第55話 とんずらだ

こんにちは。キーンです。ただ今逃走中です。現在地は王都から東に10キロといったところでしょうか。なんとか独走態勢に入っていますが、黒ずくめの追い上げが気になるところです。


口ひげに協力したことで、身体的な拘束はなくなり監視も緩くなっていたのでなんとか逃げる隙を見つけることができました。まぁ簡単じゃなかったですけどね。


俺の「自宅」は隠れるまでは良いけどそこから手詰まりになりやすい。黒ずくめ連中にそこまではバレていないはずだが、俺がいなくなった地点を中心に探すのは当たり前のこと。だからちょっと考えたよ。


一番厄介な黒ずくめのおっさんが近くにいない時を狙って速攻で「自宅」を披露。もちろん自分が緊急避難するタイプではなくて、監視のおっさん達を招待するタイプです。閉じ込めさせて頂きました。


俺がおとなしく従うと本気で思っていたわけではないだろう?正解です。そこからさっそく突っ走りました。監視チームの皆さん?家族はいるのかな?心配しなくていいからね。ちゃんとおうちに帰してあげますよ。


有言実行。「自宅」に閉じ込めた皆さんは広い川の真ん中で外に出てもらいました。出口を出しておけば彼らの意思で勝手に出てくるからね。つまり外に出た瞬間川にどぼん。俺は再びダッシュ。青い空。白い雲。ランニング日和。


大自然。草原をランニングしてます。健康的ですね。気持ちがいい。これほど視界がひらけていれば魔物の脅威もそれほどありません。「自宅」が頼もしいです。山岳トレーニングを積んだキーン少年にとってみれば軽いものです。


今度こそ本当にアロンソ王国からサヨナラだ。銀貨事件で1ヶ月も付き合ってやったんだ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないぜ。


口ひげいじってないでありがとうの一つも言ってくれたらなぁ・・・宰相さん。そこに金貨が1枚2枚と積まれていれば俺だって今頃茶番劇団に入団してたかもしれないのにさ。


また追いかけてくるのかな?やめてよね。あんまりしつこいとあんたにも「自宅」監禁プレイを体験してもらっちゃうからね?でもまさかそっち系じゃないよね?逆にありがとう的な?私目覚めちゃったとかってカミングアウトは聞きたくないよ?


しかしある程度バレたというのもあるけど、一度吹っ切ると「自宅」使いまくりだな。紛れも無く俺の力なんだから使ったっていいよね?


「自宅」を使うことで起こるリスクばかり恐れてできるだけ使用を控えたり、やっぱりなんかズルしてるみたいで嫌だったりしたけど、これが俺の魔法だと考えれば後ろめたいとは思わない。これからはもっと積極的に使っていこうと思う。


「自宅」に大きい石とか入れておいて空から落とすなんていう攻撃への利用方法も考えてみたりした。石じゃなくても何かを落として攻撃するのは有効そうだ。


王都でのあれやこれ、孤児院の皆のこと、自分のこれからなんてことをとりとめもなく考えて走っていたら。日が傾いてきた。


休憩を入れつつ6時間は走ったな。足は痛いけどまだまだ元気。山の神様、僕丈夫になりました。ありがとうございます!「自宅」を発動してなかに入り、食事をし眠る。


目が覚めて水を飲んだら、外にでて今日も再びマラソン開始。お昼近くまで走っているとスービの町らしきものが見えてきた。だとするとここは王都から110キロほどの地点か。このあたりまでは予定通りだな。


あと100キロほど東に進めばロルドナ王国との国境だがどうしようか?現在地から南東方向に同じく100キロも行けばマルフメン王国の国境付近。


正直どちらの国に向かっても長居するつもりはない。アロンソと国境が接している国は避けたいからね。コラリオにいたときのように、黒ずくめが探しに来たらたまらんものな。


となると次にどこに向かうか?ということになるわけだが、正直隣国から先の地理があやふやだ。どんな国があったかはっきりとは思い出せない。勉強したはずなんだけどなぁ。地理は苦手なんだよねー。名前も憶えにくいし。


ロルドナは大国で国の北側は海にも接している。マルフメンはアロンソと同程度の大きさで国土の4分の3ほどが山岳地帯だ。海を見るならロルドナだし、コラリオでの修行を生かすならマルフメン。


まぁ海に出たところでそこから簡単に船旅なんて出来ないだろうから結局陸路で隣国に抜けなきゃいけないだろうな。それならマルフメンの山を攻略してさらに東に抜けたり、南下してハンブルン王国に入ったほうがいいか。


よし決めた!ここから南東に下ってマルフメン王国を目指そう。黒ずくめ連中は追ってくるにしても馬移動だろうからぐずぐずしている時間はない。さっさと行動だ。


日よけがわりに安物マントのフードをかぶる。オオトリと一緒にコラリオに逃げたときとは違うドキドキ感が湧いてくる。いつの間にか非日常が日常になったような気がする。心配事は相変わらず多いけど、冒険者キーンの旅の始まりだ!


さぁ出発の鐘を鳴らせ!いや待て、追手に見つかるぞ!鐘は鳴らさず出発だ!そろそろ街道から外れて移動することにする。馬が通れない場所がいいな。お水を飲んでから草むらに入ってまた走る。

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