第25話 問題なし
学校が始まってしばらく経った。当初懸念していた貴族との付き合いについては今のところ問題ない。彼らははなから平民の相手をするつもりはないといった感じだ。さすがは文官志望のお貴族様。尊敬しちゃうわ、割と本気で。どうか今後もこのままの関係が続きますように。
それで最近は授業が終わると図書館通いをしている。夕食以降は隣の部屋のロッキさんと世間話をしたり、ひとりで勉強したり、ぼけーっとしている。
明日世界が滅亡したら?なんて考えながらぼけーっとするのって楽しいよね!買ってもいない宝くじが当たった時のことを執拗に考えるのが好きだって?分かる分かる!俺もそれ大好物です!
公園にいけばギャプロのおじいさんもいるし。これはこれでいい生活だわ。やっぱり貴族に絡まれるかもという最大の懸念事項が杞憂に終わったのが大きいね。あぁ、ギャプロのおじいさんと言えば、最初から何か怪しいなとは思ってたけど、あの人お貴族様だったよ。
パンピーの振りして実は・・・なんて狙っていたのか?ギャップ押し的な?そりゃじいさんさぞ気持ちいいだろうよ。だがなぁ、させんよ!そんなものは!
なんて俺の内心が表情に出ていたのか、おじいさんの方からカミングアウトしてくれた。もう第一線を退いているしこれまで通り付き合ってくれとのこと。公園の連中もみんな知っていることらしい。それならいっか。ギャプロやるの楽しいし。
そうそう図書館でも貴族の友達ができた。フランソワ・オーネスという名のお嬢様だ。何を調べてるの?なんて気軽な感じで声をかけられたんだけど、最初は聞こえない振りしていた。だって若くて女のお貴族様だぜ?面倒の代名詞みたいなものだよね?
そしたら従者だか取り巻きの人だか分からん人に叱られてしまったので、今はじめて気がつきました風の演技をしてから、適当に話を合わせて会話してみたよ。
そしてそんな遭遇を何度か繰り返しているうちに、それなりに話すようになり、今では友達的なものになっている。
フランお嬢様は17歳でかなりの美人さん。くどいようだがお貴族様。正直関わり合いたくなかったが、それが伝わったのか図書館以外ではこちらに目線もくれない。
そういう意味ではなかなか空気が読める、下々の者にまで配慮できるナイスなお嬢様だったのであまり強く拒絶も出来ず、なんとなく今の関係になっている。
交友関係はこんなところか。積極的に広げる気はない。左隣の住人ドーギス・パーシー様とはあんまりからんでいない。彼は女性大好きの軽いやつみたいだ。悪い人ではないので現状維持がいい。
「キーン。キーン。わたくしの話を聞いているの?」
うん?誰だ貴様!ってフランお嬢様か。話?なんだっけ?
「大変申し訳ございませんフラン様。まったく聞いておりせんでした」
フランお嬢様はさすがに呆れ顔だ。
「キーン。あなたねぇ。もう困った子ね」
かなり失礼な発言をしてもフランお嬢様は笑って許してくださる。ちょっとずつセーフティゾーンを広げて、最近ではこんな感じだ。
「ねぇ。キーン。あなたいつも何かを考えてるようだけれど。何を考えているの?お姉さんに教えてちょうだい」
「そうですね。色々考えてます。もし空を飛べたらとか、透明人間になれたらとか、水の中でも呼吸できたらとか・・そんなことです」
「あら。キーンは魔法に興味あるのかしら?」
「魔法ですか?今言ったのは魔法とは関係なくってことなんですが・・・いえ、はい。もちろん興味はあります」
「そうね。男の子だものね。フフフ」
唯の妄想の話だったんだけど、魔法に憧れる少年の話にされてしまった。フランお嬢様は勘違いしてるようだが、まあそれでもいいか。お貴族様に勘違いを指摘して不興を買いたくはないし、フランお嬢様は一応友達だし。
さて今日もいい感じで情報が集まった。もうしばらくは図書館通いだな。あ、フランお嬢様、まだいたんですか?もうお喋りは疲れちまったよ。微笑を無理やり浮かべるのにも限界がある。ほっぺの筋肉が結構痛い。
「フランお嬢様。今日はこれで失礼します。また楽しいお話を聞かせてください」
「もちろんよ。キーンの話ももっと聞きたいわ。またいらっしゃい」
フランお嬢様と別れて寮に戻る。えーと、明日の予定はどうだったかな?あぁ家庭教師の日か。バイトでもしないと生活がカツカツでね。ロッキさんに紹介してもらったんだよね。
モロン君はちゃんと宿題やってくれたかな?
やってなかったら計算ドリルで往復ビンタだ!なんつってー。
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