第23話 事件です

なんだこれは?手のひらには5枚の銀貨がある。魔法実験の報酬に町長からもらった銀貨。もう一度確認してみよう。手のひらには5枚の銀貨・・・え?これなんか違くない?なんか銀貨じゃなくない?色とか違くない?いやぼんやり光ってるようにも見えるんですけど。俺の目がおかしくなったのかな?


朝起きてご飯を食べ、今日こそ街で買い物しようと思って「自宅」から銀貨を出してみたらあら不思議。前に見たものとは明らかに異なるものが出てきちゃいました。なんじゃこりゃ。


っべー。マジやっべー。これもうマジもんだわ。例えるならそう、宇宙服なしでシャトルの外に出ちゃうぐらいデンジャラス。いや、100円しか持ってないの知ってて高級レストランで食事を楽しんじゃうレベルか?


出来もしないバク転を出来ると言い張った末に引っ込みつかなくなって、皆の前でやらざるを得なくなった時ぐらいの・・・。オホン!話がそれてしまった。大事なのはこの手のひらの銀貨のことだ。


真面目な話、これはなんかレアメタル的なものになっているんじゃないかと思われる。原因は「自宅」にあると考えるのが妥当だろう。他に理由が思いつかない。


とりあえずこの謎銀貨は「自宅」にしまっておこう。そして今日は予定を変更して、この謎銀貨がなんなのかを調べることにしよう。


その辺の人に聞いてとんでもないものだと判明したら騒ぎが起きる可能性がある。

まずは自分で調べてみるしかないか。


というわけで、学校付属の図書館にきてみました。なんとか利用申請をして鉱物関係の本を探す。銅、鉄、銀、金・・・。


調べること数十分。案外簡単にそれらしき記述を発見した。それはミスリル!まさにファンタジー世界の王道金属。重要ポイントは三つ。ミスリルはもともと普通の銀だということ。それが魔力を帯びたものをミスリル銀と呼ぶというということ。そしてミスリル銀はぼんやりと光を放つということ。


これもうほぼほぼ確定だよね?魔力がうんぬんのあたりはよく分かんないけど、特徴は一致してる。他に該当するものもない。


事件だ。これは大事件だよ。ミスリルの価値を早く調べなければ!貴金属店にいけばいいのか?武器屋か?とにかく出発だ。


「ねぇねぇおじさん。これってなんかぼんやり光ってない?」


貴金属店に子供ひとり入るのは、あきらかに怪しい。それよりはと武器屋に行くことにした。


「なんだ坊主。冒険者ごっこか?あぁ、そいつは綺麗だろ?ミスリルの短剣だな」


「へぇ!これがミスリルなんだ!お父さんに聞いたことあるよ!すごいでしょ?」


「ああ、えらいな。坊主は。でもここは子供がひとりでくるところじゃねぇぞ?危ないから、早くおうちへ帰りな」


「はーい。ありがとう、おじさん・・・これってすごい高いの?僕のお小遣いでお父さんにプレゼントできるかな?」


「坊主のお小遣いじゃ買えないだろうなぁ、そいつぁすごい高いんだ。金貨をたくさん持ってないと買えねぇんだ」


具体的な価値がわからん。失敗か。子供アピールをしすぎたな。違う店を探してみよう。


別の武器屋を探すのは面倒になったので、貴族の子供を装って貴金属店で話を聞くことにした。文官学校の制服を着てるからそれほど怪しまれないだろうと考え直したのだ。


銀貨くらいの大きさのミスリルの塊ってどのくらいの価値があるのか?とストレートに聞いてみたところ、最低でも金貨1枚の価値はあるでしょうときたもんだ。


金貨1枚か・・・それすなわち銀貨100枚を指す。

こ、こいつ・・いいパンチしてやがる。思わず倒れるところだったぜ?


落ち着け。深呼吸だ。スーハー、スーハー。まだ全てが決まったわけじゃない。とりあえず寮に帰るんだキーン!自然な足取りで、キョロキョロせず、生まれたての赤ん坊のように無邪気なふりをしろ!


足早に寮を目指しながらも色々な考えが頭をよぎる。あれができれば、これもできる。でもこれが失敗したら、最悪こうなる。成功した場合と失敗した場合の組み合わせを何パターンも考える。


やっと部屋に到着。興奮して考えがまとまらない。水を飲む。ゴクリゴクリと喉が鳴る。選択肢が広がった。これは間違いない。「自宅」の危険度は上がったが、収支は明らかにプラスだ。


だってミスリルだぜ?ほんの数枚でも上手く売りさばくことができれば、相当な収入になる。リスクとリターンの天秤がガックンガックン揺れている。今日はもう寝れそうにないな。


窓を開けて空を眺める。昨日までより星が近く感じる。今すぐここから飛び出して、どこへなりとも走り出したい衝動に駆られる。感傷的になっているな?俺。


ひんやりした空気が身を包むと頭の熱が溶けていくようだ。窓を閉めて考え始める。ミスリル・・・魔力を含んだ銀。金貨1枚。マネーの虎の唸り声が耳鳴りのように聞こえた。

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