第71話 家族バラバラ

「リンカー!もう部屋に戻るんだ。明日ゆっくり話をしよう」


「キーン君。どういうこと?モリカをさらった人達と巡礼の方が裏で繋がっていたって?それって、それじゃあ・・・」


「さぁ、僕は知りませんね。ただそこの女とあなたの旦那は僕を拉致すると言ってるじゃありませんか。使命だかお役目だか知りませんが、子供をさらうことなんてこいつらにとってはなんてことないんですよ。通い慣れた道ってやつですかね。あとはちょっと想像するだけです。純度100%犯罪者の巡礼女と、その登場に合わせるようにやってきたモリカをさらおうとした連中。いかにも過ぎて嘘くさいですが、怪しいとは思いませんか?」


適当に始めた話だが、案外悪くない連想だな。もしかしたらある程度は当たっているかもしれないぞ。


「キーン君。キミはもう黙れ。まだお喋りがしたいならもう少し苦しんでもらう」


ナナシ女から警告入りましたー。せっかく面白くなってきたのにな。だが疑惑の芽は植えさせてもらった。もう少し育てたいな。


「ママさん。僕は自由にお話する権利すらないそうです。こういうときは誰に祈ったらいいんでしょうね?知り合いに神様とかいませんか?ハハハ」


ママさんはキラクルに連れられて半ば無理やりに部屋を出ていった。それを確認してナナシが話しかけてくる。


「キミは随分口が達者だな。とても11歳とは思えない。興味深い」


「興味深いねぇ。それってつまり俺の魔法がってことなんでしょ?それ以外には思いつかないからな。それで俺はどこぞで人体実験でもされるのかな?人を切り刻むのが使命です!なんて連中にさぁ。人をさらうのが使命のアンタのお仲間はさぞ崇高なお仕事をしてるんだろ?」


「キミにもその内分かるだろうが、今は何も言えない」


「そうかよ。ところであんたのお仲間はどうするつもり?俺の魔法に捕まったままだけど?」


「それは私の仲間ではない。どうなろうと私には関係ないことだ。キラクル殿が引き取るのだろうな」


「俺はいま魔法が使えない状態なんだけど?どうやって連中を引き渡せばいいのかな?魔法封じを解くのかな?そしたら俺はすぐにでもあんたに復讐したいなぁ」


「キミの魔法のことは聞いている。視界の範囲にあるものしか捕まえられないのだろう?もちろん別の保険もかけるが、問題ないだろうな」


ほう?保険ねぇ。どうせ祈りの魔法で押し通るって感じだろうな。まったくとんでもないな。今更ながらモリカがさらわれたのが疑えてくるよ。ナナシの野郎も攻撃魔法を持っていた。それなのに結果はあのザマだ。


やはり裏で繋がっていたか、あるいは連中の計画を知っていて見逃したってところか?モリカを誘拐したあとのビジョンがいまいち見えてこない。誘拐犯が現れたのと、俺の今の状態は全然関係がないのか?


「視界の範囲?へぇそんな制限があったのか。知らなかったよ。自分のことって意外と自分でも気づいていないことが多いからな。あんたはそうでないといいな」


「お喋りはもうおしまいだ。大人しく寝ていろ」


パパさんが戻ってきて部屋には三人。キラクルをつついてみたいがナナシが許さないだろうな。またあの魔法をくらったら今度こそ頭が爆発しかねない。


次のチャンスを待とう。あーあ暇だなぁ。







そのまま朝を迎えた。途中少しだけ眠れたがあとはじっとしているだけのだるい時間を過ごした。気を利かせて小話の一つでも披露してくれてもいいのにさ。面白みのない連中だ。二人は交代で寝て俺を監視していたのでキラクルが起きている間に何か聞きだそうかとも考えたが、ナナシが本当に寝ているか分からないので止めた。もう面倒だわ。


「朝食だ。それを食べたら出発する」


ナナシと二人でご飯か。味気ないぜ。みんなで仲良くお食事にしましょとはならないか。


「立て。出発だ」


ご飯が終わってすぐ出発らしい。あれれ?キラクルに人さらい連中を渡すんじゃないの?ナナシのあとをついて神殿の外に出るとキラクル、ママさん、モリカがいた。このままお別れね。キラクルも「自宅」に沈めるつもりだったが、相手がナナシひとりになるならその方がいいか。


「ではキラクル殿。モリカは私が責任を持ってお届けする」


「お願いします」


モリカも一緒に行くのか?えげつないな。魔法が無くなったらポイか?


「私は納得できないわ!モリカは私が育てます!それで何の問題があるの?」


「リンカー。さっき説明した通りだよ。これはモリカの為になるし、ライン一族の為にもなるんだ。私だってモリカと別れるのは身を切るようにつらい。だが二度と会えなくなるわけじゃないんだから納得して欲しいんだ」


「それはアナタとそこの巡礼の方の考えでしょう?私はこれがモリカの為になるとは思えません!正直にいって今のアナタを信じられないの!今朝いきなりモリカを預けるって話を聞いたのよ。それに頷く母親がどこにいるの?納得しろだなんて冗談じゃないわ!よくもそんなことが言えるわね!」


「私達はもう出発する。申し訳ないがあとは夫婦で話し合ってくれ」


「ママ!どこに行くの?もう帰ってこれないの?やだよ!なんでわたしばっかりいじめるの?いやだいやだよ!」


「モリカ。あなたは私の大切な娘よ。どこへも連れて行かせないわ!アナタ!モリカを捨てるというなら私もここを出て行くわ!もちろんリームもよ!」


「リンカー。嫁に来たお前がライン一族の歴史を汚すと言うのかい?そんなことは絶対に許さないよ。出て行きたいなら一人で出て行くといい。リームはもちろんモリカにも大事な役目があるのだからね」


「キラクル!あなたって人は・・・見損なったわ。まさかこんな人だったとは・・・わかりました。私は出て行きます。モリカについていくわ」


うわぁ。揉めてるなぁ。まぁ当然だよね。ママさんがかわいそうだ。キラクルの暴君っぷりも大概だわ。頭のなかは神様のことで一杯。お花畑でみんな幸せってさ。


夫婦喧嘩はまだしばらく時間かかるのかな?なんでもいいから早くしてくれよ。

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