第57話 お金稼ぎしてまた移動

食堂のおばちゃんと話をして町と周辺の情報をゲットした。東に80キロほどで王都があり、温泉が有名だってさ。この国で他に有名なものは南にある大きな湖ぐらいで、他には思い当たらないという話だった。


うーん。他に何かないものか。ないなんてことはあり得ない。ただみんな他の土地のことなんて知らないんだけだろう。町から出たことないって人も多いようなこわい世界だもんね。何日かこの町でお金稼ぎするつもりだし、その内勝手に情報も集まるだろうと期待しよう。


冒険者ギルドで仕事がないか聞いてみる。街なかの依頼として外壁修理があったので受けておく。ちなみにギルドは新規登録だ。国にぶら下がってる組織だからね。国ごとに登録し直す必要がある。子供でもオッケーなあたりがなんともブラックだがそれに救われてる俺。子供の労働者人口も多いんだろうなぁ。


依頼を探したあとに、逃亡途中で採取した薬草類などを売る。魔物の素材は剥ぐ時間がなかったし、変な詮索を受けたくなかったので今は無し。もう少し様子を見て大丈夫そうだったら売ろう。


外壁の修理は明日からなので今日は周辺の地理を確認。北には小さい川があって、東と南にそれぞれ大きめの森があるのか。うん?西にも森があるのか?どんな魔物がいるのかな?ゴブリン、コボルト、キラービー、フォレストバード等々。問題は・・・ギリギリだな?


まだ時間もあるし魔物狩りに行ってみようか。ゴブリンさんは出てこないでね。出来ればオークがいい。あとは狼さんなんかも歓迎します。早速森へ!


「ガキ。こんなところで何やってんだ?」


お?久しぶりにからまれたぞ。11歳児が一人で森にいればそりゃこんなもんですわ。さてどうしたもんやら。


「どうも。僕はキーンといいます。人族でこれでも冒険者ですけど」


「そうなんか。お前みたいなガキがな。嫌な世の中だぜ。おう邪魔したな。まだ小さいんだから気をつけろよ」


意外と親切なのね。ありがとうおじさん。他にも何組かの冒険者パーティーがいた。人が結構いるな。これじゃあ「自宅」は使えない。「自宅」無しの俺なんて刀のない侍のようなもの。威勢がいいだけのクソガキ丸出し。これじゃまるで頼りないし落ち着かない。


余程弱い魔物でもないとすぐ死んじゃうよ?多少訓練したとはいえ、保険がない状態で戦うのは嫌だ。保険たっぷりで薄く長く稼ぐのが俺の人生プランだし。全然そんな風に見えないって?そう、人生とは思い通りにいかないもの。それだから楽しみがあるって・・・そうでもないか。


魔物狩りは早めに切り上げ、地理の確認のために大まかに町の周辺をまわったあたりで時間切れ。日がすっかり暮れた。町に入ってご飯を食べて物陰で「自宅」に入って就寝。


それから1ヶ月ほど町に留まり労働に励んだ。外壁の修理をし、森で採取と狩りをしてある程度お金を稼いだよ。普通の11歳児にしては体力があるつもりだが、力仕事は限界があった。やっぱり魔物討伐はお金になるっす。っす、自分嬉しいっす。


ギルドではちょっと怪しまれたけど、仕方ないから魔法使いだと打ち明けた。ごちゃごちゃうるさい奴等め。お前らが心配なんかしていないのはわかっている。


なんでもいいから情報を集めてその内誰かに売れたらいいなとか思っているんだろうな。これだからギルドは嫌だわぁ。


装備も少し改めた。着替えの服を数着、あとは短剣を買ってみた。そこそこのお値段だったが先行投資だ。そろそろ短剣の訓練を始めたい。攻撃力って結局武器の力が大きいもんね。


さて、お金の余裕が少し出来たしそろそろ逃避行の続きを進めようか。遠方の地理も多少掴んだので南部の湖とやらに向かうことにしよう。思い立ったが吉日。洗濯したばかりのマントで気持ちよく出発だ。


街道をひたすら南下。馬車はパスしてやはり徒歩。南の森の外側を舐めるようにして南下する。またも山が出現するが2つほど越えてさらに南下。120キロほどの移動に5日をかけてようやく湖についた。足が棒のようだ。


視界に広がる湖はまるで馬鹿でかい川のようだ。もっと丸い感じをイメージしていたのに、思った以上の規模に圧倒される。対岸はよく見えない。はるか遠くに木らしきものがあるように見えるという程度。


左右をみてもはてしなく湖面が広がるのみ。湖沿いにいくつも集落があるって聞いた。さらに湖の中央には大きな島があるとのことだった。正確には島ではなく湖に突き入るようにして伸びた地続きの陸地らしいのだが、土地の人達には神聖な場所とされているらしく、島と呼んで区別しているらしい。


山の様子も随分ファンタジー心を刺激するものがあったが、そろそろ神聖な島とか、禁忌の地とかそういうのが欲しいよね?迷わずその島を目指すことにしたよ。湖沿いの街道を反時計回りでまわっていく。途中の集落で食料を買い足しながら島についての話もきいて回る。


島は神聖な地ということだが誰でも気軽に入れるらしい。島には遺跡があって、それが信仰対象ではあるものの土地神的な扱いらしく、地域密着的?なのか知らんが厳格な教えや決まりはないってさ。だからこそ昔から敬われていて、今も親しまれているんだろう。歴史があるんだね。


島が遠くに見えてきた。それとともに今まで見てきた景色とは少しずつ様子が変わってきた。やたらと花が多いし、なにより一本一本が大きい。木にいたってはあまりの大きさに、自分が虫にでもなった気分になってくる。やべーなこれ。


遺跡の一部なのか、石の壁のようなものが崩れた形で途切れ途切れある。昔は都市のようなものだったのか?湖もなかったとか?


だんだん島に近づいていくと花は俺の身長くらいの大きさだし、木はもうどうなってるのかわからないレベル。草ですら数メートルの高さで茂っている。


これ魔物大丈夫か?と思ってしまうが、道を歩いていれば襲われることはないらしい。嘘くさいなと思ったがどうやら本当に襲ってこないようだ。普通に歩いてる人が結構いる。念のため警戒しながら島へ渡る道を進む。いいんだよね?このまま入っちゃって?


島の中央までは1時間ほどかかった。すると木造の立派な建物が現れる。これが神殿か?管理している一族がいるらしいけど、どこにいるのかな?


とりあえずその木造の建物の入り口をノックする。するとハーイと返事があって、扉を開けてなかから子供が2人出てきた。どうもキーンです。

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