第70話 話はまだ終わってない

頭いてーっす。これ後遺症とか残るんじゃないのか?パパとママ。俺が痛めつけられている場面を子供二人が見てるわけだがあとでなんて言い訳するんだろうな?当ててやろうか?全ては御心のままに、だろ?まさに免罪符。実に子供想いのいい連中だぜ。


「キーン君。私の魔法を今から解くが落ち着いて話を聞いて欲しい。キミを痛めつけるのが目的ではないのだから」


「ハァハァハァ。で、話ってなんだ?さっさと済ませろよクソ女」


「それがキミの本性か?ずいぶん下品だな。まぁ構わん。話をしよう。キミにはこのまま私と一緒に島を出てもらう。その理由もどこへ行くかも今は言えんが決して悪いようにはしない。キミの身の安全は保障する。出発は明日だ」


「ハハハ。面白いな。大事な話とか言っておいて内容は俺を拉致するっていう犯罪行為じゃないか。とんだ詐欺集団もあったもんだ。親子ぐるみで子供を捕まえさせて、それを引き取るのがあんたの仕事ってわけか。ずいぶん立派な仕事なんだな?聖域とか神様とか語ってくれちゃってさ、それで子供の興味を引いておいて拉致か?それについて神様は何て言ってんのかな?褒めてくれてるんだろう?」


「これは我々の使命なのだ。今キミにそれを理解してもらおうとは考えていない」


「気が合うじゃないか。俺もあんたらの使命なんぞ理解したくはない。そしてキラクル!モリカを助けたお礼ってこのことか?娘を助けてくれたお礼にキミを拉致してあげようってオチなんだな。実にお前らしい冷淡なプレゼントをありがとよ。俺が神様だったら今すぐお前との繋がりを切るぜ。そうしないお前の神様とやらは俺にとって悪魔以外の何者でもないがな。いやお前にとっても同じか」


ナナシは無表情、キラクルは黙ったままだ。煽っても情報は出てこないか。もうキラクルが敵でも味方でもどうでもいいな。


腹は立つが現に「自宅」は使えるわけだし、ヤツに直接危害を加えられたわけでもない。ナナシに引き渡すために俺をこの島に引き止めていたとしても許してやろう。


この島に留まることを決めたのは俺自身だし十分楽しめた。リームとモリカは純粋に友達だしね。そこはあえて疑わずにいたいよ。


俺は手足を拘束され床に転がされた。ママさんは子供二人を連れて自分達の部屋に戻ったようだ。キラクルとナナシはここで俺を監視しながら寝るつもりらしい。


もう一度「自宅」の発動を確認する。よし。使えるな。最悪の事態は回避できそうだ。なんだったら今すぐナナシを「自宅」に沈めてもいい。


安全にいくならキラクルもナナシと一緒に沈めたいところだが、そうするとママさんや子供達とも戦うはめになるだろう。


それはさすがに精神的にしんどい・・・ってハハハッ!事ここに至って他人の心配か?さっきまでの頭の痛みをもう忘れたのか?ママさんだろうが友達だった子供だろうが関係ない。キラクルはもう敵だと分かっている。なぜ躊躇するんだ?そんな必要ないじゃないか。


なら答えは簡単だ。このまま全員沈めてやる。それでさっさと島を出よう。くだらねぇな。ホント嫌な世界だよ。


方針も決まったことだし、頭のズキズキもあるしで一度のんびり休むことにする。昼過ぎから寝ていたから眠くはない。連中の始末の仕方でも考えようか。


現状「自宅」にはモリカをさらったバカが四人いるわけだから、ナナシもこいつらの仲間入りしてもらおうかな。そこで勝手に盛り上がってくれれば良し、そうじゃなくても俺に損はない。


さて、どうやって始末しようか。空から落として全身骨折の刑か?でもナナシはあの翼で空を飛べるのか?精霊族って感じではないけどあれだけの翼がある以上飛べると思っていたほうがいいか。あいつの魔法もまだよくわからんし確実にいかねば。となると「自宅」で放置しておけばいいか。


ギリギリまで弱らせてからどこかの町で捨てるパターン。悪くはないが、ヤツが弱るまで「自宅」の使い勝手が悪くなるんだよな。


「あなた、ちょっと話があるの。二人きりで話したいのだけど」


ママさんが子供達を寝かしつけでもしたか再びやってきた。


「今は駄目だよ。明日にしてくれ」


「それでは遅いのよ。キーン君のことなのだから。キーン君をこれからどうするの?本当に無理やり連れ去るつもりなの?モリカを助けてくれた恩人なのに?あなたどうしちゃったの?いつものあなたではないわ」


「リンカー。これは聖域の守人としての役目だと言ったよね?聞いていただろう?キーン君にはすまないと思うが、なにも彼を取って食うわけじゃない。明日またちゃんと説明するから今日は何も聞かないで欲しい」


「本当にどうかしてるわ。モリカが連れ去られた時の痛みはあなただって知っているはずよ。それなのにキーン君をモリカと同じ目に合わせるというの?他人の子ならかまわないとでも言うの?それに・・・それにこれは明らかに犯罪だわ。キーン君は奴隷ではないのよ?」


「リンカー、頼むから今日は我慢してくれ。明日になったら説明するから」


なんてつまらない家庭演劇だ。俺の心には1ミリも響かない。だが乗らない手はないな。何か分かるかもしれない。


「ママさん。気持ちはありがたいですけど、そいつには何を言っても無駄ですよ。そこのニセ巡礼者とよろしくやってるようなヤツなんですからね。それよりモリカをさらった連中の話を聞いてみたいと思いませんか?拉致が好きな連中同士、案外裏で繋がってたのかもしれませんよ?」


クソ演劇の第二幕は俺が上がるぜ。まずは道化の登場からだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る