第64話 なんでもありか

道に戻ってからリームはパパさんに説教されている。リームが大きな声を上げたせいでこっちはゾクリと死の予感に背筋を舐められたんだがらフォローする気はない。むしろパパさんにはもっと強くやって欲しいくらいだ。殴れ、殴ってしまえ!


さてリームが怒られている間俺はゴブリンをどう始末するか考える。弱るのを待つ時間はない。上空から落としてしまおうか。ナイフじゃ厳しいから短剣で刺すか?


「キーン。すごかったねあの魔法!ゴブリンはどこにいったの?」


モリカが興奮した様子で話しかけてくる。ゴブはいま俺の家でくつろいでるよ。ちょっと窮屈な思いをしてるかもしれないけどね。


「拘束系の魔法でさ。ゴブリンがどこにいったかは僕もわからないんだけど、殺したわけじゃないんだ。捕まえているだけだから魔法を解除するとまた出てくるんだ」


「そうなんだ。じゃあまた倒さないといけないんだね。手伝う?」


「ありがとう。でも大丈夫だよ。僕一人でもできるから」


俺の魔法なんかよりも3人の魔法の方が気になる。なんだったんだあれは?


「キーン君。息子がすまなかったね。よく言っておいたがだいぶ迷惑をかけてしまった。しかしおかげで足りない部分が分かったよ。私達は魔法に頼り過ぎていたようだね」


そうそう、それだよ俺の聞きたいのはさ。ずばり貴方達の魔法ってなんですか?ってね。でもそんなこと聞けない。俺は貴方達に自分の魔法の正体を話すつもりはないのだから。


狩りは一時中断ということになった。俺はゴブリンを片付けるために一人別行動をとることにした。影が長く伸びるころまで狩りをして、それなりの成果を得て神殿に帰った。


夕食の間は今日の短かった合同狩りの話で盛り上がった。やはり魔法の話題を中心にいろいろ聞いたし話した。パパさんの方からいろいろ教えてくれたのだ。教えてくれるのはあんたの勝手。俺は自分の魔法を喋ったりしないよ?


「じゃあ祈りの魔法は御神体・・・神様と一体になって神様の力を使えるってことですか?色んな系統の魔法が使えると?」


「簡単に言えばそういうことだね。一体と言うとちょっと違うんだけど。それになんでもできるというわけではないんだ。この島のなかであれば色々なことが出来るのはその通りなんだけどね」


「なるほど。それで御神体を守ってこれたんですね。やっと疑問が少し解けたような気がします」


「キーンの魔法もすごかったの!矢もゴブリンもどこかに消えちゃったし」


「そうだよ。僕もびっくりしたよ。あんな魔法見たことないよ」


そうなのか?モリカもリームも祈りの魔法で俺と似たようなことができるんじゃないのかな?


「私も2度目だがやはり驚いたよ。キーン君の魔法は私達でも再現できそうにない。拘束系だと言っていたが・・・私もこれまで色々な魔法を見てきたし話も聞いてきたが、あのような魔法は知らない。世界は本当に広いものだね」


パパさんは俺の魔法の正体が気になっているようだったが、突っ込んで聞いてくるようなことはなかった。俺も「祈り」について質問攻めにするようなことはしなかったよ。悪いねパパさん。俺とあんたじゃ立場が違うんだよ。俺から「自宅」を取ったらタダの生意気なガキだ。裸でお外をお散歩なんて出来ねぇんだわ。


「リームとモリカにはあの後話したが、狩りの方法をもっと考えることにしたよ。もっと一般的な技術もおぼえておいた方がいいとね。魔法に頼らない技術は重要だし心構えも足りないと痛感した。リームはちゃんとキーン君に謝ったのかな?」


「キーン。ごめんね。僕のせいで・・・」


「リーム。大丈夫だよ。みんな無事だったし、そのための修行なんだからさ」


リームやモリカの年で魔法を使って修行までしてるんだから頭が下がるよ。俺が普通の11歳であんな魔法をおぼえてたら何しでかすか分かったもんじゃない。リームは落ち込んでいるようだが、そんなに真面目でこの先大丈夫か?と思わないでもない。


狩りの話のついでに巡礼の人達についても聞いてみた。前にリームとモリカから教えてもらったように世界各地の聖域を旅しているらしい。明確な宗教があってその教義にしたがって巡礼をしているというわけではなく、各地の聖域で祈りを捧げることを目的にしているようだ。


「私もそう詳しくはないんだ。私はここを守るだけ。他の聖域についてはよく知らないんだよ。話では聞くがね。彼らがどこから来てどこへ行くのかも知らない。ただ昔から巡礼をしている人達が来て、私は彼等をもてなす。私の父がしていたように私もそうしているだけなんだ」


そんなことってあるのか?この島の遺跡については伝承が失われていて、巡礼についてもよく知らない?ただこの島の神様を守るだけ?ハハハふざけやがって。


俺が子供だからって適当こいてんのか?嘘をつくにしてもやり方があるだろ。聞いてるこっちが恥ずかしいわ!相槌打つたびに顔が赤くなりそうだよ。


遺跡の御神体を見る限り悪の秘密結社でしたみたいなオチではないだろうけど何か別に秘密があるのかもしれないな。俺は探偵でも考古学者でもないし、この世界の秘密的なことにも興味はあんまりないからいいんだけどね。


しかし聖域か。アロンソにもあったのかなぁ。聞いたことなかったけど。世界各地にある聖域ねぇ。その聖域ごとに御神体があって「祈り」の魔法使いがいるんだろうか?だとしたらその価値は凄まじいものになるな。


「祈り」の魔法。最初は神様と意識を重ねるものだと聞いていたが、とんでもない魔法じゃないか。神様の力を限定的とはいえ使えるというんだから。いったいどれほどのことができるんだろうか?魔法はひとり一つという常識に反しては・・・いないのか?


そして巡礼者。ここの聖域一箇所だけで考えても利用法はいくらでもありそうなのに複数の地を回る巡礼者?やばいでしょ。聖域を監視でもしている?そいつらの親玉・・・前世で言えば教皇的な人物でもいたら・・・マジでやばいな。


あーやだやだ。怖いったらないぜ。深入りすることなんてないだろうけど要注意なのは確かだ。あんまり聖域や遺跡については突っ込まないようにしよう。俺にとっては御神体を眺めてぼんやりできればそれでいいんだからさ。


一家団欒から自分の部屋に戻って「自宅」を掃除して魔物から剥いだ毛皮だの牙だのを整理する。パパさんじゃないけど、世界は本当に広いなぁ。魔法ってなんなの?って疑問が生まれてしまう。そんなことを人に聞いても大した答えは返ってこないだろう。魔法は魔法だ。現実に存在している力で、否定したところで無くなりはしない。


ファイヤーボールだのなんたらアローなんて魔法は分かりやすくて、いかにも魔法ですって感じだったからあんまり疑問にも思ってなかった。けど「祈り」って。ねぇ?


そんなこと考えてると俺の「自宅」もホントに魔法なんじゃないかと思えてくる。ってか最近では完璧にそう思っている。昔は神様的なものから与えられた不思議能力だとしか思っていなかったが、それこそまさにこの世界でいうところの魔法なんじゃないのか?


うーん。わからん。なら魔力ってなんなんだ?とか、他に「自宅」的な魔法を使う人がいてもいいじゃないのか?とか謎は増すばかりだ。


ま、いいか。その内分かるかもしれないし、分からなくても困らない。だって祈っただけで色々できる魔法とかあるんだぜ?俺の「自宅」なんてかわいいもんでしょ。ならば気にするだけ損だ。危ない連中に会わないようにニセの祈りを祈ろう。


あぁしんどくなってきた。体がだるい。こりゃ5秒で寝られるな。装備のお手入れは明日にして今日はもう寝ちゃおう。

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