第44話 国境付近で

疲れた。足が痛いっす。我々は森の中で戦闘中です。ランカムの精霊野郎が街道には騎士がうろついてるっていうんで、森のなかを移動することになりました。


歩きにくいし寒いし気味悪いし魔物はいるしでいいことなしですわ。戦闘はオオトリの連中がサクッと終わらせてくれるので楽ですけどね。


彼らの強さは半端じゃないっす。絶対に魔法的な何かを使ってるよ。身体強化的な魔法とでも考えないとあの動きはおかしいもんね。他人の魔法を見る機会なんてなかったからそこはホントに嬉しい。


ああ、ランカムさんは浮けるってさ。さすが精霊野郎だ。俺がちょっとしつこく聞いたら、うんざりした表情で教えてくれたよ。浮いて見せてはくれなかったけどね。ケチな野郎だぜ。


この精霊野郎のフォルムは人族とあまり変わらない。身長180くらいで肌の色は紫と茶色がまだら。髪はなくつるつるすべすべ。ちょっとこわい。


エルフ女のパームは170センチくらいの身長で白い肌。かなりの美形だが口が悪い。ってか五月蝿い。耳は長い・・・ね。弓なんか使って気取ってやがるぜ。気に入らんな。


ゴクノバは無口な犬型獣人女。顔は完全に犬だ。体も体毛に覆われている。身長はエルフ女と同じくらいだが、体のサイズはふた回りは上かな。尻尾があって見た目はどことなく愛嬌あるけど、性格は謎だ。まったくといっていいほど喋らないからね。


ドミニクさんは人族のおっさん。以上。


ついつい奴らの紹介なんかしてしまったが、戦闘は無事終了したみたい。憐れなオークはこのまま解体されて我等の主食になってしまうのだ!


そうそう昨日の夜精霊野郎と少し話しをした。特にこれといった話はなかったが、わだかまりは多少解けた気がする。ヤツラの紹介文を書ける程度にはね。


オイ!エルフ女と犬女!お前らももっとリーダーを見習え!子供相手に大人げないやつらだ。ま、まぁ俺は別に仲良くなりたいとか思ってないけどね。思って・・・ないんだからね!


「よし。行くぞ」


精霊野郎が出発を告げる。はぁ、動きたくないが行くしかないか。思えば遠くにきたもんだ。まだ王都を出て2日目だけど、随分遠くに来た気がする。


「オイ、お前。お前も戦えるんだろ?」


うん?エルフ女か。


「いいえ。無理です」


「じゃあ、前に埋めていたゴブリンはどうやってやった?おかしいだろ」


「さぁ、おぼえていませんね」


相変わらずうるさいやつだな。そんな昔の話を蒸し返すなよ。冷たくなった肉まんをもう一度蒸したって、もとの味には及ばないんだぜ?・・・ごめん、意味不明だよね。


「そうか。お前の魔法には興味があるんだ。その内見せてもらうぞ?」


魔法?完全に決め付けてるなぁ。俺が魔法使いじゃないとは思わないのか?しかもこいつは俺が魔法でゴブリンをやったと思っているのか。身体強化系だとでも思ってるのかな?


「あなたはどうなんですか?何か魔法を使えるんですか?」


「当然だ。教えはせんがな」


はい。そうですか。教えていただかなくても結構です。だからこっちのことも放っておいてください。


魔物との戦闘はほとんどなく黙々と歩き、当然ピンチもなく森を抜けた。そしてやっとじめじめエリアを抜けてちょっと気分がアップしたのも束の間、今度は盗賊さんらしき人達が現れる。


なんだよもう。大丈夫なのかこれ?と思っていたら、盗賊さん達はすぐにお馬さんでパッカパッカとお帰りになってしまった。どういうことだ、盗賊じゃなかったのか?


「あの程度の人数では我等の敵ではない。魔法使いがいるなら別だがな。それに・・」


なるほど。盗賊さんも冷静なもんだな。襲う相手をきっちり選んでるってことか。ただエルフ女!今の話しだと向こうに魔法使いがいたら危ないってことじゃねぇか!お前らホントに大丈夫か?


「心配そうな顔だなキーン。問題ない。あれは知り合いだ」


え?盗賊と知り合い?どういうこと?教えて!ランカムさん。


「我々はこの周辺で1年近く狩りをしてきたからな。盗賊にも知り合いがいるのだ。お互い面倒は避けたいからな。相互不干渉で話がついている」


なるほどね。さすがは旅の冒険者だ。町を守るだの、人々のためになんて正義感は持ちあわせていないのか。精霊つるつる野郎がかっこよく見えてくるぜ。


「この周辺の町や村は避けたほうがいいな。キーンを追ってる連中がいる」


続けてランカムはそんなことを言ってきた。ずいぶん断定的だね。ランカム君?なんでそんなことが分かるのかな?


「俺の魔法でわかる」


オッケー。説明ありがとう。レーダーみたいな魔法か?または千里眼的なもの?なんにせよ便利そうだな。森で魔物にほとんど会わなかったのもあんたの魔法ってわけか。


「しばらくは街道と平行して進むぞ。町も寄らずにとばす。仕方なく迂回するとしてもあと2日でコラリオ王国に入るぞ」


了解です。隊長!

俺達はそれから1日半ほど使ってコラリオ王国との国境付近に歩みを進めた。現在はまた森のなかにいる。いわゆる密入国をするためだ。


国境付近にはアロンソもコラリオも一定区間で騎士の駐屯地があり、彼等が常に巡回をしているわけだが、警備の薄い場所がないわけではない。今俺達がいる森はそんな場所のひとつ。見通しの悪い森のなかだし、忍ぶにはもってこいだ。


この森を抜ければアロンソ王国ともお別れだ。孤児院については後ろ髪引かれる思いだが、いまの俺では何もできない。悪いな皆、俺のせいで迷惑かけることになるかもしれない。正直言って孤児院のことまで考えてなかったわ。


この世界での大事な家族だなんて言っておきながら、現実はこれだよ。そう、俺は皆を裏切ったんだろうな。そうだ。そうだよ。言い訳のしようもない。でもその内絶対に確認する。それで何が変わるわけでもないだろうけど・・・。


それで差し迫った問題はオオトリの連中だな。ここまで護衛してもらったが、彼等は俺が雇った人間というわけではない。前金だけ持ち逃げして宰相側の依頼は無視するなんて言ってはいたが、本当かどうか・・・そろそろ分かるか。


「ドミニクさん。そろそろ国境みたいだけど、どうしますか?」


「ん?今日は早めに野営して、夜の闇にまぎれて国境越えだな」


「いえ。そうではなくて、僕をどうするか聞きたいんです」


「それは俺達が請けている仕事の話か?」


「はい。本当のところどうするつもりなんですか?最初に話していた通りならいいんですけど」


「お前を捕らえておくつもりなら、こんなところまで来る必要はないだろう?それでも俺達が信用できないか?それなりに苦労して護衛してきたつもりなんだが」


「護衛に関してはもちろん感謝してます。僕一人じゃ魔物の餌になっていたでしょう。ただ、はいそうですかと信用はできません。貴方達が俺を信用していないのと同じように」


「チッ!可愛げのないガキだな」


エルフ女がなにか言ってる。その言葉そっくりそのままお前に返すぜ。


「それもそうだな。信用はできないだろうが俺達の方針は変わっていない。言えるのはそれだけだ」


嘘くさいな。前金だけ持って仕事放棄っていうのはいい。どうせ隣国にとんずらして2度と戻ってこないんだろうからな。ただ、それをするのに律儀に俺を連れていく必要はなかったはずだ。


しばらく俺を連れて、監視を撒いたら俺を捨てていけばいい。あるいは口封じに殺しておくなんて選択肢だってあったはずだ。その方があんた達には明らかに都合がいいはずだろ?俺みたいな素性の知れないお荷物を、好き好んで抱える理由が俺には全然わからないよ。


分かるかな?お前らがご丁寧に最後まで俺を護衛しようとするその姿勢が嘘くさいって話なんだよ。さぁ、そろそろ答え合わせをしようじゃないか。準備はいいかな?オオトリの皆さん?


「そうですか。わかりました。僕もひとりでは心細いですし・・・では引き続きお世話になります」


まだ明るい内に野営の準備をして夜に備えて休憩に入る。やがて日は傾き森は闇に包まれた。オオトリの連中に小便だといって野営地から少し離れる。


真っ暗な夜の森のなかで「自宅」を発動すると、俺は静かに闇に潜った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る