第4話 催眠療法
柿本の案内で私は心療内科にある治療室へ来ていた。治療のため穣さんとは一度別れることになった。
部屋はせまく、暗い。歯医者にあるようなリクライニングシートとスツールが一つずつ置かれていた。きっとここに横になって催眠とやらをかけるのだろう。
私が所在無げに立ちすくんでいると、遅れて柿本が部屋に入ってきた。私が立ちっぱなしだったのを見ると、リクライニングシートに座るように促す。
「ではこれから催眠をかけます。といっても肩肘を張る必要はありません。まず目を瞑って。それから深呼吸をしましょう。……はい、吐く時間をできるだけ長くとるようにして。……はい、そうです。リラックスしましょう」
柿本はゆっくりと一つ一つ、語りかけるように指示を出していく。さっきの診察室で話していた時よりも柿本の声のトーンは低く、身体全体に響いてくるようだった。
「落ち着いてきましたかね。……はい、そうしましたらゆっくり目を開いてください。半目を開く程度で構いません」
私が目を開くと、目の前に金色に光る光源があった。柿本がペンライトでもかざしているのだろうか。
「ゆっくりと光を動かします。その光を目で追ってみてください。何も考えないで」
光は右、左とゆっくり規則的に漂った。それをほとんど無意識の内に目で追った。
しばらくそうしてるうち、夢とも現ともつかない世界に私は引き込まれていくのだった。
誰かが私を呼んでいる
柿本の声ではなかった
穣さんの声のようだったが、穣さんではなかった
私の声のようでもあったが、私ではなかった
その声は昨夜夢で聞いた声とおんなじで
けれども声はことばではなかった
それはことばよりも前から存在していたもので
明確に言語化されたものではなかったけれど
それの意味するところは私にも理解できた
私に会いたいと
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