第61話 パパさんとママさん

「御神体を狙って悪い人が来たりしないんですか?」


「来るよ。それも結構頻繁にくる。その対応も私達の仕事なんだ」


「失礼を承知で伺いますが、キラクルさんだけではとても対応しきれないと思うんですけど」


「そうだね。過去には何度も危ない時があったと聞いてるよ。もちろん私の代にも危ない場面はあった。だが神様のご加護でなんとか耐えてこられた。遺跡を守るのが私達の人生の全てだからね。危ないからといってこの役目を放り出すわけにはいかない。それでは神様も一族の歴史も全て裏切ることになってしまうからね」


「神様のご加護ですか。それはやっぱり魔法と関係があるんですよね」


「うん。詳しいことは教えてあげられないけどね」


「キラクルさんがこの島を出ることはあるんですか?」


「ないよ。ここを出たら私は死んでしまうよ」







「リンカーさんは神官ではないんですよね?」


「そうよ。私は夫と子供達のサポートをするのが仕事なの」


「キラクルさんとはどこで知り合ったんですか?」


「私がここにお祈りに訪れたときに知り合ったのよ。夫にはお見合い話もたくさんあったらしいけど、結局私を選んでくれたわ」


「お子さん二人とも神官になるって心配じゃないんですか?」


「もちろん心配だわ。けどそれがラインの一族ですもの。わかっていて嫁いできたのだから、心配するより応援しないとね。それよりも今はキーン君のことの方が心配だわ。あなたは大人びているけれどすごくさびしそうよ」


「そうですか?さびしくはないですけど・・・。リンカーさんは魔法使いじゃないんですよね?」


「あら、言ってなかったかしら。私も魔法使いよ。治癒魔法ね。ここに嫁いでからおぼえたのよ。必要だからってね」


「そうだったんですね。でもリンカーさんだけが祈りの魔法を使えないって疎外感みたいなものはないんですか?」


「疎外感なんてないわよ。家族の繋がりはもちろんだけれど、私も私なりに神様と繋がっているという思いがあるの。私だってもうライン一族のひとりなのよ」







「それじゃあキラクルさんは島の外に出たいと考えたこともないんですか?」


「それはあるよ。成人を迎えた頃は一番そういうことを考えたね」


「なぜその時島を出なかったんですか?まさか島を出たら本当に死んでしまうとかいうことではないんですよね?」


「うん。肉体的に死んでしまうということはない。しかし精神的には死んでしまうと思う。なぜ出なかったと聞いたね。それはやはり神様との繋がりがなくなるのがこわかったからだよ。私達は自分の意思でこの島を出ると魔法を失ってしまうんだ。そして祈りは二度と届かない。それがすごくこわいんだ。大人なのに情けないかい?でも本当なんだ。だから私は島を出なかったし、子供達もそうなると思っている」


「そんな大事なことを僕に話してしまってよかったんですか?僕が何か悪いことを考えてるとか、悪い人に操られているとか疑わないんですか?だってキラクルさんの魔法はとても・・・何と言うか・・・」


「キーン君。そういったことでキミを疑うことはないよ。私はこの島の神官で神様と意識を重ねる者。そのくらいのことはわかるんだ」







「僕はリンカーさんのように何かと繋がってるという思いはありません。むしろそういったものを避けてきたように思います。でもここで暮らしてみて何か心にもやもやするもを感じるようになりました。今更父親が欲しいとか母親が恋しいなんて思わないんですけどね」


「キーン君にも大事な人はいるでしょう?あなたはまだそうと気づいていないだけで、色々なものと繋がっているわ。何も家族や友達だけの話ではないのよ。キーン君が他人を近づけないように壁をつくっていることは感じていたわ。でも子供達はあなたのことが大好きなのよ。私も夫も同じだわ。それはキーン君だって知っているはずよ」


「はい。僕にも大事な人はいます。孤児院のみんなです。しかしそれも自分の都合で捨てたんです。そこからももうよくわからないんです。ライン家のみなさんが僕によくしてくれるのはとても嬉しくてありがたいと思ってますが、僕はみなさんのように信じることができないようです。甘えているという自覚はありますけど」


「焦ることなんてないわ。忘れても思い出せばいいの。焦ることなんて何もないのよ。あなたのその悩みがあなたを成長させてくれるわ」







「神様は僕のことを何か仰っていましたか?」


「前にも話したが私は神様と明確な言葉を交わしているわけではないから、このように仰っていたなんていうことは言えない。しかしキーン君が島へ来たことを喜んでいらっしゃるようだよ。そしてこれは私が感じたことだが・・・これは言おうか言うまいか迷ったが・・・キミの魔法。拘束系と言っていたあの魔法。キミがあの魔法を使った時に、私は何か不思議な感覚がしたんだ。遺跡で祈っている時に感じるような感覚だね。それをキミとキミの魔法から感じたんだ」


「僕と僕の魔法からですか。僕としてはなんとお返事してよいのかわかりませんが、僕はただの小賢しい子供ですよ」


「私もまだ自分自身で答えが出ていないんだ。だけどキミがこの島に来たのも偶然じゃないと思っている。神様のお導きと言ったらキミは苦笑いをするだろうが、私は本気でそう信じているよ」


「苦笑いだなんてそんな。僕は本当に、僕は・・・」


「ごめんね。すこし意地悪な言い方だったね。さあそろそろ夕飯の時間だ。みんなも待ってるだろうから一緒にいこう」

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