第25話恋ひ恋ひて

恋ひ恋ひて

     そなたになびく

            煙あらば

                いひし契りの

                      はてとながめよ


                             (新後撰1113)


貴方を恋し


その恋のあげく


貴方に私の野辺の煙が 届くかもしれない


それは


貴方と交わした契りの果て


そのものと 眺めてください



※参考

今はとて

     燃えむ煙も

          むすぼほれ

               絶えぬ思ひの

                     なほや残らむ

                         

                          源氏物語第三十六条柏木


今はこれまでと 私を荼毘に付し、燃やす煙もくすぶって、


それでも絶えない この思ひ(恋の炎)だけが なおも残るだろうか


柏木の死出の間際の切ない歌に対して

ようやくの女三宮の返し


立ちそひて 

     消えやしな

          まうしきことを

                 思ひ乱るる  

                      煙くらべに


あなたを燃やす煙と一緒に 私も消えてしまいたい

辛い思ひに乱れる煙の激しさを比べるために


源氏のダブル密通事件の一つ

女三宮と柏木の事件で、柏木は、わが身を燃やす炎が煙となり相手(女三宮)に届くことを願っている。(しかし、女三宮は、どこまで柏木のことを想っていたのかはわからない、女三宮自身は単なる非常に愚かな自らの過ちと思っている)


火葬が定着した時代より、死出の煙になっても相手を恋求めるという考えや表現がある。


式子内親王の歌の場合、「いひし契り」の解釈が問題になる。

それは「仮想の相手」なのか、「現実の相手」なのか。

どちらにしろ、結ばれなかった恋を詠んでいる。





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