたに何かされた憶えはありませんよ。むしろとてもお世話になって感謝しています。残念ながら僕も色々余裕がないのでママさん達のお力にはなれないでしょうが、事が丸く収まることを祈ってますよ。あの島の神様とは別の何かにね」
「あなたは本当に不思議な子ね。今の状況だってしっかり理解していてそんな皮肉まで言えるなんて。私は不安で一杯だわ。モリカだけでも助けられればいいのだけれど・・・」
これが母親の覚悟というやつかな?危険だと分かっていてついてきたのだからな。だけど俺はそんなママさんでさえ心の底では信じていない。
いきなりリームを置いて島を飛び出すなんてちょっと嘘っぽいし、もしかしたらキラクルの魔法で洗脳されてますなんて可能性だってある。合図一つで敵に早変わりなんて冗談はどこかのマンガだけで十分だ。
島を出てひたすら歩き続ける。近場の集落には寄らずに東へと進む。ふぅ。これで俺も「祈り」から解放された。神様さようなら。俺は祈らないから、こっちのことも無視してくださいね。
ところでどこへ向かっているのかな。ここでナナシを始末するか迷う。もうちょっとこの酷く乱暴なお話の続きを読みたいという気もするが、このままナナシの言う通りにしていては危険がどんどん増していく。どこまで付き合うかが問題なわけだ。ナナシに探りを入れてみるか。
「巡礼者さん。俺はこれからどうなるのかな?島も出たことだし少しくらい話してくれてもいいんじゃないか?」
「駄目だ。キミは何を考え出すか分からないからな」
ヒントはゼロか。ケチなやつだ。この調子だといつまで経っても教えてはくれないだろう。よし、ここらでひとつ話を整理しますか。ナナシは飛べるかもしれないからヤツの歩いてる正面に向けて・・・「自宅」発動!
ナナシは半分「自宅」に入ったところで急停止。俺はダッシュからのケツキックでヤツを「自宅」に蹴りこむ。他愛ない。突然消えたナナシにママさんとモリカは驚いてあたりを見まわしている。
「ママさん。問題ありません。僕の魔法です」
念のため自分とママさんの間に「自宅」の扉を用意しておく。お願いだから大人しくしておいてよ?あんたらの相手までするのは嫌だよ。
「キーンの魔法?パパに封じられたんじゃなかったの?」
「僕も分からないよ。だけど使えるみたいだったから使った。二人は僕と敵対する?出来れば止めて欲しい。うん、了解。そしたらモリカはママさんと周囲を警戒していてくれ。今から巡礼の女に話を聞いてみるからさ」
二人が頷くのをみて「自宅」を目の前に発動し直す。俺の声はなかに聞こえるはずだから、あとはなかにいる連中の声だけ外に出るのを許可しよう。上手くいくかな?
「どうも。巡礼女とモリカ誘拐犯の人達。聞こえますか?」
返事がない・・・聞こえてないのかな?またはナナシはあいつらの仲間ではなくて、二者が睨みあって俺に返事する余裕がないとか?ナナシが現在進行形でボコボコにされてるという線もあるか。でも争ってる音は聞こえてこない。一瞬で殺されちゃったかな?
「黙っていても外には出られませんよ。またあとで声かけるのでその時は素直に返事してくださいね。ではでは」
なかで何が起こってるのか知らないが、とりあえず日が暮れる前にどこかの村なり町なりに移動したいなぁ。ただ湖周辺の集落関係は避けたほうがいいことを考えるとちょっと厳しそうだ。
俺の荷物は持ってこれたがママさんなんかは着の身着のままで来たから、防寒すらままならないだろう。俺の野営道具だけじゃ足りないし、食料もほとんどない。
「ママさん、ここらで危なくなさそうな村なり町に心当たりありませんか?」
「湖周辺の集落は駄目でしょうね。私の故郷でも安全とは言えないわ。北に半日ほど歩いて大きな町があるけれど、そこだって私とモリカを知っている人はいるはずよ。近場では思いつかないわ」
そうだよなぁ。出来ればこのまま東方面に行きたいけど、ナナシが目指していた方角だからちょっと嫌な感じがする。
ここから島の方に戻って湖を西回りで抜けるのもかなり面倒くさい。本格的な山道だしひたすら集落という名の監視所が続いているからね。
やはり一度北の町まで行ってそこから東なり南東に抜けたほうがいいかな?いや!待った。ママさんとモリカの面倒を俺が見る必要はない。
ここでバイバイって手もあるよな。俺一人なら集落を経由しても問題はないだろう。うーん。やっぱりちょっとないよね?キラクルはともかく世話になったのは間違いない。モリカ救出で恩を返したとも考えられるけど・・・あたためてもらった情の分がまだ残ってると思うことにするか。
ちょっと二人と相談タイムだな。久しぶりにジャンピング土下座の出番かな?それぐらいは俺にとってなんでもないさ。
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