第4話
アサキは、再びソントン夫妻の家にやって来た息を切らせながらドアを開けた。
「アサキちゃん、お金は借りれたかい?」
アサキは、首を横に振った。
落胆するソントン夫妻。
「やっぱりなぁ……」
「違うんです! ニュートンさん、お金を貸すのを渋ったわけじゃなくて、普通のお金を使っても
「ん?」
ソントン夫妻は意味が分からないようだ。
「息子さんの貯金箱を私に貸してください」
夫妻は不思議に思いながらも貯金箱を持ってきた。
貯金箱の中を開けると出てきたのはたった12ペンスしかない。とても薬が買える額ではない」
「こっちの金と合わせても足りないな」
テーブルに置きっぱなしになっていたお金を見てソントンはそう言った。
ため息をつくソントンにアサキは言った。
「ソントンさん、奥様、この12ペンスオンスを私に貸してください! 私、これで薬を買ってきます!」
「は? でもたった12ペンスで薬を売ってくれる医者なんていないよ」
「お願いします! 信じてください!」
アサキの必死の様子にソントン夫妻は、貯金箱にあった12ペンスを渡した。
「ありがとう!」
お金を預かったアサキは、ソントン夫妻の家を出た。
アサキは街中の医者のところを回った。
「12ペンス? ばかを言っちゃいけないよ、君。そんな安いもんじゃないよ」
「一番安くても12ペンスでは売れないね」
「ふざけるな」
「帰れ」
どこの医者に行っても似たような事を言われ断られてしまう。
もう、気持ちも体もクタクタだ。
日も暮れかかったころ、通りがかりの人に教えてもらった開業したばかりの医者の家に行った。
「12ペンスで薬を?」
医者は困惑した。
「お願いします!」
深々と頭を下げるアサキ。
「そうは言っても……」
必死でアサキが頼み込んでいると、玄関の様子に気がついた医者の妻が家の奥から顔を出した。
「あなた、どうしましたの?」
「いや、実はこの娘さんがね……」
「あら、あなたは?」
そこにいたのはアサキが市場で階段を降りるのを手伝った妊婦だった。
「あ……どうも」
「君、このお嬢さんと知り合いかね?」
「ええ、この娘がこのあいだお話した市場で私に親切にしてくれた……」
「ああ、あの」
「一体、どうしたの?」
婦人はやさしい笑顔でアサキにたずねた。
「実は……」
アサキはそれまでの事情を話した。
話を聞き終わると医者はしばらく考え込んだ。
「ちょっと待っていたまえ」
医者は、別室に入ると小さな紙袋を持って戻ってきた。
「その症状なら多分この薬ですぐ治るだろう」
「え?」
「お代は12ペンスだよ」
そう言って医者はやさしく笑った。
「ありがとうございます!」
アサキは手に持った12ペンスを医者に手渡した。
「野菜売りのソントンさんだったね。念のため、あとで様子を診にいってあげるから心配しないていいよ」
「よかったわねえ」
婦人がニッコリと笑う。
「はい!」
薬を受け取ったアサキは深々とお辞儀をして医者の家をあとにした。
走り去るアサキを見送る夫妻。
「あなた、あのお薬、お高いものなのでしょう?」
婦人は夫に尋ねた。
「そうだね」
「ではなぜ?」
「両親へのプレゼントの為に子供が一生懸命貯めた12ペンスには素晴らしい価値があると思わないかい?」
医者は妻の問いかけにそう答えた。
「そうですね」
妻はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
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