第59話 神といる場所

朝からライン一家は忙しそうだ、奥さんはご飯を作っていて旦那さんと子供は神殿の掃除をしたり歌を唄ったり、お祈りをしている。


俺もとりあえず掃除を手伝った。広い神殿なので毎日少しずつ場所を変えて掃除しているんだってさ。家の掃除なんて久しぶりだ。力んでしまって、腰が痛い。


神殿は築1000年は経っているらしく、木がいい味をだしている。この辺りの樹木はもうアホみたいに巨大なので大きな一枚板を取るのも楽なのだろう、テーブルや祭壇などもすごく綺麗な木目を見せていて壮大な歴史の繋がり的な思いを呼び起こさせる。どれ一つとってもなんとも味わい深い。素敵空間だ。


途中奥さんもやってきて、家族4人でのお祈りが始まった。20分近くは祈っていたんじゃないかと思う。ものすごく長かった。俺はその姿に圧倒もされたし、何か距離を感じもした。俺はこんな風に祈ることはないだろう。だがバカにはできないな。俺が会った神様的な何かを思い出したよ。


お祈りが終わると朝ごはんだ。俺はさすがに断ったが、子供が遠慮するなと一緒に食べることになった。


「キーン。これから遺跡に行くんだ。パパがキーンも誘えってさ。どうする?一緒にいく?」


「もちろんいくよ。ありがとう」


リームのお誘いに一緒に神殿を出ると、キラクルさんとモリカが既に待っていた。合流して四人で南に向かう。遺跡は歩きでたった5分くらいの距離だってさ。


遺跡の一部なのか使わなくなった神殿の成れの果てか、木の建物の残骸のようなものがそこかしこに見られる。船のようなものもあるな。そういえば昨日、釣りとか言ってたな。壊れた船かな?


どれも木造で島につくまでにあった石造りの壁なんかとは毛色が違う。代々の神官で好みが違うとか?いやでも神殿はずっと昔からあったんだから、木製のものが主流というか歴史の本筋なはずだ。石の方は後付けか。


ゆっくり歩いていると魔物もちらほら見かけるが、こちらにはあまり注意を払っていないようだ。珍しい。この島に近づくにつれて安全度が上がったが、やはりここは何か普通とは違うんだ。自然に考えれば原因はその遺跡というものだな。


「キーン君。ここが遺跡だよ。我々一族は昔からこの遺跡を守ってきたんだ」


あっという間に到着して目の前に遺跡と呼ばれるものが現れた。これか。これがそうなのか。なんかストーンヘンジの木製版みたいな感じだ。木の柱が円を形作るように並べて立ててあり、その円の内側には木の鳥居のようなものが4つ、東西南北にたててある。


そして驚くべきはその鳥居に囲われるようにしてある宝石のように透き通って綺麗な木だ。高さ5メートルほどで太い枝と細い枝が無数に広がっている。しかしこれは木と呼んでいいのか?それとも鉱物かなにかなのか?


「美しいだろう?これが私達の神様なんだ」


「はい。とても美しいですね。これは・・・宝石。何かの結晶なんですか?」


「いやこれは木だよ。ちゃんと生きていて少しずつ育っているんだ。毎年決まった時期には枝打ちをしたり、病気にならないように害虫を払ったりもしていてね。不思議だろう?私は少し周りを見てくる。キーン君もこの辺を自由に見てくれていいからね。ただし神様には触れないようにね」


御神体である木は右半分が深い赤、左半分がエメラルドのような緑。緑の方には葉がついているが、赤の方は枝のみだ。花はどちらにもない。見れば見るほど美しい。これが生きていて成長しているのか。本当に不思議だ。


この遺跡を守っているというのか。いやこれって遺跡と言えるのか?だって一番大事な御神体?木の神様?は生きてるんでしょ?それとも木を囲むものが遺跡だと言っているのか?でもそうするとそっちがメインってことになっちゃうよな。


御神体は生きてるけど、これは発見されてからそんなに年月が経っていないとか?昔の人が何をしていたかは知らないけど・・・的な?後で聞いてみるか。


しかし悪いこと考えるヤツなんか腐るほどいる世の中でこれをあの家族4人だけで守れるものなのか?周囲の集落が全員協力的だとか信者だとかでも厳しくないか?

でも現に御神体はここにある。何か方法があるのだろうな。


俺はパパさんから声をかけられるまでずっと木を眺めていた。リームとモリカが何か言っていたが耳に入らなかった。何かこの木・・・この空間・・・変な感じがする。なんだろう、これはなんだろう。なんだこれは。魔法の次は御神木の登場か。


「キーン。僕達の話全然聞いてないんだもんなぁ」


「二人ともごめん。神様に夢中になっちゃったよ。なんの話しだったの?」


「もういいわ。今日はわたし達はこれから狩りなの。キーンはどうするの?」


狩りをするのか。食用かな?昨日魔物を倒したりするって言ってたから修行の一部か?幼いうちから大変だなぁ。俺が魔物狩りするのとは全然意味が違う。


「キーン君。悪いけど狩りは神官の仕事の一つなんだ。一緒に連れて行くわけにはいかない。でもキミも冒険者ということは薬草類はわかるんだろう?遺跡に近づかなければこの島のものは自由に採ってもらっていいからね」


「ありがとうございます。少しまわってみたいと思います」


「うん。気をつけてね。この島の魔物は遺跡とそれに続く道にいれば襲ってはこない。危なくなったら道に戻るといい。無理はしちゃいけないよ?いいね?日が落ちる前には神殿に帰ってきなさい。この島にいる間の食事は私達と一緒にしよう」


「はい。でもそこまで甘えるわけにはいきません。野営道具も持っていますし、今日は外でどうにかするつもりです」


「うちの子達もキーン君が来て喜んでいる。そう遠慮することはないよ。キミのような子をひとり危険なところに放り出しておくわけにもいかないしね。是非うちで休んで食事に呼ばれて欲しい。これは私達夫婦からのお願いでもある」


「恐縮です。では後で伺います。僕で何かお役に立つことがあればなんでも仰ってください」


「キミはホントにうちの子と同じ年かい?本当にしっかりしている。久しぶりの新鮮な驚きってやつだ」


三人とは途中でわかれて、俺は一人草むらをかき分けて探索する。この背の高い草や花をみていると自分が小人になった気分だな。


普通の草花もあるのに、不思議な光景だ。おっと、草が大きく揺れたな。魔物か?

魔物までジャイアントじゃないだろうな?じっと構えていると、ペンギンを4倍くらいにしたような魔物が出てきた。オイ!


初見の魔物だ。これが普通のサイズかどうか分からないけど・・・ちょっとだけデカイよね?クチバシで攻撃してくるのか?どちらにしてもナイフだけでは厳しいな。「自宅」には収まるサイズだ。


「自宅」の荷物を外に吐き出してペンギンをなかに入れる。キュイーと鳴きながら「自宅」に沈んでいった。先手必勝。こんな戦いでは俺の戦闘能力は一切上がらないが全く問題ない。俺はまだ子供なんさ。よしあの大きさなら外から短剣で突けば当たるかもしれないな。


一度道に戻って安全地帯でペンギンに止めを刺し、しばらく探索を続けた。薬草関係も見つけて採取しておく。バカでかい薬草でもあればなと思ったが見つからなかった。ケチケチしやがって。


それから小型のキツネ型の魔物を2匹倒して神殿へと戻った。3人はすでに帰ってきていたようでリームとモリカが出迎えてくれた。


「キーンお帰り。大丈夫だったみたいだね」


「キーンおかえり!どうだったの?」


「ただいま。大丈夫だったよ。楽しかったしね。二人は?」


久しぶりにただいまなんて言ったな。空しい言葉だ。俺は二人と話しながら頭のなかでは別のことを考えていた。

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