チン・ポジラ
矢口ひかげ
チン・ポジラ
朝目が覚めると俺のムスコが勃っていた。
うん。
まあいわゆる朝立ちってやつだ。一般男性のほとんどが一度は経験する生理現象。こんなものは日常茶飯事である。
一発ヌくか放置をすればそのうちに縮んでいき、普段通りの大きさに戻る。
朝っぱらからヌくのもよくない。オナニーを行うと今日一日頭の回転が鈍り集中力が散漫する。特に今日は大事なセンター試験の初日だ。この日のために約一年間禁欲を続け夜更かしして勉学に励んできたんだ。折角の苦労を水の泡にしてたまるか。
ここは放置して治まるのを待とう。まだ家を出るまでに時間は充分にある。
ということで俺は上体を起こして布団の中で待っていた。しばらくしたら治まるものだと、思っていた。朝立ちならそうなるだろうと。
でもその日は違った。
起床してから、十分が経過し、二十分が経過し、そして、三十分が経過した。
……おいおいおいおい。
ちょっと元気すぎないか? 一向に縮む気配がしないんだが……。
依然アソコはピンピンしていて、寝巻越しに自己主張している。そろそろ身支度済ませないと試験開始に間に合わないぞ。
一体どうしようか悩んでいたら、突然ドアを二回ノックされた。母だった。
「聡、起きてる? 高橋くんが迎えにきたわよ。下で待っているから、早く降りてきなさい」
しまった。今日は隣に住む幼馴染の高橋と待ち合わせをしていたんだった。あいつをこんな珍事に巻き込ませるわけにはいかない……!
「母さん! 起きてるよ! いますぐ着替えるから、高橋には『すぐ行く』って伝えといて!」
……痛っ!
言い終わったと同時に股間に激痛が走る。熱い何かが喉から下腹部へ伝わり、そして股間に流れ込む。ムスコは悶えるかのように痙攣する。
慌ててズボンとパンツを脱ぎおろし、ちんぽを確認した。
ちんぽはハチに刺されたかのように、さっきより一回りほど膨れ上がっていた。見慣れたちんぽだから寸法に狂いはない。
「なんだよこれ……」
あまりの出来事に頭が混乱する。これは病気なのか? おそるおそる指でつついてみるが、普段通り敏感に反応する。どうやらただムスコが大きくなっただけみたいだ。
しかしこれではいくらズボンを履いたとしても勃起してるのがバレるぞ……。ジーパンならまだしも、制服だと盛大なテントを張ってしまう。今日は高橋も含め、同級生とも顔を合わせるんだ。もし相手に下半身でも見られでもしたら……
~~~
「キャー! 渡辺くんの下半身が!」
「おいっ、何おっ勃ててんだよ(笑)」
「そんなにテント張って……おまえ試験中に何エロいこと考えてんだ? けしからん」
「渡辺くんサイテー。私たち必死に受験に集中してるのに・……」
「おい、佐藤のやつお前のナニ見て泣いちまったじゃねえか」
「今すぐ謝れ! 『試験中にナニをおっ勃てる変態でスミマセンでした』って謝れよ!」
「「「あーやっまれ! あーやっまれ!」」」
~~~
こんなの一生のトラウマになる……!
「聡! そろそろ行かないと遅刻するわよ!」
マズい! すぐ支度するといった手前、仮病もできなければ寝たふりもできない。
何か、何か嘘でもついて、少しでも対処法を考える時間を稼がないと!
そうだ! トイレを催して二階のトイレに籠っている体でいこう。大便なら数分くらい許容範囲で済まされる。
「母さんちょっと待って! 今トイレ行きたくなったから――」
痛いっ!
また熱いものが流れ込み、激痛がちんぽに走った。ビクンビクンっと俺のムスコが跳ねあがる。感覚からして、また一回り大きくなったようだった。
一体どうしちまったんだ、俺の身体。何かを発言する度に俺のムスコが巨大化していく。まるでピノキオの鼻みたいじゃないか……。
……ピノキオの鼻。
まさかな。
「俺はバレンタインに学校の女子全員から本命チョコを貰う超絶イケメンである。――って、痛い痛い痛い痛い!」
マジかよ……
嘘をつく度にアソコが大きくなる、だと。そんな病気聞いたことないぞ。
しかし、原因が分かったのは大きい。要は今日一日嘘をつかなければ済む話だ。
突如、再び部屋のドアがノックされる。
「おい渡辺入るぞー」
ヤバい、高橋だ!
俺は咄嗟にズボンを履き、その場に座り込んだ。
せめて座ればテントもバレにくい、はずだ……と思ったが、あまりにも大きくなっていたムスコは布越しでも元気いっぱいなのが分かるかどうかスレスレなほどに膨れあがっていた。
「おはよう。早くいかないと遅刻する――ってまだ制服にも着替えてないのかよ! いい加減にしろよ! 今日大事な日だってこと分かってるだろっ!」
「いい加減にしろって言われましても……」
俺は理不尽に叱られてシュンと縮こまった。
ちなみにアソコは依然ピンピンのままである。
「はぁ……怒っても仕方ない。早く支度しろよ。ほら、立て」
「え?」
「いや、立てって言ってんの。そうしないと何もできないだろ?」
いやいやいや、できないよ! ちんぽが勃っているから!
しかしいい加減に高橋ももたついている俺に痺れを切らしているからな。なんとかしてでも立ち上がらないと。
俺はどうにか気づかれないように慎重に立ち上がった。ムスコのテントが分からないように、腰を引き気味にして前かがみになりながら制服に着替えた。
「……なんで中腰なんだ?」
そこをツッコまれたか。ここは嘘ついて誤魔化さないと。
「いや……ちょっと腰が悪くて――痛痛痛痛いー!」
しまったああぁぁぁ! うっかり墓穴を掘ってしまったああぁぁぁ!
「おい渡辺。大丈夫か?」
あまりの激痛に身悶えしている俺の顔を覗き込んだ。
「うおっでかっ!」
そして下に視線を移して驚愕した。
高橋はあまりの驚きに尻もちをついて俺から離れるように後ずさりした。
「随分……立派なものを携えているんだなぁ⁉」
「どうか、どうかクラスの皆には言わないでくれ。朝からこんな感じなんだ」
見られてしまったからには、これ以上嘘をつかないで隠すことは無理だろう。高橋に包み隠さず話そう。
「……実は正直にいうと、嘘をつくほどちんぽが大きくなるんだ」
「はぁ? 嘘つくほどちんこがでかくなる? いきなりそういう性癖暴露されてもなぁ……」
「違う違うっ! 性癖の話じゃないって!」
時間もあまり残されていないため、俺は簡潔に分かりやすく今朝の珍事を高橋に伝えた。
「うーん、なるほど。嘘をつくと激痛が走ってちんこがでかくなると……。あまり信じられないが、コレをみてしまったからなあ」
先ほどの嘘で、ムスコは二の腕ほどの大きさに膨張し、ズボンから亀頭がコンニチハしていた。昔の可愛かったころのムスコの面影は、もうほとんど残されていなかった。
「放置しても全然静まらないし。こんな姿でクラスの皆に遭遇したらそれこそ黒歴史だ……」
「なるほどね……つまり、お前は今嘘をつけなくて、弱みを持っているということか」
高橋はニヤニヤしながら顎をさすっている。
なんだか嫌な予感がする……。
「よし、みんなには黙っておいてやろう。なんなら解決法も教えてやる」
「解決法……って知っているのか⁉」
「ああ。ただし――」
深く息を吸って吐き出すように言った。
「これからする質問にすべて答えたらな」
「この畜生め!」
「なんとでもいうがいい。じゃあ、まず一つ目だ」
「嫌あああああああああああぁぁぁ!」
「クラスの女子でヌいたことは?――」
「はあ、はあ……」
「お疲れさん。時間も大概だし、ひとまずこれくらいにしてやるよ」
拷問とも呼べるべき屈辱を受けた俺は受験前に戦意を消失していた。
ところどころ抵抗すべく嘘を混ぜたが、どんなに小さな嘘でももれなくちんぽがキャッチした。
そのせいで俺のちんぽは電柱ほどの太さになった。こうなってはもう衣類なんかで包み隠すことなんて不可能だった。
「それにしてもこれは酷いな(笑)」
「笑うな! 誰のせいだと思ってるんだっ! はやくこいつを治してくれ!」
「ああ、そうだった。これを静めるのはとても簡単だ。一発ヌけばいいんだよ」
「……は?」
「だから、シコってヌけば賢者モードになって元の大きさに戻るわけだ。おまえ処理の仕方も忘れたのか」
「いやいやいや。そんなの最初っからわかってるよ! だけどそんなことしたら集中力が下がって今日の試験で力を発揮できないからしてなかったんだよ」
「とはいっても選り好んでいる状況じゃないだろ。試験に集中できないどころか、試験に行けないような状況だし。ほら、そろそろ本格的に時間がない」
そう言って高橋が時計を指さす。時間は走って向かったとしても、もう数分しか猶予は残されていなかった。
「それに、これ以上考えても妙案を思いつかないだろ」
「うっ……。大体、ヌいたら本当に治るのかよ?」
「多分な。そら……知らんよ。そんな病気、みたことないし……」
……ち。
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!」
俺は巨大になったムスコを両手で抱えて上下に擦った。
シコシコシコシコ。
焦りや怒りといった複雑に入り混じった感情が両手の力に込もる。そして、
「うっ、でるっ!」
びゅびゅるびゅるびゅるびゅびゅるびゅ~~~――
今朝の慌ただしい喧騒とは逆に試験会場は静粛していた。なんとか間に合ったようで、席に着いたと同時に問題用紙が配られた。
俺のムスコは……運よく縮んでくれた。禁欲も相まってか、巨根からは数リットル――いや数十リットルほどはあっただろうか、おびただしいほどの精子が部屋一面に飛び散った。
俺と高橋はあの後精子臭い部屋から脱出し、全速力で試験会場へ向かった。制服からは汗と精子が混じった臭気が漂う。
「なんか臭くね?」とか小声が聞こえるけど、これ以上精神を乱れさせるのはよそう。
もう嘘をつく機会なんてないよな……?
「では、始めてください」
そうこうして不安が拭いきれないまま受験が開始した。最初は地理だった。
俺は問題用紙の初めのページをめくった。
……分からない。いや、根本的に分からない訳ではないからいけそうだがなぜか頭が回らない。
地理は暗記とグラフを読み取る力が試される科目だ。時間内に集中して思い出せばいいだけの話。
……あああああああああああぁぁぁ! 今朝ヌいてしまったんじゃねえか。
これでは試験どころではない。とにかく先にパッとわかる問題だけ解答して、残りは時間がある限り考えて記入しよう。
そうして俺は先に簡単な問いだけに答えたが、グラフ考察の問題や分からない問題が六割近く残ってしまった。後はゆっくり悩んで解くしかない。
「残り時間はあと十分です。名前を書き忘れていないか確認してください」
えっ! もうそんなに時間ないの⁉ 一つ一つ問題に取り組んでいる余分はない。
こうなったら適当にマークしていくしかない。これは……多分①だ……って痛い!
えっ、何で? なんで股間に激痛が走るの? ナンデちんぽガオオキクナッテンノ⁉
これ、朝の症状か? 嘘なんてついてないのに。まさか解答を間違えたからなのか。
試しに今度は②をマークした。激痛が走る。③をマーク。激痛が走る。
そして、最後の選択肢④をマークした。
何も起こらない。どうやらこれが正解なのか。
これは便利な反面、危険だな。下手に数打てば必ず当たるが、やりすぎるとちんぽがまた隠し切れないほど巨大化して俺は公然わいせつ物陳列罪で捕まってしまう。
次の問題は選択肢が七つある。これはある程度絞ってから解答したほうがいいな。
大丈夫だ。誤りを最低限に抑えて休憩ごとにトイレの個室でシコれば大事には至らないはずだ。
「残り時間はあと五分です。間もなく試験が終了します」
ヤバい、もうそんな時間か! まだ半分も解けてないぞ……
仕方ない! こうなったら、この科目だけでも適当に解答して、さっき考えた方法は次の科目以降で活かそう!
俺は問題の選択肢一つ一つを虱潰しに解答していった。間違える度に、股間が痛む。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……
***
番組の途中ですが臨時ニュースです。M県T市の○○大学センター試験会場で謎の巨大生物が出現しました。巨大生物は体長約五十メートルの長い首を持つ生き物で、現れてから数分後に頭と思われる部分から白濁した液体を放出したとのこと。これにより試験会場及び会場周辺の都市機能が壊滅。現在、住民の避難とともに、巨大生物の正体を得るために白濁した液体の分析を行っているとのことです。
速報です。M県T市に出現した巨大生物に『ポジラ』、『ポジラ』と命名したことを先ほど防衛省が発表し――
チン・ポジラ 矢口ひかげ @torii_yaguchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます