第27話 第一歩

今日は鍛冶屋に来ている。前にケビンさんと一緒にきたところだ。


「親父さん。こんにちはー」


「オウ?坊主。なんだ?」


「前にケビンさんと一緒にきたんですけど、おぼえてないですよね」


「ケビン?あーわりぃなおぼえてねぇなぁ」


「そうですよね。いいんです。今日はナイフを売ってもらえないかと思ってきたんですけど・・」


「坊主が?何に使うんだ?」


「料理です。あまり予算がないので、何か手頃なものがないかとこちらにきました」


「そうか。ナイフぐれぇまぁ売ってもいいんだがな」


お?いけるか?武器屋や雑貨屋ではちょっと割高なんだよね。


「おねがいします」


「オウ!今あるのはこんなところだが、必要なのもっていきな!」


ふむ。刃が厚くて頑丈そうなのがいい。え?それは料理用じゃない?うん。聞こえない。これにしよう。


「これにします。おいくらですか?」


「そいつなら銀貨1枚半ってとこだな」


「じゃあ、これで」


「毎度!ちゃんと手入れしろよ!」


少ない生活費、大事な銀貨を失うのは痛いが仕方ない。次は雑貨屋か。いつもながら王都は人が多いな。謎種族もたくさん見かける。種族関係もそのうち調べねば。頭のメモ帳に書き込んでおく。すぐ忘れるけど書き込んでおくのだ。


雑貨屋でロープと火起こしセットを購入。さらに中古の服屋にいってフード付きの外套を探す。なかなかちょうどいいものが見つからなかったが安物のマントっぽいので我慢する。一応フードもついているからこれでいい。


結構お金を使ってしまった。これでしばらくは昼飯抜きの生活が決定。さてと冒険者ギルドに行きますか。はぁ、面倒くさいなぁ。


依頼表を確認して採取系の依頼を探す。うーん。お?これでいいかな。王道の薬草採取。薬草なら一応知ってるし大丈夫だろ。


「お姉さんこんにちは」


「こんにちは。ギルドのご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


「こんな制服着てますが、僕は平民なので普通に接してください。一応ギルド会員ですが、はじめてみたいなものです。これカードです。ここでも使えますか?」


お姉さんは明らかにほっとした顔をしている。お貴族様は恐怖の象徴ってね。


「はい。使えますよ」


「では。この薬草採取のお仕事を請けたいんですけど可能でしょうか?」


「キーン君は・・11歳ですね。今まで薬草採取の経験はありますか?」


「はい。田舎にいるときに手伝いで何度かやったことがあります」


もちろんまっ赤なウソです。


「わかりました。なら大丈夫そうですね。こちらはギルドからの常時依頼ですので特に手続きはありません。薬草を買取受付に持っていけば報酬を受け取れますので」


「はい。ありがとうお姉さん。いってきます」


優しいお姉さんだったな。よし、順調順調。これで堂々と外壁を抜けられる。ちょっと時間がかかったがなんとか外壁を抜けて外に出ることができた。森よ!待っていろ!今すぐいくからな!


という訳で1時間ほど歩いて林に到着。森ってほどではないな。途中で制服から普段着とさっき買ったマントに装備チェンジ。要らないものは布袋へ詰め込む。


ゆっくりと林のなかに入っていくと空気が一気にヒンヤリして気持ちいい。森林浴って癒されるわぁ。薬草を探しながら少しずつ、確実に進んでいく。


でもやべぇっす。なんかこわくなってきた。木の上の方でバサバサ音してるよ?鳥だよな?鳥でしょ?ねぇそうなんでしょ?いきなり宇宙船とか出てくる世界じゃないもんね?そんなん出てきたら爆笑する自信あるよ?


ブギャー。ゴギャー。と何かの鳴き声が聞こえてきた。あら?かわいいワンちゃんかしら?これでホントにチワワ的なのがいたら笑い死にしかねないぞ。


ゆっくりしゃがんで様子を窺う。うん?あそこ。何か動いたか?動いたな。間違いない。なんだ?木の枝を折っているのか?そこから動くなよ?そして・・・キーンはコボルト2体を発見した!


オッケーです。最初から決めてました!ではではいってみましょう。「自宅」発動!ハイ。コボルト2名様をご案内です。


さぁ。ここからが大変だ。これでしばらく緊急避難が使えなくなった。「自宅」にはまだまだ招待するスペースがあるから追加招待は出来るとはいえ、いざという時の逃げ場はもうない。


調子に乗って薮蛇なんてごめんだ。熱くなって決闘までいきかけたお貴族様のように引き際を誤った末に待っているのは暗くて深い落とし穴。


目的は達成したんだ。今日はここまでにしよう。林の入り口の方までさっさと引き上げる。薬草は無くても問題ない。あったらラッキーぐらいのものだ。


そう。俺の目的は最初から魔物を捕らえること。薬草採取は町の外へ出るために用意した隠れ蓑なのよね。


え?なんでそんなこと急に始めたのかって?そりゃあれだよ。身分社会という現実が俺の尻を叩いたからだよ。頼る相手もいないこの王都で、お貴族様に囲まれてびくびく生活してれば、自衛手段の十や二十欲しくなるってもんさ。


計画なんてものは現実に合わせて修正していくもの。今から少しずつでも力をつけなければ手遅れになりそうだ。そのためにまず思い浮かぶのはやっぱり「自宅」。

こいつをちゃんと使えるようにしておきたい。


再度周囲を確認。誰にも見られていないよな?近くに魔物がいる様子はないし・・・なんとかなったか。


キーン。俺は今笑っているんだろうか?

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