第24話 まずは

結局昨日は眠れなかった。気がつけばもうすぐお昼だ。それでもまだ寝る気がしない。考えは少しだけ整理できたよ。


何をするにしても10歳という年齢が引っかかってくるのは間違いない。少しでも目立ったりすればその瞬間から死のリスクは急上昇するだろう。


この変質した銀貨を使って、できることならすぐにでも何か動き出したいけど、どう考えてもそれは得策ではない。成人になる16歳までは現状維持だ。これは最低条件。


10歳児が文官養成学校に入学したという時点で、どこかの誰かに注目された可能性だってある。ここで下手に動いては飼い殺しツアーに招待されてしまうだろう。もちろん飼い殺される方のね。孤児のガキではそれに抗う力なんてない。


これは一日二日で考えきれるものじゃないな。もうすぐ11歳になる。そこから成人までは5年。動き出すのはそれからだ。それまでに少しずつ計画を立てればいいんだ。


異世界の皆様。もうしばらくお待ちください。皆様のピエロがいずれお伺い致します。お代は見てのお帰りで。決して損はさせません。私も皆様と一緒に楽しみたいのです。


調子に乗ってはしゃいだり、意味のないことに情熱を注ぎ続けたりと、折角生まれ変わった人生ですから何を惜しむことがございましょう?ピエロだろうとなんだろうと構いませんです。私にできる最大の演目を演じたいじゃありませんか。


ふむ。また悪い癖が出た。脳内劇場のことはさておき。俺の最大の弱点は孤児院だ。そこを攻められたら無条件降伏もやむなし。もしごたごたが起きて敵ができれば当然相手はそこを突いてくるはず。


クソッ!俺はこんな性格ではなかったはずなんだけどな。ほかの誰がどこでどうなろうが知ったことではないが、孤児院のみんなに手をだされたら許すことはできないぞ?


そこも割り切って切り捨てることができたら楽なんだろうけど、孤児院のみんなはもう家族なのだ。忘れることなんてムリムリですよ。


当面の目標は銀貨を少しでも多く手に入れて「自宅」にいれることだな。なんでミスリルになったの?なんてどうでもいい。今はその結果だけで十分・・のはず。


でもちょっと待てよ?あれあれぇ?なんか変だよねぇ?どうでもいいなんて言ったけど、これっぽっちもよくないよねぇ?


銀に魔力を足すとミスリルになるらしい。そこから考えると「自宅」のなかに魔力があるってことになる。それも普通の銀が短期間でミスリルになっちゃうくらい濃厚なやつが。


百歩譲って「自宅」内部が魔力とかいう謎の力に満ちていることは良しとしよう。で、それって人体に害はないのかな?


「自宅」に出入りしてたらいつの間にか魔力を吸収していて、気がついたら魔人になっていました、なんてしゃれにならんぞ!人に過剰な魔力をミックスするとハイ!魔人のできあがり。異世界系ではよくあるパターンじゃね?


緊急事態発生。緊急事態発生。キーン隊員は直ちに図書館に向かわれたし!繰り返す、キーン隊員は直ちに図書館に向かわれたし!


オリンピック100メートル決勝に臨む選ばれしスプリンターのような心境でダッシュし、図書館でそれらしき情報がないか調べる。


すると魔人に関してはすくに見つかった。魔人というか魔族についてだ。魔族という種族がいるのは知っていたし。ざっくり説明すると魔族は魔族だということ。この世界に人族やドワーフ族がいるように、魔族もいるというだけのはなし。


人が魔力を吸収して・・とか、魔石を埋め込まれて・・とか、邪神の加護を受けて・・なんてことはないようだ。びっくりさせんなよオイ。心臓の鼓動が他人にまで聞こえるんじゃないかと言うほどの高鳴り具合だったんだぜ?


ただ、人族が過剰な魔力を浴びるとどうなるか?についての情報を得ることはできなかった。これは今後積極的に調べていかなければ!もしかしたらミスリル人間になっちゃったりする可能性だってある。「自宅」には内部にあるものをミスリル化する力があるとかそんなパターンでさ。


まぁ、とにかく今はまだ雌伏の時だ。若いっていうのはそれだけで舐められる。今の俺に必要なのはこの世界の知識と経験。なぁに、やるべきことはたくさんある。退屈なんてしないですみそうでよかったよ。


ふー。そろそろ体力の限界のようだ。ものすごく眠い。そろそろ寝ようかな。しかし生活サイクルが乱れそうだなぁ。

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