第68話 帰宅

「モリカ怪我はない?」


「うん大丈夫」


「一人で歩ける?ここは危険だから早く島に帰ろう」


「うん。パパは?」


「パパさんは島にいるよ。分かってるだろう?」


モリカはそのまま黙り込んで鼻をすすっている。泣き止んだのはえらいぞ!まだ幼いのに自分の置かれた状況がわかってるな。都合はいいが、可哀想でもある。ともかく安全圏に移動するのが第一だ。魔物を警戒しながら島へ戻る。


途中でモリカ捜索隊に会えたので無事救出したことを伝え、近隣の集落へも連絡してくれるように頼んだ。夜中も動いていてくれたのかな?朝になったとはいえここら辺は魔物も出るのに・・・俺が言うのも変だが、有難いことだ。


ゆっくり歩いて島へ戻ると誰かが伝えてくれたのだろう、島の聖域ぎりぎりのところ?にパパさんとママさんが待っていた。


「ママ!パパ!」


モリカは走って両親に飛びつく。二人は泣きながらそれを迎えた。感動の再会ですな。反吐が出るぜ。その家族ごっこがいつまで続くことやら。


パパさん達は悪くないと頭では理解していても俺のイライラは止まらない。もう面倒だな。このままどこかへ旅に出ようか。


俺なんて所詮根無し草。吹けば飛ぶ木の葉のようなもの。一族の歴史だとか、聖域の守人なんてものに比べたら薄っぺらい11歳の孤児。


くどいようだが何度も繰り返し考えてしまうよ。パパさん、たとえあんたが何も間違ってなかったとしても、それどころか完全に正しかったとしても、俺はあんたを認めることはできない。


ぺらぺらで結構じゃないか。繋がりだなんだと随分偉そうに講釈たれてくれたが、そんな繋がりなんぞゴミ箱にポイだよ。繋がるなら自分の子供を見捨てない人達と繋がりたいもんだ。今あんたらが流してるその涙の、せめてその半分くらいは本物であって欲しいよ。


あーこうして考えていると余計に腹が立ってくる。自分の言葉で感情がエスカレートしているんだよなぁ。いくら年を重ねたところで感情のコントロールは難しい。


「キーン君!」


おっとパパさんに呼ばれてしまった。まぁ荷物もあるし一度は神殿に戻らなくてはな。三人に合流するとパパさんとママさんに深く頭を下げられた。


「キーン君。本当にありがとう。本当にありがとう」


その言葉に嘘がないと思いたいな。けれど俺は疑っている。


「まずは神殿に戻ろう。リームも待っている」


モリカはママさんにおぶさってまた泣いている。安心したのかな?だったらいいけど。余計なことは言わないでおこう。下手に口を開くと毒しか出なそうだ。


神殿に戻ると近場の集落から来た人達がたくさんいた。パパさんはモリカの無事を改めて伝え、お礼を言ってひとまず帰ってもらうことにしたようだ。


リームもすぐにやってきて笑顔でモリカと言葉を交わしている。ナナシも遅れてやってきて輪に加わる。そこまで見て俺は神殿の自分の部屋に戻り、荷物をまとめて外にでた。


「キーン君!どうしたのその荷物。どこかへ出かけるの?」


ママさんが俺に気づいて急いでやってきた。


「はい。そろそろ旅に出ようかと思っています。急で申し訳ありませんが、今まで大変お世話になりました」


「そんなの駄目よ。まだちゃんとお礼もしていないのに。あなたちょっと来て!キーン君が旅に出ると言ってるわ」


「キーン君。すぐ旅に出るのかい?でももう数日だけ待ってくれないか?話も聞きたいし、お礼もしたい。そんなに急ぐことないだろう」


リームとモリカも来て俺の出発に反対する。チッ、本当に面倒くさいなぁ。俺が神様だったらこいつらの脳から俺の記憶を根こそぎ消してるところなんだが。モリカの救出話くらいはしなければダメか。長いこと世話にもなった恩もあるっちゃある。


「わかりました。出発は明日にします」


これ以上問答したくなかったのでさっさと部屋に戻った。「祈り」で俺の感情も読めたりするのかな?できるならわかるよね?


いや、魔法なんかなくても俺の気持ちは分かるはずだ。分からないふりをしたいならそれでもいいよ。ガキがそんな複雑な感情を抱けるはずがないなんて思ってるんならそれでいい。俺もあんたらの感情なんて無視して黙って出ていくからさ。


空気を読んだのか昼食までは誰も部屋に来なかった。俺は次にどこに行くか考え中。昼飯の時間にママさんが呼びに来たのでご飯をいただくことにする。


「キーン君。キミは怒っているんだろう?当然だと私も思う。だがモリカは私達にとって大切な娘だ。キミには本当に感謝している。ありがとう」


「今までお世話になったお返しだと思ってください。そんなに何度もお礼を言ってもらわなくて大丈夫ですから。モリカを見つけたのだって偶然ですし」


神様との繋がりはモリカの存在より大切なんだもんね?それが分かってるから感謝されても素直に受け取れないよ。


「キーン。明日どこか行っちゃうの?なんで?」


モリカが悲しそうな顔をしている。そんな顔はやめてくれたまえ。そういう純粋なやつは今の俺にはダメージが大きいんだ。


「うん。いつまでもここにいるわけにもいかないし、ほかの場所も見てみたいからね。明日島を出ることにしたんだ」


少し可哀想だがモリカにははっきり伝えておく。


「やだ!キーン行っちゃやなの!」


モリカの言葉は無視して昨日の話を始める。モリカは聖域を出る前に魔法で敵にかなりのダメージを与えていたこと。その傷のおかげで敵さんが魔法を使い、発見の糸口になったこと。連中は俺の魔法で捕らえていることを説明した。


パパママからはモリカの魔法が失われたを聞いた。魔法に関しては家族で話し合って下さいね。別にそんな報告いらないよ。俺には関係ないので。


「キーン君。貴方に大事な話がある。あとで時間をもらえないだろうか?」


突然ナナシ女が話しかけてきた。なんだいきなり?この人は全く正体不明だからな。接点もなかったのに昨日の今日で大事な話ときたもんだ。胡散臭いな。


「申し訳ありませんが明日の準備で時間がありません。お断りします」


こんなのと今更関わりたくないからね。触らぬ神に祟りなし。こいつが神殿に来たタイミングとモリカが誘拐されたタイミング。疑い出したらキリがないけど、信じる理由も特にない。最早俺にとってここは敵地に近い。うんざりだよ。


「本当に大事な話なのだ。少しでもいいから時間を作って欲しい」


「正直あなたと僕との間にそんな大事な話があるとは思えません。すみませんが」


「そうか・・・ならば今ここで話を聞いてもらおう」


だから聞きたくないんだって!勝手なやつだな。俺はモリカ救出を奇跡的に成し遂げてものすごく疲れてるんだよ。お前らが取り逃がしたんだろ?そこら辺わかってる?ちょっとぐらい横柄な態度も許してもらうぜ。もう話しかけるなよ。

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