弐話 その2
ここからは おばあちゃんも、ようちゃん達位の頃に
おばあちゃんから聞いた話だよ。
その西山に 蛇が住んでおったんだと。
蛇は 毒も持っておらん、優しい蛇だったのに
その ニョロニョロした姿から、人からも 動物達にも 嫌われ者だった。
ある日 岩山の底を這っていると、上の方から 鳥達の声がして
【沼の方には 沢山 カエルが居て、ご馳走で 腹一杯食べれるよ】
【この前なんか お腹が張り過ぎて、飛べない奴までいたよ】
【ハハは~ぁ】
と 話し合っているの聞いた。
『沼の方には そんなにご馳走があるのか…』
と、麓には 沼があるとは聞いた事があるが、どんな所か 蛇は知らなかった。
岩山には 草も生えないから、エサと言えば 鳥の雛くらいで
それも 岩の上の方にまで登らないと、巣には近づけず
滅多と上手い具合に、エサにありつけない事もあった。
それでも 山を下りた事の無い、蛇は 心細くて、下ろうとはしなった。
それから しばらくして
『何だか 土の匂いが、おかしいなぁ』
『最近では 変な音もして 良く眠れないし、前は ネズミ やモグラも ホンのちょっとは居たのに、パッタリ見なくなったな… これは 困ったゾ』
と 仕方なく、山を下りてみる事にしたんだと。
『確か 沼の方に、カエルが 沢山いると言ってたな』
ヘビは 意を決して、山を下ってみる事にした。
聞いていた通り 沼の傍まできたら、カエルに遭遇して。久々の餌に ありつけた。
『聞いてた話と ちょっと違うなぁ~ 鳥達が 食べ尽くしたのか?』
と 蛇は思った。
『昔 沼の方には、草花が沢山咲いているとか 聞いたけどなぁ?思った程じゃないな』
と 気になりながらも 少し進むと。
何やら 嗅いだ事も無い、イイ匂いがしてきた。
そっちへ行くと… ピンク色の花をつけた草が 2本
その前に カエルが5匹おった。
『おぉ~!ご馳走 ご馳走』
と 蛇は、パクパク3匹の カエルを食べた。
残りの2匹は びっくりして、沼へ 飛び込んで 逃げた。
『あぁ~ 旨かったぁ』
すると
「ありがとうございます」
と、どこからか 声がします。
『えっ?』
と 驚くと、また
「助かりましたぁ ありがとうございます」
と 聞こえるのです。キョロキョロ 周りを見渡すけれど、誰も居ない。
怖くなって オドオドしていると
「こっちです」
と 少し上の方から、声がするのです。
恐る恐る 顔を上げてみると。ピンクの花が おじぎをしながら、話してきます。
『君達 話せるの?』
「はい 普段は静かにしていますが、あんまり 嬉しかったのでね」
『何が 嬉しかったの?』
「は…ぃ あのカエル達に悩まされていたんです」
『カエル達に?』
「奴らは 片っ端から、虫を食べてしまって。私達は 虫のお蔭で、受粉してもらって 種を実らせる事が出来るのに、花の前に 陣取って、皆 食べてしまうもんだから、もう私達 2株だけになってしまったんです」
『そうなのかい。昔 聞いた話だったが、沼の所には 草花が一杯だと聞いていたのに、おかしいなとは思っていたんだよ』
「そうなんです。カエルが来る前まで ココは、草と虫の楽園だったんです。なのに 草を求めてやってくる 虫も、実も 草だって、なんでもかんでも 食べ散らかして、いよいよ 虫が寄って来なくなると、共食いまで始めて」
『共食い それはヒドい…』
「それでも 私達は、虫にとっては いい匂いならしくて、虫寄せには良く カエル達も、それはわかってた様だったけど、それにしても 花の前で、食べてしまわれたら 子孫が残せないのに…それには 全く気付かなくて、バクバク食べてしまうもんだから。もう 私達で終わってしまうだろうって、嘆いていたんです」
「そこへ 蛇さんが やってきて」
「助かりましたぁ」
『そういう事か。上の方には 餌が無くてねぇ、それで 下りてきたんだよ』
「また カエル達が戻ってくるだろうな…」
『そうしたら 私が食べてやる』
「ココに居て下さいますか?」
『あぁ 居るとも。それに 最近は、土が変な匂いがするんだよ。上には 戻らないよ』
「わぁ これで一安心だわ」
『こっちも お腹を空かせているからね』
と、蛇は 沼岸に、住みつく事にした。
それから というもの、タカカエル達は寄り付かなくなり、虫も戻ってきて
ピンクの花も 少しずつ株を増やしていく様になったんだと。
それで 蛇さんと、ピンクの花は 仲良しになって。
元通りの 楽園に近づいてはいったそうだよ。
だけどねぇ~ それから しばらく後に、長雨が続いた時期があって。
そうしたら 西山の上の方から、山崩れが起こって。
沼の方へ 土砂が押し寄せて、花も 皆、埋もれてしもうたんだと。
それでも わずかに、桜香の株は 残ったそうで、それが 少し生えてたのを
おばあちゃんのおばあちゃんは 見たらしいって話だよ。
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