第32話 冒険者達
もうすぐ年末。窓の外を眺めても王都は相変わらずの賑わいだ。年末とはいえ特別なイベントがあるというわけでもなく平常運転。
学校の行事だって何もありゃしない。文官予備校なんだから勉強だけしてろってなもんだ。生徒に対してもうるさくないし、俺にとっては都合がいいけどさ。
そういえば町長からの生活費が届いた。商業ギルドを介して3ヶ月に1度届くわけだが、院長先生からの手紙も一緒に届いたよ。俺の方でも手紙の配送を頼んだ。
手紙を読んでセンチメンタルジャーニーに出発したくなったことは言うまでもない。俺ってこんなに弱い生き物だったのか?まるで11歳くらいの子供みたいじゃないか。あ、11歳の子供だったわ。
前世のおっさん成分から涙もろさだけが抽出されたのかしらん。いやでも俺ってそんな人情味ある人間じゃなかったんだけどなぁ。
ここ半月ほどは薬草の採取に精を出している。いけそうであれば、魔物も狩っている。まぁ「自宅」で捕獲して弱らせてからブスリっていう、この前と同じパターンだけどね。
もっとあの作業に慣れる必要があるんだよ。いつまでも甘ったれたガキのままではいられないからね。魔物からすればたまったもんじゃないだろうが、勘弁して欲しい。でももし俺に魔物とも話せる能力なんてものがあったらと思うとおそろしくもある。
「出せ!出せ!出してくれ!出してくれよ!お願いですから出してください!キーンさん!せめて水だけでもいいからください!お願いします!この通りです!キーンさん!キーンさん?いるんですよね?聞こえてますよね!」
なんて叫びが聞こえてくるのだろう。だめだ!これ以上考えちゃだめだ!クソ!「自宅」や魔法なんてものがあるからこんなこと考えちまうんだ。こいつはゲームじゃない。現実なんだ。変な遊び心で危険を呼び込むなんてダメだ。
うん?あれ?なんで今更こんなことに気がついたんだ?ゲームで急に思いついたぞ?そうだ。そうなんだよ。なんかひらめいたわ。俺みたいに転生してこの世界にいるやつって他にいるんだろうか?なんかのゲームとかみたいにさ。
なんでこの考えが今の今まで思いつかなかったんだろう?自分のことしか考えない、他人なんかどうなっても構わない病にかかったクズ野郎だったからか?うん。それもあるかもしれない。
しかし日本人なり他の外国人なりの影響がモロ出てます的なものは見たことなかったからだろうなぁ。いるのか?いないのか?またはいたのか?いなかったのか?
次から次へと面倒だな。この際いてもいなくてもどっちでもいいわ。それっぽいのが出てきたらその時考えよう。転生者だろうがなんだろうが、一撃必殺の魔法が存在するこの世界じゃ、飛びぬけて何か出来るとかそんなことにはならないだろうしさ。問題の先送り。これこそおっさんには必須のスキル。
オッケーです。連想ゲームはつまらない現実を発掘するだけだからここらで止めて、そろそろ魔物を埋めにいこう。先日捕まえて始末した、はぐれゴブリンの死体があるのだ。
もう墓掘りがメインの人生になってきてるな。くんくん。体に死のスメルがしみこんでいないだろうな?こんな11歳児って客観的にはやばいでしょ。慎重に行動するつもりが今やこの状態。慣れってこわい。
さていつもの林に到着しました。もはや通い慣れた道。学校から半分借りパク状態のシャベル的なものもすっかり手に馴染んでいる。
さっさと穴を掘ることにしよう。かなりの重労働だがやるしかない。きついなー、めんどくさいなー、誰か代わりにやってくれないかなーと愚痴りながら土を掘っていきなんとか終了。ゴブリンを穴に捨ててまた土を戻していく。
「お前!何をしている!」
!!!!見られていたのか!「自宅」に緊急避難するか?どうする?どうする?フードをかぶっているから顔は見られていないとは思うけど・・・。
「それはなんだ!埋めているのはなんだ!」
冒険者らしきやつらが15メートルくらい先にいる。4人か?4人?ホントに?他にもいるのか?分からない!どうする!「自宅」はやっぱりだめだ。見られたら一発でアウトだろ、あんなもん!なんとか言い訳をするんだ!
「聞こえていないのか!」
「き、聞こえてます・・・これは、その、ゴブリンです」
「ゴブリン?そこからゆっくり離れろ!そいつを見せてもらう!」
俺はゆっくりと穴から離れた。先ほどからこちらに向かって叫んでいた精霊族の男が穴に近づいてなかを確認する。その後ろには彼の仲間であろう3人が俺を注視。
「ランカム!どうだ?」
エルフっぽい女が精霊族の男に聞く。
「あぁゴブリンだ。死んでそう時間は経っていないだろう」
「お前!このゴブリンはお前がやったのか!」
女エルフが聞いてくる。どうする?いい案が何も思い浮かばない。見つかった時のことをちゃんと考えておくべきだった!完全なバカだ!
「答えろ!なぜ黙っている!」
チッ。今考えてるんだから黙ってろ!ギャーギャー怒鳴りやがって!うるせぇんだよ!適当なこと言っても通じないだろうな・・・どうするか。
「パーム。そんなに怒鳴ってちゃ答えられないだろ。相手は子供なんだろ?」
人族のおじさんがエルフ女に注意してくれた。ナイスだぜ兄貴!もっとアシストくださいな!
「子供?あれがか?こんなところでゴブリンを埋めているやつが?ドミニク、お前は黙っていろ」
「でもありゃ人族の子供だぜ。小人族にしては大きすぎるし」
おじさん!ガンバです!もっと子供ってところを強調してください!もっともっと!
「俺が聞く。二人とも静かにしてくれ」
精霊族の男がエルフとおじさんの間を割って俺を睨む。
「お前は人族の子供か?」
「はい。そうです」
「そうか。なぜこんなところにいるんだ?」
「・・薬草を採りにきました」
「なるほど。ではあのゴブリンはどうした?」
「・・・」
「首の傷が致命傷だろう。魔法ではない。刃物のように見えた。お前がやったのか?」
「・・・」
「なぜ答えない。俺はお前に危害を加えるつもりはない。ただあれをやったのが誰か知りたいだけだ」
「・・・」
あぁもう、さっきからしつこいなぁ。聞けばなんでも教えてもらえると思うなよ?精霊族野郎!問答している時間を使ってかなり落ち着いてきたよ。ちょっと冷静になれば簡単な話。あいつらに付き合う義理なんて俺にはないっていう単純な答え。もういいや。さっさと帰ろう。
「動くな!それ以上動くと敵対行動と見なすぞ!」
なんだと?敵対行動と見なす?そりゃこっちのセリフだよ冒険者さんよぉ!だめだ。感情的になるな。クールにいこうぜ!キーン!抑えて抑えて!
「僕がゴブリンを殺しました。以上です。では」
攻撃するつもりなら覚悟しておけよ?冗談でしたじゃすまないからな?
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