第30話「爆炎の能力者」

 平凡な高校生だった俺は、ある日、夢を見た。

 

 夢のなかに現れた女神様は、こう言ったのだ。


「あなたには素質があります。炎を操る能力を与えましょう」


 ガバッと飛び起きた。

 

 なんだ、いまの夢。ものすごい臨場感で、とても夢とは思えない。


 もしかして、ほんとうに超能力を授かったのか?

 超能力者、憧れていたんだよ。

 能力を秘めた左手がうずくぜ……とか。カッコいい!


 すぐに火を消せるように、風呂場に行って、念じた。

 

 ところが、いくら念じても、火なんて操れない。

 ライターくらいの小さな火すら出ない。

 次の日も 、そのまた次の日も、練習したのに、いちども成功しない……

 やっぱり、ただの夢だったのか……

 あきらめるしかなかった。


 ☆


 それから数年後、大学生になった俺は、冬山登山で遭難しかかっていた。

 あたりは吹雪で真っ白。何も見えない。

 雪と風が真横から機関銃弾のように叩きつけられてくる。

 仲間ともはぐれ、体が寒さで痛くて、痙攣して、まぶたが重くなって……

 もうダメだ、死ぬ……

 心の片隅で、遠い日に見た夢のことを思い出した。

 炎の能力者……

 そんな能力があるんなら、今こそ目覚めろよ……

 だが、「出ろ、出ろ、炎……!」

 力の限り念じても、何も出ない。


 そんな時。


 ありえない出来事が起こった。

 あれほど激しい風が、まるで魔法のように止んだ。

 視界が開けた。 

 俺の前に、ふたりの人間が姿を表していた。

 1人は優男で、天に向かって両手をかざしていた。

 天にかざした手から、不思議な光がほとばしって、周囲を包んでいた。

 よく見ると、この光が包んでいる範囲だけ、風が止んでいるのだ。

 

 なんだ、これ……?

 超能力……?


 もっと驚くべきことが起こった。

 もう1人の男、ガッチリした体格の男が地面に手を突いた。

 地面が変形する。盛り上がり、石の壁になり、天井になり……俺達を囲む、小屋になった。

 2人の男は懐中電灯で小屋の中を照らしながら、俺に声をかけてきた。


「○○さんですよね? 間に合って良かった……」

「凍傷とか大丈夫か? 着替えを持ってきたからさ。あったかいコーヒーもある」


「あ、ありがとうございます。でも、あなた達は何者なんですか? この不思議な力は……」


 俺の問いに、優男とガッチリの二人組はニコッと微笑んで答えた。


「本当はご存知なのでしょう? 女神から力を授かった者ですよ。私は、風の能力者」

「オレは大地の能力者だ」

「きょうは別行動をとっていますが、水の能力者もいます」

「オレたちはずっと、最後のひとり、炎の能力者を探していたのさ」


 深々と頭を下げるしかなかった。


「ご、ごめんなさい……せっかく助けてくれたのに……期待には応えられません。俺は、みんなとは違うんです。一度も能力を使えた試しがないんですよ……」


 2人はまた笑って答えた。


「ああ、それは能力の使い方を知らないのですよ。私たちが能力を使うためには、ある条件が必要なのです。私は風の能力者だから気づきませんでしたが」

「オレはすぐに気づいた。大地だからな」


 そこで、俺は、さっき二人組が超能力を使った時のことを思い出した。


「ま、まさか……」

「そう、そのまさかですよ」


 ☆

 

 集結した俺たち4人は、正義のために闘い始めた!


 今日の敵は、マフィアどもだ。


 風の能力者が突風を操り、俺たち4人は空を飛んで行く。

 マフィアが麻薬取引をやっている深夜の港に、俺たちは舞い降りる。


「なんだ、お前ら!」


 マフィアどもが問答無用で銃を向けてくる。


「むん!」


 大地の能力者が路面に手をついて、石の壁を作って、マフィアどもの銃弾を防いだ。


「流れちゃいなさい!」

 

 紅一点、水の能力者。たっぷり水の入ったバケツに手を突っ込んだ。

 バケツの水が何万倍にも増えて、飛び出し、洪水のようにマフィアたちを押し流した。


 さいごに、俺。


「トドメだ!」


 俺は、ガスバーナーを全開にした炎に、思いっきり左手を押しつけた。

 俺たち4人の能力は、遠隔作用ができない。大地の能力者なら大地、俺は炎に接触しないと使えないのだ! 風の能力者だけは、常に空気に触れてるからどこでも使える!


「ぐっ……!!」


 飛び上がるほどの熱さと痛み。何度やっても慣れない。慣れるわけがない。

 ガスバーナーの炎は、俺の能力によって爆発的に膨れ上がり、何十メートルもの巨大な龍となってマフィアどもに襲いかかる!


 こうして、今日も悪は滅んだ。

 俺の手と引き換えに……

 数えきれないほど火傷を負ったので、俺の左手は焼けただれ、ケロイドに覆われ、ものを掴むことすらできない。

 能力を秘めた左手がうずくぜ……単に痛いから……


「えー、そんなの私も一緒よ、ずっと水の中に手を入れてるから、ふやけちゃって。平等よね」


 平等なわけあるか! 女神は炎になんの恨みがあるんだよ! 

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