第53話 茶番劇団の人達

俺はアロンソ王国の王都まで連れ戻された。どうやってここまで来たのか分からない。あれから何日経ったのかさえ分からない。目が覚めるたびに何かの魔法を使われて気を失っていたからだ。催眠魔法的なものではないかと思う。


現在は王宮の一室に監禁状態だ。体は縄と鎖で縛られて、さらに縄は騎士の一人に繋がっている。これでは「自宅」には入れない。騎士も一緒に引きずり込めば入れるけど・・・結局なんの解決にもならない。監視は常に3人はいる。


拷問などはされていないから体に異常はない。さて、これからどうなることやら。前に拉致された時は軍閥系の勢力が動いていたはずだ。そして今回の黒ずくめは国王方面の勢力だろう。一時は俺の逃亡を手伝ってくれる感じだったけど、今となってはそんな望みは持てないな。


「キーン。宰相閣下がお呼びだ」


騎士の一人に引かれて部屋を移動する。いくつもの部屋を通り過ぎて、ある部屋の前で止まる。そしてなかには人族のおっさん。


立派な口ひげをたくわえていて、身に着けている衣装は明らかに高位貴族のように見える。こいつが宰相だよな?騎士にひざまずかされる。


「キミがキーンか。なるほど子供だな。さてキミは現在の自分の状況をどの程度理解しているかね」


口ひげは眉間に皺を寄せて厳しい目をしている。状況?そんなものは知らないし関係ない。あんたらの状況だって知りたくなんてないんだよ。


俺は俺で楽しくやってたんだ。あんたらもあんたらでお仲間同士楽しくやっててくれよ。何をふんぞり返って見下してる?気にいらねぇんだよ。


「状況と仰られても僕にはなにがなんだか分かりません。おそらく以前の銀貨の件でお呼びかと存じますが僕では何のお力にもなれないかと存じます」


「ふむ。学校に通っていただけあって、話しは通じるようだな。キミにはその銀貨について知っていることを正直に話してもらう。例えキミが本当に何も知らない、ただ銀貨を拾っただけの子供だとしてもね」


「どういう・・・僕は何をすればよろしいのでしょうか?」


「キミの持ってきた銀貨のせいで今隣国と軍事的に緊張状態になっている。わかるか?銀貨の件は隣国コラリオ王国からの攻撃だと主張している連中がいるからだ。我が国の経済の混乱を狙った攻撃だとね。キミにはその連中を抑えるためのくさびになってもらう」


「具体的に僕はどうなるのでしょうか?」


「キミの身の安全は保証しよう。どうなるものでもない。」


いまいち話しが見えないな。俺をどうしようっていうんだ?


「私が指定した軍閥貴族の一人を訴えてもらう。銀貨の件はその貴族からの指示だったとね。連中は戦争がしたくてしたくて仕方がないのだ。理由は色々とあるが、それはまぁいいだろう。連中は開戦の大義名分に今回の銀貨の件を利用しているということが要点だ。だが国王陛下は戦争を望んではおられない。わかったか?キミにはその大義名分を覆してもらう。軍閥貴族の自作自演だったと」


ずいぶんなんだな。軍閥の戦争好きな連中に俺の銀貨が利用された?お気軽な理由だが、軍閥にとっては戦争のきっかけなんて何でもよかったという感じか?それだけではないだろうが・・・俺が分かるはずもないか。


でも俺の心のわだかまりは軽くなったよ。俺の軽率な行いのせいで・・・と考えたりしたけど、軍閥連中はただドンパチしたかっただけと分かった。少なくとも俺のアクション自体を問題視して騒いでるわけではなかったんだ。


それを踏まえた上でこの口ひげの命令。俺に拒否権があるはずがない。もう決定事項なんだろう。もともとは俺が投じた一石だし、こうなった以上やるしかないんだろうけど・・・また道化に逆戻りか。


「それにキミは珍しい魔法を使うと聞いている。これからも我が国のために働いてもらう。一度学校に戻してもいい。今回の件が済んだら考えよう。細かい詰めの話は後日だ。話は以上だ。下がっていいぞ」


一生飼われるってことか。実際悪い話ではないんだろうな。宰相直々に話を聞かされるくらいだからさ。ある程度の不自由に目をつむって、ハイハイ黙って従ってればかなりいい生活を送れそうだ。


だけど・・・嫌だよ。軍閥連中が戦争狂いで、暴走し始めてるっていうのだって怪しいもんだ。そんな奴らばかりならここ数十年なんで戦争が起こっていないんだ?


口ひげ君。もう少し様子を見させてもらうよ。あんたらの茶番劇団に所属したつもりはないからね。道化はパートタイムでよろしく頼むよ。


そもそも口ひげは分かっていない。黒ずくめはちゃんと報告してないのか?俺はいつでも、口ひげ君。いつでもあんたを「自宅」にご案内できたんだぜ?自爆技でも構いやしない。死なばもろともってさ。黒ずくめなら分かりそうなもんだが・・・対策済みだったか?


再び元の部屋に戻されてまたピリピリとした雰囲気に包囲される。あぁ暇だ。さてと。少し落ち着いたところでここで再びあのセリフを言わせてもらおうか。


「俺の先手だ」


口ひげさんよぉ。人質の第一候補はあんただぜ!実際は先手ってほどでもないけど、ポジティブにいかないとプレッシャーに潰されるわ。


思わず笑いそうになる。俺はなんでこんな所で縛られているんだろう?あいつらは子供相手に何をそんなに期待してるのだろう?俺はなんでこんな状態で笑いを堪えるほどの余裕があるのだろう?


「自宅」か?結局はそうなのか?いやそれだけじゃない。こわいという感情よりも、面白そうだというニヤニヤが先にくる。怒りも失望も後悔も上回っている。


動き出したくてウズウズする。これはいよいよ危ういな。短期間に世界が変わりすぎておかしくなっているのかもしれない。感情を抑えろ、派手に踊らされることになるぞ!


とりあえず羊を1000匹数えて集中力をアップさせよう。ある意味ここは安全な場所なんだ、ありがたく休ませてもらうぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る