第51話 運がいい?

ただ進まねばならない時がある。過去に先手だ先手だと得意になっていた俺は死んだ。今の俺は新しく生まれ変わった次世代の道化。ジャンピング土下座はもう卒業だ。過去という名の屍を越えて進めキーン。


俺というピエロがいかに物凄いジャグリングをかまそうが、どこまでいってもピエロはピエロ。おひねり程度では不十分。だからこそ蘇った道化は自腹を切って笑顔を金で買う。そう!スキル「ばら撒き」の封印を解くのは今!


「ドワーフのお姉さん。僕はキーンといいます。人族で11歳です。今まさに迷子になって困っていました。大変申し訳ないのですが近くの集落まで案内をお願いできないでしょうか?失礼な話しで恐縮ですが、銀貨2枚で僕のガイドに雇われて欲しいのです」


ダメだ!これでは「ばら撒き」が成立していない。小銭を見せびらかすただの失礼なガキになってしまった。その辺の繊細な言い回しが「ばら撒き」の肝心な部分なのに!しかも本能的に金をケチってしまったぞ!これは失敗したか?


「子供がこんな山のなか一人で迷子?ハッハッ!変な子だね。怪我もしてるみたいだけど大丈夫なのかい?ま、いいか。あたしを案内に雇うって?いいよ。集落まで案内しようじゃないか。歩けるかい?さ、いくよ」


お?セーフか。これが子供特権とかいうものか?違う?まぁいいか。なかなかさっぱりした性格の人みたいだしラッキーだったぜ。ってオイ歩くの速いよ。待て!待ってくれ。いや待って下さい!おば・・・お姉さーん。


「じゃあ孤児で流民ってことかい?たくましいね。あたしはずっと山暮らしさ。町に下りたこともないよ。でもあんたよくもまぁそんな軽装で来たもんだ。腕折れたって?ハッハッ!バカだね。トレントはどこにでもいるからね。怪しい木があったら石でも当てて確認するしかないのさ。道の近くなら定期的に処理してるから心配することないよ。でもあんたロックんロールを仕留めてたね。焼いて食べたかい?大して美味くなかったろ?岩場には結構いるから最悪の場合には食べるけどね。あんたそのマントカッコいいね。どこで買ったんだい?ブラックウルフの毛皮だろ?」


このおばさん系お姉さんはなんともお喋りだな。ストレスでも溜まってるのか?話しをするのはいいけど、俺の話聞いてる?なんかひとりでしゃべってひとりで納得してない?俺さっきから腹話術師の人形みたく口をパクパクさせてしゃべろうとしてるのも見えてないのかな?


「それであんたはあそこで野宿してたのかい?野営の道具もないみたいだけど。よく死ななかったね。あそこはいい水場だから魔物も結構来ただろ?。え?運がよかったって?そりゃそうだわね。あんた山の神様に感謝するんだね。おっと熊吉君だわ。え?そうだよ、ありゃここいらじゃ熊吉って呼ばれてる魔物だよ。力が強いし足も速いよ。下手に動くんじゃないよ。こっちまで危なくなっちまうからね。さてと「ファイヤーボール」ってね」


わお。この人さらっと魔法使ったよ。俺の頭くらいの火の弾を手のひらの上でゆらゆらさせている。熊の熊吉はこちらを警戒しつつ去っていった。しかし熊吉って!ロックんロールといい、ネーミングセンスが抜群だな。


「どうだい?大抵の魔物はこうやって魔法を見せれば退いてくれるんだよ。もちろん突っかかって来たら本気でぶっ放すけどね。ハッハッ!あんた魔法は?拘束系?それでなんとか生き残れたんだね。あたしにも見せてくれよ。だめ?なんだいケチくさいね。ところであんたちゃんとご飯食べてるのかい?顔色悪いよ。なんだか呼吸も荒いね。あたしが歩くのが速いって?ハッハッ!すまないねぇ。気がつかなかったよ。でももう少しだから我慢して歩いておくれ。ほらほら見えてきたよ」


おぉ。いきなり視界がひらけてきたぞ。あれが集落か。周囲を木の柵で囲んである。やっぱり魔物対策にはこれくらい必要か。


「おーい。あたしだよ。帰ってきたから門を開けておくれ」


「コーリンか。横の子供は何だ?お前いつの間に子供を産んだ?」


「バカ言ってんじゃないよ。この坊は川で拾ったんだよ。迷子だってね。いいから門を開けておくれ」


これが山の民の集落か。木造山小屋風と石造りの家が半々くらいか?計画的に建ててるようには見えないな。高床式倉庫っぽいものもある。牛とかヤギ的なものでも飼ってるのか?若干におうな。


「キーン。とりあえず案内はここまでだ。この集落には宿なんかないけど、客用の家があるよ。泊まるなら長に挨拶にいきな。ここをまっすぐ行くと石造りの大きい家があるからね。じゃああたしはここまでだ。うん?お礼の銀貨?そんなものいるかい。じゃあね」


お姉さん、素敵です。口数が多すぎてちょっときつかったけどありがとう!マジで助かりました!さて、長とやらに挨拶しにいくか。


すれ違う人はドワーフが多いみたいだ。人族は見かけない。後の人種はわからん。言われた通り少し歩くとすぐに長の家らしきものについた。ドアをノックしたらドワーフの子供が出てきたので、長に挨拶にきた旨を伝える。


意外とあっさり家のなかに入れてくれた。通された部屋には切り株みたいな椅子に座っているドワーフの老人が一人。


「はじめまして。人族で流民のキーンと申します。11歳です。山で迷子になっていたところをコーリンさんに助けて頂きました。それでこちらの集落に案内して頂いたのでご挨拶に伺いました。よろしくお願い致します」


「ワシはこの集落の長でボーガントという。坊は11歳か。なかなかにしっかりしておるのう。じゃが坊ひとりか?ずいぶん怪我もしとるようじゃが」


俺は麓の町からの経緯を簡単に話し、何日か泊めて欲しいとお願いした。


「ふむ。問題さえ起こさなければかまわんよ。孫に案内させよう。おいルーイや。おいで。この坊を離れの家に案内しておあげ」


玄関からここまで案内してくれた子供がはいと返事して俺についてきてと先に立って歩く。家を出てたところでお互い軽く自己紹介をした。


ルーイは15歳と言ったが身長は俺より低い。140くらいだろうか。しかしドワーフのお約束のような筋肉の鎧をまとっている。どこのジムに通ったらそんなえげつない筋肉を獲得できるんだ?まさか生まれた時からムキムキだったわけではあるまい?今度紹介して貰おうっと。


しばらく話しをしながら歩くと一軒の山小屋風の家を指差してここだという。家のなかを軽く案内してもらってルーイは帰っていった。後でまた迎えにくるから休んでいろということだ。


何しにくるのか知らないが、うんと返事しておいた。ふー。さて、これで少し落ち着けるな。「自宅」では十分に休めていたはずだが、人里に着いたことで気が抜けたのか急にどっと疲れが襲ってきた。


少し横になろう。水を飲んでベッドに横たわると、俺はすぐに夢の世界に沈んでいった。やべ、ロックんロールを捨てるの忘れてた。掃除するの面倒だなぁ。

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