第63話 ハンティングの巻
短剣とナイフを砥いで切れ味を復活させる。短剣にはまだ振り回されてる感があるから使用頻度は低い。魔物の止め用に使っているはほとんどナイフだ。攻撃力は低いものの「自宅」に閉じ込めてからの完全な奇襲、弱らせてからの最後の一押しに使っているため確実に狙ったポイントを攻撃できるナイフの方が使い勝手がいい。
短剣のメンテナンスはすぐに終わり。結構使いこんでいるナイフを念入りに研ぐ。それが終わってその他の装備も確認していく。罠に使ったり、弱った魔物の動きを封じるためのロープは何度も血を吸って変な色になっている。結構臭いし触るのも嫌だが、切れ目が入っていたり擦り切れそうな部分がないかチェックする。
毛皮マントを軽く拭き、穴が開いていないかを確認。夜に狩りをすることはないが、ランタンや油の用意もしておく。保存食が痛んでいないか少しかじって味を見る。装備の確認が終わったら、身に付けるもの以外を最近買った背嚢にしまい、すぐに「自宅」から取り出せるようにする。
魔物を「自宅」に閉じ込めている間は荷物を置いておけないからね。すぐに取り出せるようにしておく。ちなみに普段からこの背嚢は背負っている。ダミー用に2つ買ったのだ。ダミーの方にはいらない服と少し重めの石などが詰めてある。この島に到着するまではほとんど着の身着のままの状態だったから、今考えると怪しさ全開だったろうなと思う。手ぶらで旅する11歳児か。どこのターザンだそれ?
それでもテントや寝袋はまだ買っていない。お金が勿体ないのもあるが、今更取り繕ったように買う必要はないと思ったからだ。外では野宿してました、で言い訳には十分。俺が冒険者としてそれなりに稼げるヤツだということはパパさん達には分かったはずだから、普段は宿にでも泊まっていたんだろうと勝手に納得するはず。
装備の点検と荷物の整理が終わって一息つく。今日はこれから魔物狩りに出発することになっている。とうとうパパさんから話があって、よかったら一緒に狩りに行こうと誘われたのだ。御意!と即答し装備の確認にも熱が入った。
朝は日課の掃除や薪集めをしてお昼までの時間を狩りのシュミレーションに充てた。俺の魔法は拘束系。闇に捕らえて吐き出すことができるという設定。魔法の名前は秘密を貫く。適当に言って実際その魔法があったら嘘がバレちゃうもんね。
お昼ごはんを食べて遺跡へ行き、パパさん達のお仕事の終わりを待って、いよいよ狩りが始まる。
「キーン君。私達が狩りをしているあいだ、最初は見学していてもらえるかな?」
まずはライン一家の戦いを見せてもらえるようだ。了解っす!巨大な草を避けながら獲物を探すのだがパパさんは特に迷うことなく進んでいく。俺が学んできた山の狩りとは明らかに違う。魔法を使って何かしてるのか?
冒険者パーティーオオトリのリーダーのように気配察知的なものが?しかし彼等の魔法は「祈り」だったよな?なら経験からくるものかな?
5分ほどで獲物を見つけた。狸みたいなやつが2匹いる。前にポンポコ大将と命名したヤツだ。体長は3メートル程。比較的大人しく、逃げ足が速いが、こいつも魔物。襲われたらひとたまりもない。さすがのパパさん達も近づいてからは音を立てないように慎重に動いている。
さて誰が攻撃をするのかな?3人とも武器らしきものを持っていないんだけどな。動いたのはパパさんだ。両手をポンポコ大将に向かって突き出して構えている。するといきなりポンポコ君の首がスパンと飛んだ。
「え?」
いま何をした?いきなり首を落としたぞ。これって明らかに魔法だよな。でもパパさんの魔法は「祈り」のはずでしょ?祈ったら首落とせるとかありなの?こわすぎるでしょ!
てか祈りのポーズとかないんかい!あれがそうなの?手を突き出したのが?しかも随分物騒な神様じゃねぇか。邪魔なものは無慈悲に命を頂きますってよ。まぁパパさんが何したのか分かってないから神様ディスはちょっとやりすぎかも知れないけどさ。
パパさんは黙々とポンポコ大将の処理をし、子供二人は周囲を警戒している。あまりにもあっさり終わったから拍子抜けもいいところだ。勉強できる部分がたくさんあると思ったのに、蓋を開けてみたらこれとはね。
「次はリームとモリカだよ。二人ともいいね?」
「「はい」」
リームとモリカはわずかのあいだ目を閉じた。魔法を発動させたのか?パパさんと同じように早歩きで進んでいく。
現れたのは猪型の魔物だ。体長は3メートルほどとこれまたそこそこ大きい。リームとモリカが両手を大きく広げて前に突き出した。パパさんがやったのと同じポーズだ。
猪君を囲うように土が盛り上がる。魔物の姿が見えなくなるほどの土壁が出来上がった。続いて魔物の悲鳴が上がる。2度ほど鳴いて声は途絶えた。どうやら仕留めたらしい。
土壁が崩れて魔物の様子が見えてくる。首のあたりが複数切られているようだ。首は落ちていないが絶命している。
「土壁は悪くなかったが攻撃対象が視界から見えなくなって次の攻撃が雑になってしまったね。防御をしっかりしてから攻撃するのはとてもいいことだが相手を見失ってしまっては逆に危険だ。わかるね?」
キラクルさんのダメ出しが入る。俺の勉強にもなるのでよく聞いておこう。まぁ俺には土壁なんて作れないんだけどさ。リームとモリカはパパさんの話に真剣な表情で頷いている。
話が終わり猪君の解体を始める。子供二人だけでやるようだ。なかなかハードな教育だな。でもこれが出来ないとここでの生活は厳しいのだろう。パパさんだっていつ命を落とすかわからないのだ。子供が大きくなるのを待ってからとか言い出したら、手遅れになってしまうんだろうな。
俺はこの世界でこそ11歳だが中身はもうバリバリのおっさんだ。対するリームとモリカは正真正銘の11歳。遊んでいるときは普通の子供なのに狩りにきてからの表情はいつもの二人とは程遠い。
自分と二人を比べてると、自分の方がよほど子供に思えてしまう。ひたむきな子供達の姿を見て劣等感が湧いてくるのもあるし、中身がおっさんな分、素直さや向上心が足りない。それが捻くれたガキ感を自身に連想させるのだ。落ち込みそうにはなるが、今は狩りの最中だ。落ち込むのはあとにしよう。
それにしてもやはり気になるのは二人の魔法だ。魔法?うん。「祈り」はどこいったんだよ!遺跡の木、御神体と意識を重ねることができる云々と言っていたのは嘘だったってこと?
祈ったら土壁ができて、祈ったら風の刃らしきもので攻撃できたっての?だったら俺の幸せを是非祈ってほしい。今すぐ。ここで。バカらしくてやってらんねーぜ。
「よし。じゃあ次はキーン君の番だ。リーム、モリカ。二人ともよく見て勉強するように」
おいおいパパさん。ハードル上げないでよ。俺なんて山でちょっと訓練受けただけの子供なんだからさ。とりあえずやるしかないな。獲物をゆっくり探そう。
俺は目と耳を中心に獲物を探す。当然魔法で感知みたいなことはできない。魔物の足跡や糞、草を倒した跡や木につけられた傷などがないか注意しながら音に耳を澄ます。
おっと。これはおなじみのコボルト君かな?木の枝が不自然に折れている。まだ新しいように見える。足跡は・・・ないか。音もしないな。
次いってみよう。確かこの近くに湧き水が出てるところがあったな。そっち方面に移動だ。子供2人の足音がちょっとうるさいが仕方ない。なるべくゆっくり移動することにする。
右前方から音がきこえる。魔物の鳴き声だ。しかもこの声・・・ゴブリンか。まだこの島でゴブリンに会ったことはなかったが、やはりいたのか。ゴブリン先生はどこにでもいるからな。適応能力高すぎなんだよクソ!
1体なら始末してもいい。2体以上いたらパスだ。これまで以上にゆっくり進む。水場まで70メートルほどまで近づいてゴブリンを視認。
3匹確認。この島の固有種だろう。通常の2倍サイズのゴブリンが目に入る。これは撤退で決まりだな。ほかにもっといるのかもしれないし、そもそもあんな怪物のお相手はごめんだ。後ろにいる3人に近づいて小声で退くことを伝える。
「なんで?ゴブリンは危ないから倒さないと!」
リームが少し興奮した様子で声を上げる。バカが!ゴブゴブに気づかれるだろうが!急いでゴブリンの方を見る。チッ!弓らきしものを構えていやがる。すぐに矢が飛んできた。このせっかちさんめ!
俺は「自宅」を発動して矢を吸い込む。よし!入った!続けて弓ゴブ君を「自宅」に落とす。ひとーつ!木の棒を持った2体がこちらに向かって走ってきている。
距離があって助かった。1体ずつ「自宅」に沈める。ふたつ、みっつ!
「ふぅ。後は・・・いないか」
思わずため息がでる。雰囲気を出す為に数を数えてみた。他に仲間はいないようだ。なんとかなったな。弓が1体だけで助かった。矢を捌きながらだとゴブリンを「自宅」に招待するのが難しいからな。
パパさんに視線を向けるとゆっくり頷いてくれた。よしよし。さすがパパさんだ。危なかったら助けてくれたんだろう。
「一度道に戻るよ」
パパさんは有無を言わせぬ雰囲気でそれだけ言うと、先頭に立って歩き始めた。
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