第43話 奴らと一緒に
「ようキーン。久しぶりだな。また会えるとは思ってなかったよ」
朝になってお店が開いたので食料を買うために行動を開始したら、冒険者のドミニクさんが現れた。このタイミングで声をかけてきておいてよく言うぜ、おっさん。どうせ面倒事なんだろ?
「どうもドミニクさん。買い物ですか?」
「いや、仕事だ。そう睨むなよ。お前の護衛に雇われたんだよ」
「・・・へぇー」
しかしまた面倒なのが出てきたな。俺に護衛?それが本当だとして、どこの筋から来たんだ?あんまりややこしい真似しないで欲しいよ。こっちは昨日さんざんボコボコにされて身も心もくたくたなんだからさ。
これから逃亡生活に突入しようっていう11歳児をもう少し労わって欲しいもんだよ。あんたなんか必要ないんだ。俺はシンプル且つ軽やかに逃げたいの!
「お前が昨日受け取った手紙の差出人に偶然雇われたんだよ」
手紙・・・黒子野郎だな?あいつに偶然にねぇ。ハハハなかなかどうして素晴らしく都合のいい偶然だこと。俺が赤ん坊でもそんな話信じないわ。
「そうですか。他の3人も一緒ですか?」
「あぁ、もう壁の外で待ってるよ。準備ができたなら行こう」
おっと、もうあんた等と一緒に行くのは決定事項なんかい。ここで断ったり逃げる素振りを見せたらどうするつもりかな?前に俺とは敵対したくないなんて言っていたけど・・・あんたの覚悟がどれほどのものかいずれ確認させてもらうからな?
とはいえ今このおっさんと敵対するのは得策ではない。フードをかぶってドミニクのおっさんについていく。そうそう昨日黒ずくめの男が置いていった手紙の話もしておこう。
あの手紙には俺に逃げ続けて欲しい旨のことが書いてあった。もちろんその理由なんて書いてなかったよ?そして旅先でも俺にある程度の便宜を図るようにという内容の宰相名義の書付が付いていた。
この書付を使えば外壁の検問を抜けることができる。最悪こんなものが無くてもどうにかする自信はあったが、折角貰ったので使おうとは考えていた。
さて書付には宰相のサイン。となると黒ずくめ野郎の主人は宰相。ならば俺を捕まえた騎士と宰相方面は別勢力ってことか?軍閥勢力と王側勢力の対立は有名な話だからな。俺にとってはどちらも危険だから、信用なんかできないが、俺をオモチャに綱引き遊びか?くだらねぇ。こっちとしてはいい迷惑だ。
ドミニクさんと一緒に王都外壁の門に向かう。こうして歩いていると普通の親子に見えなくもないかな。門に到着、検問はどうなるかと思ったが、貰った書付を見せるまでもなく突破できた。ドミニクさんの方であらかじめ話を通していたのか、そもそも俺を捕まえろなんて命令なんて出ていなかったのか・・・。
門を抜けたところでドミニクさんのお仲間が待っていて、合流した流れのまま出発した。これでバイバイ王都ちゃんか。何人かお別れを言いたかったがしかたない。
いつか会えるかもしれないしね。まぁ無理だろうけど。みなさんお元気で!
暫く歩いたところで目的地を確認する。なんか雰囲気に流されて大人しくオオトリの連中にくっついて歩いてたけど、一体どこに向かってんの?って話だ。
それで分かったのが南進計画。王都からおよそ120キロほど進めば隣国コラリオ王国に入ることができるらしい。目指すは隣国コラリオ王国ね。林や森やちょっとした丘のようなものはあるが、高い山なんかはなく比較的移動しやすいコースのようだ。
もともとドミニクさん達のパーティー、オオトリは近いうちにコラリオ王国に向かう予定だったらしい。そこで都合よく俺の護衛という結構大きな小遣い稼ぎの話を聞かされ、仕事として受けたということだ。
もちろん俺はそんな作り話を信じていない。けれどまぁ・・・そういう設定だと言う事だ。俺自身、どこそこへ行きたいなんていう希望はない。遠くに、出来れば他国まで逃げたいなぁとは思っていたから一応オオトリの示した目的地は俺の思いと合致する。今は様子を見ようじゃないか。
「キーン。あらかじめはっきり言っておくが、俺達の仕事はお前の護衛と監視だ。
事情はよくわからんが、俺達の雇い主はお前に死なれちゃ困るし、勝手にどこかへ行くのも許さないってことみたいだな」
「そんな話を僕にしてしまってもいいんですか?そもそも僕達っていま隣国を目指してるんですよね?ドミニクさん達が監視していれば国外に出てもいいってスタンスなんですか?」
「正直に話したのはいきなりお前に逃げられると困るからだ。お互いの立場をハッキリさせておいたほうがお前も安心だろ?隣国へ行くって話しは・・・俺達が勝手にやることでな。あちらさん的には国内での護衛と監視を依頼したつもりなんだろう」
「どういうことです?話がよく分かりませんが?依頼を無視して僕を外国に逃がす手伝いをしてくれるってことですか?」
ちょっと話がこんがらがってきたので整理してみよう。オオトリが受けた依頼は俺の護衛と監視。俺を害そうとする者を排除することと、俺がどこかへ雲隠れしないように見張るのが仕事。そこには国外逃亡の阻止も含まれる。
しかし彼等の話では、真面目に仕事をするつもりはないとのことだ。俺を安全圏に逃がすと偽って今回の依頼をゲットしたとのことだ。もともと他国へ行く予定があったので、途中まではちゃんと仕事しているように見えるはずだと言うのがオオトリの連中の考えだ。
「宰相側はキーンを軍閥への攻撃材料として利用したいみたいだな」
「かもしれませんね。けど僕にとってはどうでもいいことです。大事なのはオオトリの皆さんがどこまで仕事熱心なのか?ということだけですよ。僕は安全圏へ脱出さえ出来れば、皆さんが敵だろうが味方だろうが、さっきの話が本当だろうが、嘘だろうが興味がないんですよ」
「そうだろうな、お前の立場なら。話は少しズレるが俺達はこれでも結構名の通ったパーティーでな。だからこそ今回の依頼がきたんだと思う。偶然にしてはできすぎていて、キーンからして出来の悪い演劇を見ているようだろう?しかし宰相サイドは俺達とお前に接点があったことは知らないはずだ。少なくとも俺達は話していない。俺は嘘は言っていないよ。あとはお前が信じるかどうかだ」
裏がないと言いたいのか?あとは俺が信じるかどうかだって?嫌な話し方しやがるな。まるであんたが正義の味方みたいじゃないか。柄じゃないぜおっさん。
「あちらさんの話ではキーンは普通の子供だということだった。学校に通っていて優秀だとも言ってはいたがな。だがお前はどう考えても普通の子供ではない。俺達はそれを知っている。正直言って俺達はお前と敵対したくないんだよ」
オオトリの連中は確かに優秀な冒険者なんだろうな。経験豊富なのは間違いなさそうだ。俺みたいなガキでも油断しない。それだからハッキリ警戒している。
「お前はホントに怪しすぎる。今になって思えば、お前があの日俺に話した銀貨の話。あれだってまるで今の状況になることを想定して、あらかじめ俺に吹き込んだんじゃないかと疑いたくなる。なぁ、俺の考えすぎか?」
ないよ。そりゃさすがに飛躍し過ぎだ。そこまで神懸かった予測なんてできるわけない。俺は占い師でも預言者でもないんだわ。
「騎士の駐屯地を独力で脱出したんだろ?お前の手の内がぜんぜん読めないぜ。そんなお前を敵にしたくはない。俺もいい年だ。強そうなやつを前にするといてもたってもいられない、なんてのはもう昔の話さ」
勝手に俺を恐れてくれるのはいいが、いまいち腑に落ちないな。依頼を無視してまで俺を国外に逃がすってさ。一体どういうつもりなんだ?理由が分からんよ。
「もう前金は貰っている。それもかなりの金額だ。俺達にはそれで十分。残りを受け取るつもりはない。これが答えだよキーン」
十分な前金を貰っているから、このまま外国へ逃げちゃっても問題ないって話か。
「そうですか。ドミニクさん達とは色々ありましたけど、仲良くできそうでよかったです。短い間ですがよろしくお願いします」
もちろん本気で仲良くなれるなんて思ってないぜ?ドミニクさん、あんただってそうなんだろ?どこまで本気か楽しみにしてるよ。
ある程度お互いの事情が共有できたところで、改めてオオトリのメンバー4人の紹介が始まった。ここまではドミニクさんとしか話してなかったからね。
「俺はランカムだ。精霊族で遊撃担当だ。オオトリのリーダーをしている」
精霊野郎ですね?お久しぶり。
「私はパーム。エルフだ。弓を使う」
キレやすいエルフ女ですね?知ってます。
「ゴクノバ。犬系獣人。前衛」
お。そういえばこの人の声はじめて聞いたかも。この女獣人には剣で首斬られそうになったし!忘れてないよ?俺は。
「そして俺ドミニク。人族で両手剣を使う。もちろん前衛だ」
以前あったことはお互い水に流そう、これからよろしく頼むとランカム君から言われた。こちらこそと返事を返しておく。
それからは、またしばらくドミニクさんと情報交換をした。他の連中とは話しが通じなそうだからね。街道をひたすら南下しているだけなので魔物の脅威はあまりなく会話の時間は十分にとれた。
途中何度も休憩を挟みながら歩き続け、日が暮れる前に野営の準備をして夕食をとった。火を囲んで座り、まったりしたところで精霊野郎からコンタクト。
こっちは病みあがりの上にずっと歩き続けて足も痛いし、もう寝たいんだけどなぁと思いつつ相手をすることにした。
なんだかんだテンションが上がっていて、そんなに眠くもなかったしね。さて何の話なんでしょ?そういえばこのランカム、精霊野郎のくせに浮いてねぇな。ねぇ、なんで浮いてないの?なんて聞いたら失礼なんだろうな。
けど気になる。空中浮遊してよ!精霊族といえば空中浮遊でしょ!ほら!見せてよ!ねぇ!早く!
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