伍話

 船が 港に着いて、おじいさん は、車で 街の バスセンターまで

乗せて行ってくれました。


[すまんの。やす姉さんの所まで 連れて行ってやりたいんじゃが、これから船に戻らんといかんのじゃ。この先 お客さんを乗せて、次の港へ行くからのぉ]

「おじいさん 昨日のお話の場所、誰か 知っている人居た?」

[それが 居らんのじゃ]

『えー』

[他の 船乗り仲間にも聞いておくよ、わかったら 連絡する]

「『はぁ~い』」

[じゃぁ 気をつけてな]

「おじいさんも」

[あぁ キーちゃんも またおいで]

『はい!』


 バスの乗り場は おじいさん に教えてもらったから、運転手さんに

『三日月湖のバス停で降りたいです』

と伝えて、教えてもらえる様に お願いした。

 バスに揺られる事 1時間半。かなり山間の方まできた。2人は寝てしまって

運転手さんが 起こしてくれたけど、他に 乗客は誰も居なかった。

2人は びっくりして、バスを降りた。

「ここが 三日月湖のバス停ですか?」

《そう 正面の湖が、三日月湖だよ》

と 運転手さんが、教えてくれた。

『ありがとうございます』

《じゃぁね》

と バスは、川の手前で Uターンをして戻って行きました。


 バス停に やすおばさん が迎えに来てくれてると聞いていたけど

周りには 人影もなく、ただ バス停の小屋があるだけの所でした。

「何か 寂しい所だね…」

『ぅ うん』

「迎えに来てくれるって言ってたから、ここで待ってよう」

『うん』

バス停前の 小屋のベンチに座って 待つ事に。


 しばらく 座っていたけど、誰も来る気配が無いので キーちゃん は

立ち上がって、小屋の 裏を見てみると、湖が広がっていました。

 向こう岸は 見えないけれども、右側が ゴツゴツした 岩がせり出してきていて

三日月湖というのは、そっちが 欠けているって事なんだろうなと思った。

『ねぇねぇ ようちゃん。もしかして この湖が、あの ユキおばあちゃんの言ってた、網毛根沼なんじゃない?』

「うん?」

と ようちゃん も、出てきた。

「でも 名前が違うし、湖っていうよ?川みたいだもん」

『うん そうだねぇ。だけど 右の方、岩山っぽくない?左の山はさぁ 松ばっかだし、あの山が 松山って言うんじゃないかな?』

「あっ 何か、こっちに祠があるよ?」


 小さな祠と 立て看板があり、その奥が 柵でずっと囲ってありました。

立て看板を見ると

〖元 網毛根沼〗

と 書いてありました。

『ほら やっぱりぃ~』

「あ でもさっ」

その続きには

〖昔 西山の山崩れにより、網毛根沼は分断された。その後 巴川の河口として掘削し、今の三日月湖となり その先、海へと続いている〗

と書かれていた。

『へぇ~ 何か、長い間 バスに乗っていたけど、ここも 海に近いんだね』

「ユキおばあちゃんの話でも そう言ってたもんね」

『あ!そうだった。じゃぁ 海沿いを走ってきたって事なのかな?』

「そうかもね」


 祠の方へ行くと

[酉巳神社]

と書かれていました。

『なんて 読むんだろう?』

「巳って ヘビ年のミって読むよね」

『あぁ そうなんだ』

「そうそ こっちは トリ年の…」

『じゃぁ トリミって読むの? 何かカワイイw』

ようちゃん は、祠の中を 覗き込んでいる

『こっちの柵は 何だろうね?』

「なんなんだろうね?」

 柵の中は 真ん中に向かって、少しずつ 窪んでいってる感じで

中央付近に、ちょっと盛り上がった 山みたいなのがあって

周りは ジメジメしている感じでした。

 キーちゃん は 柵の途切れた所があったので、そこから入ってみると

土が柔らかい感じがした。もう一歩進んで 足先で、土の感触を 確かめていると…


{あぶねぇ!}

と 男の人の 声がした。

びっくりして キーちゃん が、足を戻そうとしたら 柵に、コートが

引っ掛かって コケた。

{言わんこっちゃねぇ、大丈夫かぃ}

『は…ぃ』

「キーちゃん 大丈夫ぅ?」

と ようちゃんが、駆け寄ってきた

{大丈夫かぃ? 急に 声かけて、すまなかったね}

『大丈夫です』

膝に付いた 泥を払いながら、答えた。

{ダメだよ ここは、あぶないからね}

『すみません』

{ここは もう少しすると、水が上がってくるから 入ったらダメなんだよ}

「水が上がってくる?」

{そうさ 夕方と朝と、潮が上がると ここは水が溜まるんだよ。水が溜まってない時も、あの真ん中の山の所から いつでも、水がチョロチョロ出てるから ここら辺は、土が ドロドロして、ちょっと 足を入れただけで、足元 掬われて、水が上がり始めると、子供位だと ちょっとや そっとじゃ、這い上がって来れないんだ。それで 柵で囲ってあるんだよ。もっと 中に入るんじゃないかと思って、つぃ…}

『ごめんなさい』

{いや 誤る事ないよ、驚かせて 悪かったね}


 {そういやぁ お嬢ちゃん達、何で こんな所に居るんだい?}

「おばさん家へ 来たんです。お迎えに来てもらう 約束なんですけど、まだで…」

{おばさん家って?}

「やすおばさん って言うんです」

{あぁ やす さんとこかぃ}

「『はい』」

 と 話している所へ、やすおばさん が 車でやってきた。

【あら? ろくさん、どうもぉ~】

{やすさん、この子ら 網毛根沼に入るかと思って、ヒヤヒヤして 声かけちまったんだ}

【あらあら そうだったのかぃ、悪かったねぇ】

「『こんにちはぁ』」

【はい こんにちは、待たせちゃったね。ごめんよ】

「いえ 大丈夫です」

{なら わしは行くよ}

「『ありがとうございました』」

【ありがとねぇ~ ろくさん】 

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