第5話『ゼロによる管理社会』

 そうしてゼロによる人類の完全管理が始まった。まずゼロは、ゼロサーバーと呼ばれるインターネットの上位存在というべきものを開発。それによって、世界のあらゆる電子メディアはゼロとリンクし、その管理下に置かれることとなったのだ。


 その結果、ハッキングなんて行おうものなら即座にゼロに看破され、サーバーから切断される。ロックをかけようにも人外の知能と演算速度を持つゼロにかかれば、どんなロックだろうとザルのように突破されてしまう。


 これによって、まず世界で最も影響の大きかった犯罪行為であるサイバー犯罪が殲滅された。


 ハッキングとかって今考えたらガチで怖い。


 そしてゼロサーバーの恩恵だが、それはサイバー犯罪の殲滅だけではない。


人類に埋め込まれていたマイクロチップが本当が真価を発揮できるようになったのだ。ゼロ以前から人類は体にマイクロチップを埋め込んで、個人情報を管理していたのだが、やっぱりそこらのコンピューターや人間程度の頭脳では完全に管理しきれてなかった。


 挙句の果てには、サイバー攻撃にあって個人情報が大量流出する事態もあったらしい。


しかし、ゼロならばその点問題はない。ゼロのサイバー攻撃に対する強さはもはや無敵と言ってもいい程なのだから。


 さらに、ゼロはマイクロチップから得られる個人のデータに他人のデータを組み合わせ、そこに世界中のゼロサーバーから集められた情報を掛け合わせる。するとどうなるか、全人類の持つ能力を完全に数値化することが出来るのだ。その情報をもとに、ゼロは全人類にその人の能力を最も生かせる最適な進路を提示してくれる。すると人々は最適な職業に将来は着け、そこで自分の能力を最大限に発揮しながら生きていくことが出来るというわけだ。


 ゼロ以前の時代の人類は、自らの進路を自らで決めるしかなく、それゆえに才能を全く生かすことなく人生を終えるものが大半だったらしい。マジでもったいなさすぎる。


 それに比べて、今はゼロが進むべき道を教えてくれるんだからどれだけ素晴らしいことか。


ちなみに、その適正がおおよそ6歳のころまでには判断されることになるのだが、これだけでまだゼロは止まらない。


次にゼロは教育改革に乗り出す。これが今でいうところの全人類学校時代の崩壊だ。


学問の才のない者に使いもしない知識を詰め込ませる無駄な教育に時間を割くのではなく、その者に与えられた才能をより伸ばすことに時間を使うべきだというゼロの判断である。今考えたら当たり前でしかないんだけど、少し前の人たちはそうやって生きてきたのだというから恐ろしい。


 俺が学校とかいってたら確実に死んでた自信がある。俺からしてみれば勉強とかノーチャン、ゼロの判断を必要とせずともそのくらいは分かるというものだ。

 

 そして、そのゼロによって新しく改革された教育体系だが、今までは学校とひとくくりにされていたものが


学校

美術学校

医薬学校

起業館

創造館

スポーツ館

デザイン館

製作館

グルメ館

法務館

指導館

エンタメ館

伸館


と教育機関は細分化される。それぞれの分野に才能を持った者たちが切磋琢磨しながら自分のやりたいことだけをやることが許される、今となっては当たり前のシステムだ。しかし、昔を考えてみると天国のようなシステム。


 これも、人類の管理体系をゼロを頂点にすえるワントップ型の管理体系に変更したからこそできたものだ。以前のように人間同士が話し合って決めていたら、ここまで思い切った改革は絶対無理だったろう。

 

 さらに、ゼロは今まで人の手によって行われていた統治を自動化することに成功する。つまりは、ゼロがいままで公務員と呼ばれる人達によってなされていた仕事を一手に担うようになったと言い換えてもいい。


 役所と呼ばれるところにおいて以前行われていた面倒な手続きは、マイクロチップを介してゼロサーバーに直接アクセスすることで完全に不要となった。この手法は、ゼロ以前の時代ではサイバー攻撃への脆弱性が懸念されていたようだが、今となっては何の心配もない。ゼロ相手にサイバー攻撃するなんて、人間一人で無人戦闘機隊に特攻するようなものだ。


 ちなみに警備や防犯の仕事はゼロ指揮下のドローン部隊によってなされるようになった。犯罪が起ころうものなら即座にゼロによって確保型ドローンが飛ばされ逮捕される手はずになっているので、犯罪なるものはそうそう起こらない。治安は最高だ。


 まだこれだけでは終わらない。やはり人の手が必要になってくるときも来るだろう。そんな時のためにゼロ直轄の組織である、全人類のあこがれの的である組織が存在する。


 その組織、名を………




「タイキー、講義もう終わっとるよ?何ぼーっとしてんだよ」


 タクミの声で俺の意識は現実世界に帰ってくる。


「やっと終わったのか。ちょっと考え事をしてた」


 よし、なんとか眠らずに乗り切った。ナイスファイト俺。


「次は生徒面談だから早くいこうぜ」


「あ、次面談か。とは言っても、俺の結果はもうすでに見えてるけどなー」


俺の伸館での様子はだいたいこんな感じ。


特に何も考えなくてもゼロが考えてくれるから良いって本当に今という時代に生まれてよかったわー。


俺とタクミは移動教室のため、VR空間からログアウトする。講堂には俺たちしか残っている人はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る