第21話 お隣さん訪問と外出キャンセル
「へー。主にどんなものを扱っているんですか?」
右隣の部屋の主、ロッキさんは実家が商売をしているらしい。つまり商人の子。王都で店を構える中堅どころの商家のようで、学校へは実家からも通えるそうだが、経験やコネを広げるために寮を選んだみたいだ。
「うちは主に食料品だよ。お酒なんかも扱ってるけどね」
「食料品というと野菜とか肉ですか?」
「うん。結構手広くやっていてね。魚もあるよ」
「はぁー。やっぱりうちの田舎なんかとは比べ物になりませんね。一つのお店でそんなに扱いきれるものなんですね」
「従業員も多いからね。それにしてもキーン君は落ち着いてるね。さすがに10歳で合格する人はどこか違うのかな?」
ロッキさんは15歳だといっていた。それでも早いほうらしい。今年の合格者で最年少は10歳。10歳の合格者は1名のみ。もちろんこの俺だ。そこから上は15歳まで一気に飛ぶ。ちなみに最年長は19歳らしい。
文官養成学校って日本でいうところの大学みたいな感じなのだろうか。教育機関が未発達なこの世界で、そのあたりのことはあまり気にしていなかったけど、そう考えると俺って異常だよね?
そもそも町長のゴリ押しから始まったわけだけど、改めて謎だな。なんで俺に入学試験を受けさせようなんて考えたんだ?普通に考えたら金の無駄使いだよね。10歳児が合格するわけないんだから。
危ないクスリでもやってんのかな?娘の方も子供の指に躊躇なくナイフを突き立てるようなやつだからなぁ。やば!鳥肌たってきた。こぇーっす。まぁ普通に考えたら院長先生が町長に俺の学力をチクったとかその辺かな。
「とんでもないですよ。僕が合格できたのはうちの院長先生の教育のおかげです。そして落ち着いて見えるならそれはロッキさんが優しそうだからです。失礼があったらいけないとここに来るまですごく緊張していたんですよ」
「そうかい?うちのお店にもいろんな人がくるけどね。キーン君のような子ははじめてみたよ?」
「僕はいつもこんな感じですからなんともいえませんが・・」
「ハハハ。そうだよね。ごめんごめん。これからはお隣同士なんだから。仲良くしよう」
「ありがとうございます。よかったらキーンと呼び捨てにしてください。こちらこそよろしくお願いします」
そのあと寮内のことについて教えてもらい、お邪魔しましたと自室に引き上げた。ふぅ。ロッキさんはホントに優しそうな人だった。変な人じゃなくてよかった。
お水を飲んで深呼吸する。よし、次は左隣に挨拶にいこう。ロッキさんの話しではちょっと変わった人らしい。
「こんにちはー。いらっしゃいますか?」
ノックしてしばらく待ってみたが、なんの反応もない。留守かな?だったら仕方ない。ここはまた今度訪ねることにして、寮内を見て回ることにしよう。
1時間ほどで寮内の設備はだいたいわかった。途中何人かに声をかけられもした。小さい子供がいることを不思議に思ったらしい。丁寧に説明したら納得してくれた。面倒な人がいなくてよかったわぁ。
まだ日は高いし、今日はこれからどうしようかな?王都の町並みを見にいくのもいいな。ちょっとした生活用品も欲しいし、いっちょ出かけますか。学校の制服を着ていけば変な人に絡まれる心配も少ないみたいだから、着替えていこう。
って、ちょっと待ったぁ!外出するの面倒になってきたぞ?俺のなかのおっさんな何かが日曜日のパパ的な画をみせてくる。
「パパ!パパ!公園に遊びに行こうよ!」
「パパは日々の戦いに疲れているんだ。息子よ。ちょっと休ませてくれないか?」
「パパはいっつもそうだ!パパなんて嫌いだよ!」
それでもパパは立とうとしない。日曜日のパパは子供の戯言に付き合ったりはしないのだ。そしてそんなパパの倦怠感がいま俺の全身を包んでいる。
くっ!とんだ罠にかかっちまったぜ。身動き一つとれやしねぇ。どこの猟師だ?こんな罠をしかけたのは?俺には子供なんていなかったはずなのによぉ。
こんな感じで自作自演の寸劇をこなしたところで、自室にもどってだらだらすることにする。外出する気は雲散霧消している。
早くご飯の時間にならないかなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます