Enishi

 密撼(みかん)

壱話

 春休み期間を 利用して、東北のおばあちゃん家へ行く事になった

ようちゃん。両親には 一人で行く様に言われていたけれど、不安だったから

友達の キーちゃんに「一緒に行ってくれる?」と言ってみると…

『行く 行く!』と。

 キーちゃんも 親から許しが出て、出発の駅では 皆に 見送られて

新幹線乗換駅の ホームまで、キーちゃんのパパが ついてきてくれた。


そして 新幹線の中。


 『楽しみぃ~!』と キーちゃん。

「大丈夫かなぁ」と 不安気な、ようちゃん。

『大丈夫!だって、この新幹線の終点まで 乗ればいいって、車掌さんが手前で

教えてくれるって パパが言ってたもん』

「ぅ う…ン」

『心配症なんだねぇ ようちゃんは』

「キーちゃんは 怖くないの?」

『ちょっと 怖いけど、何か 大人になったみたいな感じがして、ワクワクする』

「いつも、ママとか、皆でしか 電車乗った事なかったから、それは そうだね」

『改札から 2人で行くんだと思ってたのに、結局 皆、ホームまで来てくれて。そしたら パパが「もうちょっと行く」っていうから、びっくりしちゃったw』

「私は うれしかったよ」

『私が おっちょこちょいだから、心配だったんだろうね 新幹線出る時も、「手が挟まる!」とか言っちゃって そんなのわかってるのにw』

「でもぉ扉が閉まったら 泣きそうになった…」

『ぅん… ちょっとね・・・』


 少しの間 2人、黙り込んでしまった。


 そこへ 車掌さんが

[切符を拝見] っと やってきた。

2人共 びっくりして、リュックのポケットに入れてあった 切符を差し出した。

[君達だね、えらいねぇ~ 2人だけで行くの?]

「『はい!』」

[終点近くなったら 知らせに来るよ、まだまだ時間があるから ゆっくりとね。

困った事があったら、車掌の僕か、周りの人に 僕を呼んでもらう様に言ってね]

「『はい』」

[はい 良いお返事ですw これ切符、無くさないように またリュックのポケットに入れておいてね]

2人が 切符を片付けるのを見届けて、車掌さんは 次の席へと行った。


 少し 車掌さんが 離れてから

「『www』」

『優しそうな 車掌さんで、良かったね』

「うん」

「キーちゃんは 電車慣れてるの?」

『ぅうん… そんなに乗らない。引っ越してきた時 以来かな?』

「あぁ そう転校してきたんだもんね、私は 違うクラスだったから、あんまり知らなかったけど、前は どこだったの?」

『前はねぇ 山の方だったの』

「そうなんだ じゃぁ?雪とかも降ったりした?」

『したしたぁ~;; 雪なんて、あんなの降らなきゃイイよ』

「えぇ~ 雪って素敵じゃない」

『え?ぜんぜん! 雪が降ると 歩きにくいし、雪かきしなきゃだし、犬だって ストーブの前から 動かなかったよ』

「犬って 雪 喜ぶんじゃないの?」

『うちでは 雪が降ると、家に入れてたよ。夜とか 寒すぎるからね』

「へぇ~ そうなんだ」

『雪なんて いらないよぉ!』

「あっ おばあちゃんの名前、ユキ って言うのよ?それに 今頃は、おばあちゃん家の方は 雪だって言ってたよ。私 雪が見れるから、行くって言ったんだもん」

『え?え? おばあちゃん ユキ さんなの?』

「そう」

『おまけに 雪降ってんのぉ?』

「そぉ」

『って?まさか? ようちゃん 雪見たことないの??』

「うん… たまぁ~に降るけど、すぐ消えちゃうでしょっ? 真っ白の雪 見たいんだ~」

『えーーー 雪の時の山 真っ白だけど、すごく静かで 何か怖いよ?雪崩とかあるって』

「あ、ニュースとかでやってるね」

『雪の山も怖いけど、雪じゃない時も、私 あんまり 山は好きじゃないんだ~』

「どうして?」 

『おじいちゃんの 田んぼが、山の途中にあって 遊びに行った時。足を滑らせて 落ちちゃったの。登れなくなっちゃって ずっと 一人で泣いてた事のある…』

「いやッ 怖いー」

『そんなに 日も暮れてないのに 薄暗くて、周りの木が ザワザワ音立てて、襲ってくるみたいな感じで… 寒くなって』

「こわいね」

『おじいちゃんが 気が付いてくれて、良かったんだけど。あれから 山へは、一人で行かなくなった、、、』

「そんな 怖い思いしたら、行かなくなるね」

『うん。だから 引っ越ししてきて、ちょっと安心した。ようちゃん にも 会えたしね!』

「うん そうだね! 私もね キーちゃんが、転校してくる少し前に 違う所からかわってきたんだよ」

『そうだったんだ?どこからぁ?』

「私は パパの方の おじいちゃんとこに、ずっと居たんだぁ」

『えっ?何で?』

「妹を 妊娠した頃から、ママの体調が良く無かったんだって。妹が生まれてから 余計に、辛くなって。パパも 転勤で離れてたし、子供2人の面倒がみれないからって、私は おじいちゃんの所に、預かってもらってたの。妹が 大きくなったし、ママも元気になって、パパが 転勤から戻ったから、皆で こっちで暮らす様になったの」

『へぇ 寂しかったね』

「うぅん… 全然 平気だったよ」

『そうなの?』

「おじいちゃん も おばあちゃんも、優しかったし。私 本読んだり、絵描いたりするのが 好きだったから、いつも 一人で遊んでて、あんまり 寂しいって思わなかったよ」

『お友達は?』

「あぁ 小さな漁村の町だったから、子供はあんまりいなかったの」

『そうなんだぁ~ 私!海の方が好きぃ』

「私は 海が怖いな…」

『えっ なんで?』

「私も 海で、怖い思いした事あるの」

『ようちゃん もなの?』

「ぅ…ん」

『海って 広いし、キラキラしてて、砂浜とか 好きなんだけどなぁ~』

「海ってね 潮っていうのがあるんだって」

『塩なら知ってるよぉ~ だって海水から、塩が取れるんでしょ』

「うぅん 違うの 潮っていうのは、海の水が 増えたり、減ったりする事なの」

『な、なんとなく 授業で習ったよぉ~な;;』

「それ それ、朝とか 夕方とかで、水の量が違うの」

『うん。だけど 何で怖いの?』

「おじいちゃんに 岩場には言ったらダメだよって言われてたんだけど、浜で遊んでて ウミネコ追っかけてたら、そっちに行っちゃって」

『ぅ…ん』

「岩の隙間に サンダルごと挟まっちゃって、抜こうとしたら 抜けなくて」

『えーなんでぇ;;』

「足捻ったみたいで 痛いし、どんどん腫れてきちゃって サンダルも食い込んでくるし、どうしても 抜けなくなって…」

『ぅん…』

「周りには 誰も居ないし、夕方になってきたら 少しずつ、お尻のところが 濡れてきて、それからは ズンズン、水嵩が増えてきて。あっという間に 体が浸かってしまって」

『えーーー!』

「もう ダメぇって思った時に、おじいちゃん達が 助けにきてくれて。でも その時、私 覚えてなくて。目を覚ましたら 病院だったの」

『何それぇ~』

「うん… もうそれから 海には近づけなくなったゎ」

『そんな 怖い思いしたんだ?』

「うん」

『やぁ~ 海も怖いんだね』

「怖かったぁ」




 また 2人共、黙り込んでしまっていると…



 車掌さんが 来て

[もうすぐ 終点だよ。荷物大丈夫かな?]

っと 声をかけに来てくれた。


「『あ、はぁ~い』」




『あれ?じゃぁ 今から行く所が、前に ようちゃんが 居た所なの?』

「うぅん違うよ。こっちは ママの方のおばあちゃんの家」

『あ、そうなんだ。じゃぁ 怖くないね』

「うん。遠いから 中々会えなくて、小さい頃に会った時「桜花村の話」を聞いたっきりだったから」

『そっかぁ でも、これから聞けるよね!』

「うん」

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