第54話 いやになっちゃうよ

「陛下。此度のミスリル化銀貨の件について小臣より陛下に奏上したき儀がございます。陛下におかれましては既に委細ご承知のこととは存じますがリーサード・クエル伯爵とその配下軍閥貴族による反逆の事実を確認致しました。小臣の横に控えるこの者がキーンです。この者の証言を得てこれより速やかに近衛による伯爵捕縛を実行致したく、ご裁可たまわりたく小臣伏してお願い申し上げます」


「良い。左様にいたせ。宰相に近衛の兵権を一時委譲することとする」


「ハハッ!小臣謹んで御意を承ります」








「クエル様。宰相の動きが尋常ではありません。どうも近衛を招集しているようです。目標はクロッシ様かと・・・」


「臆面なくよくもやるものよ。羞恥心すらないか。それとも我々が戦争をしたがっているなどと本気で思っているのか?まさかな。生贄として私を吊るし上げるということか。まったく。死んでいった兵も浮かばれんな」








1ヶ月ほどが経ち、ミスリル化銀貨事件は終結した。リーサード・クエル伯爵以下、3名の貴族とその家族が処刑されたという。王都を中心にさまざまな噂が流れては消えた。


曰く、軍閥貴族による暴走。曰く、宰相による軍閥貴族への引き締め。

曰く、戦争をさせたい商人による通貨偽造。曰く、隣国による経済攻撃。

曰く、子供のいたずらから始まった茶番。


真相は誰も知らない。当事者達ですら正確に把握していたかどうか。おそらく真相などというものは初めから存在していなかったのだろう。俺は途中から何も分からなくなって考えるのを止めた。


国王側の話しに納得し、軍閥側の意見になるほどと思った。どちらが一方的に悪いとか良いとかいうものではなかった。


さらに商人の思惑や他国との関係等々複雑に絡まりあっているようで、とても深さを測れるものではなかった。


表面的には先に言ったように軍閥の頭を宰相が抑えた形になった。俺に関して言えば、黒ずくめのお仲間になることが決定。


汚れ仕事のチームだ。子供は子供でかなり使える駒だと考えられたようだ。俺の魔法のこともある。親子を装って潜入捜査でもしろって感じか?無邪気にターゲットに接近して暗殺でもしろと?んなもんごめんだぜ。


俺は一時ダークサイドに堕ちたと考えていたが、今はそうではなかったと思っている。ミスリル化した銀貨なんて、実際のところ大して重要ではなかったのだ。


間違いなく大問題だったはずが、今回の場合はその問題が捻じ曲げられて歪んだ挙句、別の問題にすり替えられ、当初の問題は流されてしまった。


再びミスリル化銀貨が発見されでもしない限り、このまま無かったことにされるだろう。とても素晴らしい解決方法だ。全てがそうとは思わないが、人のやることなんてそんなもんだ。


ヤツ等にしてみたら俺という存在も小さな小さな歯車程度で、無かったら無かったでなんの問題もなかったんだろう。


そう割り切れば、俺はこれ以上ここにいる必要を感じない。もう責任を感じて悩んだりもしない。むしろ早くこのドブの海のようなところから離れたい。勝手なことばかり言うなって?いいや勝手にやらせてもらうよ。


10数えてくれ。鬼ごっこの次はかくれんぼだ。道化は権力じゃ縛れないぜ。やつらどんな魔法を使ってくるかな?どうせ自信満々で来るんだろう?面倒だけどやってやる。


始まりはいつだって突然ってね。よーいドン!

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