六話 その1

 ろくさん と別れて、やすおばさん の車に乗って、松山の方へ。

本当に ユキおばあちゃん と、顔も 声も、そっくりでした。

それに 驚きながら…


 『やっぱり 松山は、こっちなんですね』

と、キーちゃん が。

【そう この山が、松山なんだよ】

「じゃ 向こう岩の所が、西山だったんだ」

【そうだねぇ】

『あの柵で囲ってある所が 網毛根沼なんですか』

【前は 三日月湖全体を、網毛根沼と言ったんだけどねぇ。すぐ傍のに川があったろう?その川と繋げて 人工の湖にして大きくしたんだよ。川を少し上がった所に 船着き場があって、今は 船の海への出入り口なんだよ。それでも 潮が上がる時には、あの柵の所にだけは 少し水が溜まるんでね、危ないから あぁやって囲ってあるんだよ】


 「網毛根沼も 潮で現れる、沼なんですか?」

【も って、私は 他にそういう沼を、知らないから わからないけど。川が繋がったら 三日月湖が、そんなに水位が変わるとは思われないんだけどね。どうしてだか あそこには、水が溢れ出てくるんだねぇ~】

『何か おじいさんに聞いた話と同じだぁ』

【そんな話があるのかぃ?】

「うん! 昨日 おじいさんが話してくれたの」

と 2人は やすおばさん に、おじいさんの話を 伝えているうちに

おばさん家に着いた。


 【あれっ その話なら… まぁまぁ とにかく家に入ろうね。話は それからでも、イイだろぉ】

 2人は 荷物を持って、家の中へ。

【急な事だったから 何にも無いけど、ゆっくりしておいでぇ】

と お茶とお菓子の用意をしてくれた。


 やすおばさん は、旦那さんを亡くして 独り暮らしをしています。

【ようちゃん は、小さい時に会ったっきりだから こんなに大きくなってるなんてねぇ~】

「やっぱり あの時、謳歌村の話をして下さったのは おばさんだったの?」

【そうだよぉ】

「そうだったんだぁ ユキおばあちゃん がしてくれたんだとばっかり思ってたの」

【桜香の草の話は ユキがしたんだと思うよ。その話を ようちゃん が知ってたから、おばさん は 鳥の方の話をしたんだよ】

「そっかぁ 全然わかんなかったぁ」

『それで それで?』

【あぁ 謳歌村の話だね?】

「『うん!』」

【あそこに 祠があったろう?】

「『うん』」

【あの祠は [酉巳ゆうみ神社]と言ってね、鳥と白蛇が祀ってあるんだよ。

そのお話だよ。】




ーーーここからは やすおばさん の話ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 謳歌村と言ったのは、桜香の草が 殆ど無くなってしまってね。

西山が崩れた後は 岩が広がった丘になって、そこには 前々から、鳥が住んで

いたし、 相変わらず 岩場だったもんだから、人も寄りつかず 益々 鳥の楽園になったんだよ。

 色々な鳥が居て キレイな鳴き声が響く様になったから、鳥が謳歌してると

いう意味で、謳歌村となったそうだよ。

 鳥の中には その時期にだけやってくる、渡り鳥の仲間も居てね。

年中 賑やかだったんだよ。


 それでね あの山崩れの時、蛇は 奇跡的に助かってたんだよ。

水辺に追いやられた所為か 水の中でも、生きていける様になってね。

陸でも 水中でも、獲物を見つけれる様になって、前よりも ずっと

住み心地が良くなっていったそうだよ。


 ある時 蛇が、ノラ猫に遭遇してしまって。

2匹の にらみ合いが、ずっと 続いていたそうだよ。

 それを たまたま、木の上から見ていた 鳥が居て。しばらく 見て

見ぬフリをしてたんだけど、いつまで 経っても、終わらなかった。

 その ノラ猫には、仲間の鳥の雛を 持って行かれて、猫は 雛を食べるでもなく

嬲るだけで、結局 岩の上に晒すだけ晒して、ダメにされた事があったから。

 蛇も 怖かったけど、どっちでもいいやっと思って、木の実を つついて

2匹の間に 落としたそうだよ。


 そうしたら 猫がびっくりして、その間に 蛇は、さっと岩下の隙間に

逃げて、その場は 収まったらしい。


 それから しばらくして、越冬の為に 鳥仲間は、違う国へ行くはずだったけど

その鳥は、浜の方に 干してあった、網に気付かず 羽をひっかけてしまって

高く 遠くへは、飛べない様になっておった。

 仕方なく 岩の丘に残る事にした 鳥は、低い所の 餌を頼りに暮らしており

小さなカエル や 虫の幼虫など、つっついては 食べておった。


 たまたま 木の先から、滑り落ちたトカゲを 狙った時。

水面から サッっと顔を出してきた、蛇に横取りされてしまった。

「おっ?」

と、鳥は思ったが 仕方ないと諦めたそうな。


 次に 岩場から、沼に跳んだカエルが居て それを蛇が捕えようとしたら

横から サっと飛んできた、鳥にさらわれた。

『おっ?』

と 蛇は思ったが、それも 仕方ないと思って、諦めたそうだよ。


 そんな感じで 何度も、その鳥 と 蛇は、エサの奪い合いをしていく様に

なって、お互いに 顔見知りになっていく。おかしい事に どうも同じ

獲物を狙ってしまうんだね。

 「取った」『取られた』と 意識していく様になってね。それが

自然界の掟でもあるから しょうがない事だよね。

 それでも 蛇は、その鳥が 本来なら、別の所へ 渡っていくはずの

鳥だって事を 知っていたし。あの時 助けてもらった事も ちゃんと

わかっていたのもあって、鳥に ちょっとずつ、わざと譲る事もあったらしいよ。

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