第2話
市場まで来たが、まだ市場が閉まる時間ではないのにソントンの屋台はすでに引き上げていた。
アサキは、近くの屋台にソントンの事を聞いてみる。
「ああ、なんでも急に子供が病気になったからって、慌てて帰ったよ」
子供さんが……? きっとニュートンさんの話にあった”代償”を払わされたんだ!
「すみません! ソントンさんのお家の場所を教えてください!」
ソントンの家では、調子の悪くなった息子をソントン夫妻が看病していた。
「子供の様子が急に悪くなって……あっというまにこの有様だよ」
動揺するソントンにアサキは言った。
「ソントンさん。あなたは、最近、大金を手に入れませんでしたか?」
「え? ああ。ギャンブルで馬鹿勝ちして……おかげで嫁に飲ませる薬が買えたんだけど」
「そのお金残ってますか? あったらこれ以上、使ってははダメです!」
「それはどういうことだい? アサキ」
「とにかく全部集めてください。野菜の売上ではなく、ギャンブルで買った時に受け取った貨幣です」
ソントンは言われたとおり貨幣を持ってきた。
「袋はありますか?」
「あ、はい」
ソントン婦人が麻の小袋を持ってきた。アサキをその中に
「これでよし!」
不思議そうな表情でその様子を見守っていたソントン夫婦は顔を見合わせた。
「私の
「なんか聞いたことあるな……」
「この
「俺は、この金で妻の薬を買った」
「悪化した私の
「じゃあ、女房の治った
「そういうお金なんです」
「なんてこった……どうしたら?」
「
「といってもなあ、それ以外の有り金はこれくらいしか……」
そう言って
「ああ……どうしようか?」
「ねえ、アンタ。
「なるほど……いい考えかもしれない」
「ちょっと待って!」
アサキは、事務所を出る時に渡されたニュートンのメモを取り出した。
「
アサキは、注書きに目を通した。
「両替所では
夫妻は顔を見合わせた。
「なら、これで別の物を買ってそれを売って新しい金に……」
「あ……それも書いてあります。手に入れる物を変えても、望みが達成されれば相応の”代償”が待ってるって」
夫妻は落胆する。
傍らで熱で寝込んでいたソントンの息子が目を覚ます。
「かあちゃん……」
「ああ、ごめんね。起こしちゃったかい?」
「かあちゃん、とうちゃんがもう帰ってきてる」
「今日はお前が調子が悪くなったからって早く戻ってきてくれたんだよ」
「ふーん……」
ソントン婦人は、息子の額の濡れタオルを交換した。
「ねえ、とうちゃん、かあちゃん、何かほしいものある?」
「欲しいもの?」
「ほら、もうすぐ結婚記念日じゃない? 俺、何かプレゼントしようと思ってお金を貯めてたんだ。あんまりないけどさ……」
「お前が元気になれば他になんもいらないさ」
ソントン婦人は息子のおでこに優しくキスをした。
その様子を見ていたアサキはいたたまれない気持ちになる。
「そうだ! 私、
「いいのかい?」
「ニュートンさんはいい人です。きっと貸してくれますよ。それじゃ一旦、戻ります!」
そう言うとアサキはソントン夫妻の家を出るとニュートン探偵事務所に向かった。
「それは無理だよ、アサキ」
ニュートンは、申し訳無さそうな顔でそう言った。
「私の賃金を前借りでもダメですか? 一年分……いえ、十年分でもいいですから」
「いや、そういう事ではないんだよ」
ニュートンは、首を横に振った。
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