第42話 ハイ元気です

どもども。キーンです。「自宅」に避難してから3日経ちました。時刻は・・・大体昼ですかね。体はなんとか大丈夫です。血は止まってるし、痛みもそんなにありません。


熱も下がったみたいでとりあえず安心してます。殴られたり蹴られたりして頭に血が上ってましたが今はもう落ち着きましたよ。


「自宅」を使ってあのボンクラどもを地獄に送るのは難しくありませんが、そうすると僕が逃げる時に邪魔になるので、まだ実行するつもりはありません。


というより、あんなクソ野郎共のために僕が自分の手を汚すなんてあり得ない!拷問される前には逃げれたわけだから、報復だ復讐だと叫ぶほどのことでもないのかなぁって思ってます。


さて、この3日はずっと「自宅」に引きこもってたよ。体の調子が悪かったのもあるし、お外はこわい人達でいっぱいだからね。それに「自宅」って自分がなかに入っちゃうと出入り口が固定されるから、現状出るに出られないってこともある。


迂闊に外に出たら、とたんに騎士に見つかってまたまたお縄につくことになっちゃうよ。今までどこに隠れていたんだ?なんて疑問も当然出てくるだろうから、面倒くさいレベルがさらに上がっちゃうよね?


たまに目とか耳とか、頭まるごと出したりして外の様子を窺ってはいるんだけど、騎士達は大騒ぎで俺を探してるよ。ざまぁないな。


彼らには子供一人満足に拘束できない無能な騎士として、今後の人生を実りあるものにしてもらいたい。できるものならな。


今も王都はもちろん、その周辺を必死こいて捜索しているんだろうなぁ。もう少しこのまま「自宅」で待機してほとぼりを冷ますほうがいいかな?でも食料も水もそんなにストックはないからそろそろ動き出した方がいいかな?迷うところだ。







夜になるのを待って「自宅」から顔を出す。物音はしないし人のいる気配もない。

よし、少しずつ慎重に移動を開始しよう。


「自宅」から尋問されていた部屋に出る。廊下へ出るドアをそっと開けると真っ暗でやはり誰もいない。オッケーです。完全に好都合です。


みんな寝ちゃったのかな?まさかね。誰かしらは警護なりなんなりで起きているだろうさ。油断は禁物。


少しでも怪しいと思ったらすぐに「自宅」へ緊急避難しよう。そろりそろりと慎重に進んでいく。途中で見張りでもいると思ったが、割りと簡単に建物から抜け出すことができた。警備がザルだなオイ。


あばよ貴族の下僕ども!あぁお前らも貴族だったか?お前らの縦社会なんぞ俺には1ミリも関係ないんだわ!さぁ、鬼ごっこをはじめようぜ!


建物を囲む壁はそれほど高くない。子供の俺でも乗り越えられる程度の高さだ。王都内にある施設だから、砦化する必要がなかったのかな?まぁ知らんけど。


駐屯地の敷地内から無事に脱出することが出来た。ちょっと楽しくなってきたな。体は少し痛いけど軽くなら問題なく走れる。わざと騎士に姿を見せて期待させておいてから「自宅」に隠れるなんてこともやりたくなっちゃうな。


その場合、キーン発見にテンションが上がっていきなり魔法をぶっ放してきたりはしないよね?ここ王都の中心に近いしさ。あっ、でも王都を出た後に見つかったらその可能性もあるな。


魔法が使われそうになった場合「自宅」を見せずに乗り切るのは無理だろう。あんまりはしゃぎ過ぎるとあっさり詰むな。変な遊び心は出さないように自重しよう。


夜の暗いうちに移動するのもありだけど、それよりなにより物資の確保をしなければならない。水と食料の補給なしには籠城なんて出来ないっすわ。夜が明けて店が開くまでは「自宅」待機決定だ。


王都をどうやって脱出するかも問題だ。ことここに至っては文官学校の寮になんて戻れるわけがない。残念ならが1年も経たずに学校とはお別れだ。後ろ髪引かれる思い・・・ではないな。


それ程大した思い入れなんてありゃしない。あぁ、話がズレた。王都からの脱出についてだ。王都を囲む外壁の門には24時間体制で衛兵が歩哨に立っている。たぶん彼らには俺のことが伝わっているはずだ。そう考えた方が間違いがない。


ではどうやってそこを突破するか?何か上手い手はないだろうか?こういった場面では「自宅」は役に立たないし・・・ドラゴラ様とコンタクトをとって助力を頼み、壁の外まで上手いこと連れ出してもらうか?


いやいや。そんなことしてくれるわけないよな。俺とドラゴラ様の関係はそこまでのものではなかった。他に何かいい手はないか?誰にも気付かれないように、または俺だとバレないで壁の外に出る方法・・・。


「お前。どうやってあそこから出た」


ドキッ!オイオイ、鬼ごっこいきなり終了の巻きってか?


「3日探した。なぜこんなところにいる」


声のする方を振り向くと黒ずくめの男が5メートルほど先に立っている。どこから現れた。全く気がつかなかった。いくら暗いとは言え月明かりの下、この距離まで気がつかないなんてことあるのか?


「どちら様ですか?」


敵にむざむざ発見されてしまったとはいえ、今の俺は騎士の駐屯地という戦場を単身脱出し、激しい怒りによって目覚めた戦士であるところのスーパーキーンだ。


そのことを知っていれば、相手にとって俺は正体不明の不気味な子供。さぁ、しっかり警戒してくれよ黒ずくめのダンナ。いきなり襲ってきたりしないでよね?


「俺はお前を捕らえた騎士連中とは別口だ」


そうかい。それにしても・・・相変わらずだ!なぁそうだろ?相変わらず俺の先手なんだよ!俺を捕まえて勝った気になっていた騎士の次は千載一遇の奇襲のチャンスを棒に振って声をかけて来た黒子みたいなアンタだ。


手番が回ってきたのに有効な手を指せなかったな?詰めが甘いよ。お陰で今度は俺の番。つまりは俺が先手を貰うぜ。


「で、どちら様で?僕を捕まえに来ましたか?」


「いや。そのつもりはない。状況が変わったんでな」


「そうですか?僕を捕まえる気はないと。そのほうがあなた達にとって利があるということですか?捕まえに来たんじゃないとしたら一体何のご用でしょうか?わざわざ声をかけてくれなくてもよかったんですけどね、僕は」


「俺についてこい。お前を遠くに逃がしてやろう」


「それはご親切にありがとうございます。でも遠慮させて下さい。知らない人についていっちゃいけないって親代わりの人に言われているので」


こいつは何が目的だ?俺が逃げるのを手伝うって?随分親切な怪しいおじさんだなオイ。こうやって会話で時間を稼いでお仲間が集まるのを待っているのか?


駐屯地の敷地を抜けたあと、さっさと「自宅」に隠れていれば・・・いやそうしたらこいつにその場面を見られていたかもしれないな。


「信用できないのはわかる。だがお前一人で王都を抜けられるのか?」


「僕は一人で騎士の駐屯所を抜けましたよ?」


そろそろ時間切れだ。これ以上ここに留まっているのはマズイ気がする。ってかもう既に十分まずいんだけどね。


「他に話がないなら僕はこれで」


どこかの暗がりで「自宅」へ潜ればなんとかなるか?いやそれは無理か。


「待て。これを持っていけ。外壁を抜けられる」


黒ずくめ野郎は地面に何かを置くとそのまま消えるように去っていった。マジか。ホントに退いたのか?じゃあさっきの話もホントってこと?


黒ずくめが置いていった怪しさ全開のアイテムを拾ってみると手紙のような物だった。懐にしまって後で確認することにする。


そこからしばらく王都の路地裏を歩き、死角になりそうな場所で休憩することにした。さっきのやつが俺を監視しているかもしれないから「自宅」はなしだ。


ふぅ。ここまではなんとかなった。俺は騎士駐屯地から逃げた訳だから既に犯罪者扱いされているだろうな。


「あのガキはやっぱり黒だった。逃げたのだからそうに決まっている。無実だと言うなら逃げる必要なんてないはずだ」


騎士連中は本気でそんな風に考えてるのかもしれない。自分達が何をしてるのか考える脳ミソなんてヤツラにはない。拷問だって立派な取調べの手段の一つだと思ってるんだろうよ。まぁ、俺が黒だって言うのは当たってるんだけどね。


さてさて、俺はもう逃げ続けるしかない。国内では不安だから向かうのは外国。やりたかった海外旅行への出発が予定より大幅に早まったがまあいい。こわいけど楽しくなってきた。


周りは敵だらけで明日には殺されているかもしれないが、やれるだけやるさ。道化はひとまず休業としよう。お偉い騎士さん達よぉ、どこかの物語のようにドラゴン退治ができるだなんて思うなよ?お前らはしばらく子供と鬼ごっこするんだよ。格好よすぎて笑っちゃうよね?


おうちに帰ったら妻と子供にちゃんと伝えてくれよ?父さんは騎士として立派に勤めを果たしていると。子供を殴って蹴って痛めつけた後に逃げられた挙句、鬼ごっこをしたけど捕まえられなかったってさ。

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