第58話 家族っていいな
木造神殿から出てきた2人の子供は人族のようだが、エルフにも通じる透明感がある男の子と女の子だった。お肌の透明感じゃないよ?存在の透明感。透明っぽいとかじゃくてね?儚い感じっていうよりも、そこにいるようないないような・・・そんな感じ。それが儚いってことだっけ?まぁまぁ。とりあえずそんな感じで二人とも金髪で目が大きく、すらっとした手足をしている美形だということだ。
顔はそっくりだから双子だと思われる。年齢は俺と大して変わらないだろうな。もし二人が人族じゃないっていうなら、分かるはずもなし。
「こんにちは。僕は人族の冒険者でキーンといいます。こちらの神殿の噂を聞いて興味を持って来ました。神殿をみせてもらえたらと思うんですけど」
「こんにちは。僕はリームっていうんだ。神殿をみたいの?いいよ。案内するよ」
「わたしはモリカ。こんにちは!すぐ行くの?行こう!」
二人とも大人しそうな雰囲気だけど、話しかけてみると意外と積極的な性格のようだ。俺を神殿にいれてくれて、なかを見せてくれた。
すごい複雑に木が組んであって何がどうなってるのかはわからないけど、すごいかっこいい建物だ。祈りを捧げる場所もあったが、なにかの像があるとかシンボルのようなものがあるわけではない。
「この神殿でも祈りを捧げるんだけど、僕らの家でもあるんだよ」
「あっちにパパとママがいるの。ちょっとまってて!」
モリカちゃんが走って右手にある扉のほうへ行き、すぐに二人の両親を連れて戻ってきた。
「いらっしゃい。キーン君でいいかな?よく来たね。私はキラクル・ライン。この子達の親で、ここの神官だよ」
「私はリンカー・ライン。母よ。キーン君のご両親はどちらに?」
「突然お邪魔してすみません。僕はキーンと申します。人族で11歳の冒険者です。ここへは一人できました。両親ですが、僕は孤児なので親はいません。今リーム君とモリカさんにここを案内してもらっていました。とても面白い造りの神殿ですね。複雑なのにどこかユーモラスでとても親しみやすい感じがします」
「そうか。褒めてくれてありがとう。君は一人でここまで来たのかな?うん。そうか、11歳なのにもう冒険者なのか。急いでいるのでないならゆっくりしていきなさい。空いてる部屋もあるからね。今日は泊まっていくといいよ」
「そうね。今から近くの集落まで戻るのは危険だわ。泊まっていきなさい。食事も用意するわね。それまでは二人と遊んでくれると嬉しいわ」
「ご親切にありがとうございます。何かお布施のような形でお礼をした方がいいんでしょうか?このような質問が恥ずかしいものだとは知っていますが、無学なのものでお許し下さい」
「キーン君。そのようなものは必要ないよ。友人を招くのに気を遣わせてしまったね。キミのような子ならそれでも遠慮するかも知れないから重ねて言おう。遠慮せず、私達と親しくしてくれれば、それだけでいいんだよ」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
キラクルさんとリンカーさんは俺を不憫な子だとでも思ったのだろう、心配そうな目をしている。11歳児の孤児がひとりで精一杯気を張って世を渡っているのが痛々しくて哀れを誘うのか?どういたしまして、俺は・・・そんな同情なんて・・・欲しくない。
「キーン。僕の部屋にいこう。宝物を見せてあげる」
「わたしのも見せてあげる」
危うく眉間に皺をよせてしまいそうになったところで子供二人から声をかけられ、ハッと我に帰った。パパママに会釈して子供二人を見ると、片手ずつ差し出してくるではないか。仕方なく二人の手をとり、そのまま手を繋いで二人の部屋にいくことになった。
孤児院時代の記憶が鮮明に蘇ってくる。兄弟達ともこうしてよく手を繋いで歩いた。今でも大切な思い出。大事な家族達。俺が裏切り、捨てたかけがえのない人達。
「キーン。見てよ。これが僕の宝物なんだ。きれいでしょ?こんなに大きいのもあるんだ。こっちのはね、なんか鳥みたいな形してるんだよ。これは雲の形」
リームの宝物は宝石みたいなきれな石のようだ。たしかにすごく綺麗だ。普通に宝石の原石のように見える。
「キーン。わたしのもみて。これはねわたしの集めたキレイなお花なんだよ。こうやってギュっって押しておくとね、こういう風になるの!」
モリカは押し花が好きなようだ。バカデカい花を木の板で挟んだものをあれこれ見せてくれる。
「じゃあ、キーンは北の方から旅して来たんだ。僕達と同じ年ですごいなぁ。冒険者なんて危ないでしょ。外は魔物もいっぱいいるし」
「そうだね。でも慣れれば危険も避けられるようになるよ。二人はいつもなにしてるの?」
「僕達はね。神官になるための修行をしてるんだ。毎日お祈りしたり、遺跡のお掃除したり、魔物を倒したりしてるんだ」
「あとはねー。木の実をとりにいったり、お魚釣りにいったり、魔法の練習もしてるの」
ほー。魔法か。それに神官とは。貴族でもないのにもう子供を魔法使いにしているのか。神官の家系っていうのがポイントなのかな?
「そうかぁ。色々と大変そうだね。魔物も倒しているのかぁ」
「そうだよ。パパについていって勉強中なんだ」
なかなかスパルタなんだね。こんなところで家族4人だけなんて力がないと生きていけないもんなぁ。あっ、信者的なものもいるのか。何事も助け合いってさ。
夜は食事に呼んでもらって一緒に食べた。久しぶりの家庭料理がとてもおいしい。わいわいとした食卓にも温かいものを感じる。その分、俺の心は寒くなるんだけどね。
「キーン君はこれからどうするんだい?何か予定とかあるのかな?」
「これといったものは特にはないんです。北の町からここの湖を目指してきたので、しばらくはこの周辺をまわってみようと思ってます。それとこの島の遺跡も見たいのですが、お許しいただけないでしょうか?話に聞いて是非とも見たいと思って来たんです」
「もちろん大丈夫だよ。誰にでも開放しているからね。ただ私達と一緒じゃないと遺跡にはいけない。キーン君さえよかったら明日にでも案内するよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
お腹いっぱい食事をご馳走になって、客用の部屋に案内してもらった。好きに使っていいそうだ。なんていい人達なんだろう。裏がないか疑ってしまうのは俺の悪い癖だが、思わず考えてしまった。
神殿の生贄にするために太らされてるんだとしたらこわいな。まぁそんなことはないだろう。明日は遺跡に案内してくれるらしいから楽しみだ。
今日はこのまま寝てしまおう。久しぶりにベッドで寝るわ。おやすみなさい。ちゃんと寝れるかな?
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