第67話 狭いながらも楽しい「自宅」

ところで俺ってこんなキャラだったっけ?熱くなってモリカを助けに飛び出したはいいけど、なんでこんな張り切っちゃってるんだろう?


自分の身を危険にさらしてまで他人を助けるような人間じゃないんだけどな。もちろんモリカは大事な友達だし、情もそれなりにあるけどそれとこれとは別問題だ。家族だ友達だ祈りだ繋がりだなどとほざき始めた結果がこれか。


ライン一家でも一杯食わされた連中だ。かなりぶっ飛んだヤツラのはずだ。三途の川を渡る前に逃げたほうがいいよね?今のこの距離でさえデッドラインを越えているのかもしれないんだし。


とりあえずは「自宅」に入って、顔だけ外に出して監視しよう。ここまで来ちゃったんだしお土産もなしに手ぶらで帰りたくない。熱い気持ちだってまだまだ健在なんだよ?ちょっと冷めちゃっただけでさ。


連中はもう魔法を使わないようだな。治癒が終わったのか、実は治癒魔法ではなくて別の魔法を使っていただけなのか。


考えても分かるわけがない。うん。この件は保留にしよう。しかし身体強化の魔法使いが2人ってのはやっべーな。汎用性も高くて実用的。派手なだけの攻撃魔法なんかよりよほど使えると思う。


間合いがいまいち掴めないのも一押しポイント。距離を間違えたら気づかないうちに一瞬であの世に送り込まれてしまうだろう。万が一正面からの戦闘になったら「自宅」を盾バージョンで常に発動しておかなくては。直線的に突っ込んできてくれれば好都合だが望みは薄いな。


連中はここで夜を明かすようだ。やっぱり魔物はこわいよね。島を出ているとはいえまだまだ樹木は巨大サイズだから月明かりなんてほとんど届いていない。


太陽が昇るまではこのまま待機か?「自宅」でぐっすり眠りたいところだが連中が夜間移動する可能性がある以上目を離すわけにもいかない。


あとで深夜労働の代金をたっぷり請求させてもらわないとな。子供にこんな働かせてパパさんあんたは神殿でお祈り中ですかい?ママさんには悪いがキラクル・ラインの株は大暴落だ。


パパさんよぉ。あんたの言いたいことはよくわかる。俺があんたでもモリカを見捨てる道を選ぶだろうよ。それがライン一族なんだろうからな。


だが俺はあんたじゃない。御神体なんて知ったことではないんだよ。祈りの魔法とやらがモリカよりも大事だってか?魔法がないと神様を守れない?


あぁそうだろうよ。あんたは何も間違っちゃいないんだろうさ。俺とは優先順位が違うだけってことなんだろう。


神様のご加護とか言っていたな?まさかだろ。そんなものは加護じゃないよ。人はそういうものを呪いっていうんだ。神の呪いに縛られたライン一族。ぴったりじゃないか?


はぁ考えれば考えるほど腹が立ってくる。もう止めよう。モリカを助けて帰ってすぐ寝たい。そして起きたらさっさと島から出るんだ。パパさん達は悪くないと理解していても、もう今までのように付き合う気にはなれないよ。


長い時間待ってようやく空がぼんやり明るくなってきた。連中の姿も少し浮かび上がってきた。


四人はいるな。モリカの姿は確認できない。いや、いた。地面に転がされている。ぐるぐると縛られて目隠しもされているようだ。ビンゴ!待った甲斐があったよ。これでモリカとは無関係な連中だったら追跡は絶望的だったもんね。


モリカはと連中が鎖で繋がれているとかはない・・・ね。もう少しモリカから離れてくれれば「自宅」へ落とせるんだけどなぁ。「自宅」に落とす時にモリカにしがみつかれでもしたらマズイ。これではまだ動けないな。


ところでモリカ死んでないよね?さっきから全く動きがない。生きてさえいればママさんの魔法でなんとかなりそうだけど・・・まさかね。


連中そろそろ移動を始めそうだな。装備を確認しながら何か話をしている。移動するならモリカは誰かが担いでいくだろう。そうなったら「自宅」を使うタイミングはより難しくなる。


ここでやるしかないか?連中の足元に「自宅」の入り口を広げる。ではお客さん方、いきますよ?お客さんには見ることも触ることもできない闇の扉。今オープンです!


連中は一斉に自宅に落ちていった。身体強化の魔法を使ったようだが足場がなければ役には立つまい。


連中のいた場所にはモリカだけが残った。「自宅」一発、不意打ち無双。一度周囲を確認してからモリカのところに走っていく。


目と口が布でふさがれているが・・・鼻呼吸のせいか鼻息が荒い!あぁ、生きていた。目の前がチカチカしてめまいがした。その場に座り込んで大きく深呼吸する。


よかった。間に合ったよ。目と口の布を取り払って体を縛っていたロープをナイフで切る。


「キーン!キーン!キーン!」


モリカは俺の姿を確認するとタックルで抱きついてきて俺の名前を連呼する。モリカちゃん。気持ちはわからないでもないけどここは魔物の領域なんだからあんまり大声出さないで欲しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る