弐話 その1
ホームに降りてみると、ようちゃん のおばぁちゃんが 待っていてくれた。
【よくきたねぇ~ 大丈夫だったかぃ?】
「うん!キーちゃんが 一緒だったからぁ」
『初めまして お世話になります』
【こんにちは。遠慮しないで ゆっくりしていってね】
『は、は…ぃ…』
【さ こっちだよ】
改札を出てみると ようちゃん が言ってた通り、雪だった。
「わぁ~~!雪だぁ~」
『雪だねぇ』
駐車場に おじいちゃんが、車を停めて 待っていました。
「あッ こ・こんにちは…」
車に乗り込みながら、ようちゃん は 小さな声で言った。
キーちゃん は、元気良く
『こんにちは 初めまして、キーと言います』
と言うと、おじいちゃんは 殆ど振り向きもしないで
[あぁ]
と、聞こえない様な声で 返事してくれた。
【おじいさんは 照れ屋さんなのw】
と ユキおばあちゃんが言った。
ようちゃん は、何だか 緊張しているみたいだった。
車は ゆっくりと発進。
家に着くと、おじいさんは 買い出しがあるとかで
そのアシで 出掛けて行った。
【おじいさんは 明日から、また船に乗るから その準備があるからね。さっ 何にも無いけど、ゆっくりしておいでぇ~】
と。
すると ようちゃんが
「おばあちゃん 私達、桜花村の話が聞きたいんだぁ」
と 急に 元気に話し出す。
【桜花村?】
「うん!イイ匂いがするとかって、何か カエルとか出てくる、お話ぃ」
【あぁ~ そんなの覚えてたのかぃ】
「そぉ!それが聞きたいのぉ」
『私もぉ 聞きたいと思って』
【そうかい そうかい、先ずは 荷物を置いて。おばあちゃんは お菓子を用意するから、それからにしようか】
「『うん!』」
ーーー【ここからは おばあちゃんの語り】ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おばあちゃんが 生まれた所の言い伝えの話だよ。
むかぁ~し昔。いつの時だか わからないけど、何百年も前の話らしいよ。
おばあちゃんの家は 松山って、山の中腹にあったんだけどね。
その麓には「
沼の西側には 西山って山があったらしいんだけど
おばあちゃんが居た時には、ゴツゴツした岩だらけの ちょっとした
丘があったけど、そこは 西山とは言わなかったねぇ
でも その西山の話なんだよ。
西山は ゴツゴツした岩山だったらしい。
西山の 南側は、断崖絶壁の海で 生き物は 鳥くらいしか
いなかったそうだよ。草木も 殆ど生えてなかったけど
裾野の 沼側の岸には、そこにしか咲いてない「桜香」って花が咲いてたんだよ。
「桜花」って「花」っていう字だって言う人もいれば
「香り」だっていう人もいる位、今は絶滅していて はっきり
その姿を知っている人は居ないんだよ。
背丈は 3・40㎝位なのかねぇ~ 桜の木を 小さくしたような草でね。
次々 花をつけて、1年中 咲いていたそうだよ。だから「花」って
いう話もあるし、木の桜の花は あんまり匂いがしないだろ?
だけど「桜香」は それはそれは良い 香りがする花だったそうで
それで「香り」だって。どっちにしても 素敵な名前だね。
おばあちゃんのおばあちゃんの頃は それでも、ホン少しは 生えていたらしいよ。
海の方に 西山の岩がせり出して、裏側の沼岸と言っても 狭い範囲でね。
沼は そこそこ、深さも広さも湖と言ってもいい位あって
小さい舟とかなら 向こう岸まで行けたけど、舟が着けれないし
そこにしか咲いていないから、人々は 対岸越しに、遠くから眺めるだけで
大事にしていたそうだよ。
「今は 咲いてないの?」
【あぁ 今は無いらしいねぇ】
『えぇ 残念~』
【おばあちゃんも見た事ないねぇ】
沼岸 一面に、桜香が咲いていた頃の話。
そのイイ匂いに 誘われて、虫達も寄ってきて。人も近寄らないから
生き物の 楽園だったそうだよ。そこへ どこからともなく
タカカエルがやって来て。
タカカエルというのは とても食い意地が張ってて、色んな物を 食べ尽くして
しまって、食べ物が無くなると 次の所へ、転々と住処を変えるカエルだそうで。
そのカエルが 「桜花村」にもやってきた。
人々は 農作物に被害が出ると困ると言って、駆除を始めたんだね。
駆除を逃れた 数匹が、沼岸へ 渡ってしまって。元々 虫も沢山いて
カエルにとっちゃぁ 食物の宝庫だったから、益々 繁殖して
岩山の上には 鳥達も居たから、西山は 野生化していったんだよ。
中でも タカカエルの繁殖力は、すごかった。
それは 桜香のお蔭だったんだね。桜香の花の香りが 虫を呼ぶから
その虫が 受粉を助けて、種を付けて。次に また新芽が出てと
していれたんだけど。
タカカエルが 岸にきてから、ジワジワ 桜香が減ってきた。
それは タカカエルが、桜香の花の下に 潜んでいて 虫がやってくると
すぐ食べてしまって、種が出来ず そのまま枯れていく草も多くなって
きたからなんだよ。
周りの草も 同じ様に、枯れていって。いくらかの
タカカエルは、沼を出て 別の所へ行ったカエル達も居たんだろうけど
大部分の タカカエルは残り、残ったカエル同士で、共食いまで
始まってたそうだよ。
そして 桜香も、もう残り2株程になってねぇ
草花で、栄えていた 沼岸だったのにねぇ
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