第40話 響也

――響也

 机で勉強をしていたら突然視界が切り替わって、視界に映ったのは革鎧を来た女の子だった。さらに驚いたことに心の中? と言えばいいいんだろうかアニメっぽい声の女の子の声が俺に話かけてくるんだ。

 目の前では革鎧の女の子がしゃべっていて、心の中ではアニメ声の女の子が話しかけてくる。


 何が何だか大混乱していたんだけど、目の前の女の子がしゃべり始めたからか、心の中の声はひとまず沈黙してくれた。すると突然口が動くようになったんだ。


「響也、聞いてくれ。この体はリベールという。今話をしているのは俺だ。竜二だ」


 革鎧の女の子――リベールさんは、兄さんだと言うじゃないか。リベールさんと言えば、ゲーム内で何度か遊んだことのあるキャラクターの名前と同じだった。ゲームと何か関連性があるんだろうか?


「え、兄さん? 何がどうなってるのか分からないよ」


 目の前のリベールさんは兄さんだと言う。二度ほど会話を交わした結果、この人は間違いなく兄さんだと俺は認識できた。俺が兄さんを間違えるわけはないから。


「響也、突然ですまない。今から元に戻ることもできるが一つ助けてくれないか?」


「何が何だか。俺は何ができるのかな? 兄さん」


 兄さんの頼みであれば、俺に不可能なことは頼んで来ないだろうし、俺にできることなら兄さんを助けてあげたい。何でも言ってくれ兄さん。


「今、響也が入っている体と言えばいいのか、その体はゲームのキャラクターみたいな状態になっている。恐らくゲームと同じでキーボードで体を操作できると思う」


「ちょっと突拍子も無くて信じられないけど、兄さんが言うならそうなんだろうね。それで俺は何をしたらいいんだ?」


「暴帝を討伐して欲しいんだ。安心して欲しいのはその体で死亡する事態になっても、ゲームと同じように復活する」


「分かったよ。ゲームと同じであれば何とかなると思う。暴帝のモーションもゲームと同じってわけだね」


「ああ、察しが良くて助かる。他のモンスターもこの世界にはいるし、練習もできる。武器はすぐ持ってくるよ」


「まだ何のことかよくわかってないけど。今どうなってるのかまず把握するよ」


「その体はしゅてるんという女性のものだ。しゅてるんの精神もそこにいるはずだから、折り合いをつけてほしい」


「分かった。まずしゅてるんさんに聞けることを聞いてみる」


「何かあったらすぐ言ってくれ。リベールへテルしてくれればいい」


 兄さんは、その言葉を最後に慌ただしくこの場から立ち去っていった。武器か何か準備でもするんだろうか。

 今兄さんに話を合わせてはみたものの、正直何が起こっているのか全く分かってない......どうすりゃいいんだ俺?


 ここで体が動かせなくなり、勝手に体が動く。どこかの部屋の中にいるようで......


<そうよよ。ここは私のおうち>


 先ほどのアニメ声の女の子だ。体が目を瞑ったようで視界が真っ暗になると新しい視界が生まれる。

 真っ白の空間に俺とゴシック衣装の女の子が立っていた。俺はなぜか高校の制服姿だ。


「ここは一体?」


「私にもよくわからないのの。たぶんここは私と響也くんとの精神世界みたいなものかな?」


「しゅてるんさんの体を、俺としゅてるんさんが共有してるのかな?」


「察しが良すぎて逆に怖いわよよ。リベールたんが言うには、私の体に響也くんの精神を呼ぶと言ってたわね」


 そういうことか。今俺はしゅてるんさんの体に憑依する精神体みたいなものか。だから、しゅてるんさんが体を動かしていいと譲ってくれると、さっきみたいに話すことができたのかな。


「体のことはだいたい分かった。しゅてるんさん」


「私もまだ把握しきれてないんだけど、少し試してみるねね」


 体が目を開くと、白い空間が消し飛び、視界が体を通して見える風景に切り替わる。再び目を閉じ、恐らくしゅてるんさんが念じると白い空間が生まれ、俺としゅてるんさんの精神体? らしきものが浮かび上がる。


「なるほど。しゅてるんさんが視界の切り替えを操作してるってことか」


「そうみたいねね。あと体の操作をどっちがするかも私が決めるみたいよよ」


「戦闘時以外はしゅてるんさんの体だし、しゅてるんさんが体を動かして欲しい」


「んん。響也くん。女の子の体動かしたくないのの?」


 二ヤっといやらしい笑みを浮かべるしゅてるんさんは、部屋を少し移動すると鏡の前に立つ。

 鏡に映ったのは、黒髪ツインテール、大きな目が特徴の黒っぽいゴシック衣装を着た少女だ。歳も俺に近そうに見える。


「響也くんは今いくつなの?」


「俺? 俺は十八だよ」


 俺は幸い推薦入試に受かったばかりの高校三年生だ。社会人の兄さんとは少し歳が離れている。


「ふうん」


 突然しゅてるんさんは、ゴシック衣装をはだけさせ前かがみになる。む、胸の谷間が見えてる......思わず目をそむけたくなるけど、体はしゅてるんさんが動かしているから目をそらすこともできない。


「しゅてるんさん! からかうのはよしてくれ!」


「あせっちゃってかわいい」


 ふふふと微笑を浮かべたしゅてるんさんは、元の姿勢に戻り椅子に腰かける。


 再び白い空間に視界が切り替わるが、精神体のしゅてるんさんはまだニヤニヤと微笑んでいる......やりずらいなあ。



◇◇◇◇◇



 兄さんが部屋を出てから一時間経つ頃だろうか、大楯と片手剣を手に持ち戻って来た。


「響也、しゅてるん、あーどう呼べばいいんだ。とにかく武器を先に持って来た」


「ありがとと。こんな大きな盾持ちながら剣なんて持てないわよよ」


 今体を動かしているのはしゅてるんさんだ。兄さん、俺がゲームで使っていた武器を覚えててくれたんだな。

 俺は少しだけ感動する。


「響也が使っていた武器だ。グラディエーターに成れば持てると思う」


「転職ってやつねね。わかったた」


<響也くん、グラディエーターになればよいのの?>


 しゅてるんさんは心の中の会話に切り替え、俺に確認してくる。


<職業まであるのかあ。ビックリだ。うん、俺が一番動けるのはグラディエーターだ>


 しゅてるんさんが目を閉じ何か念じると、頭にメッセージが浮かぶ。


<グラディエーターに転職しました>


 メッセージとかゲーム的な部分が多い世界だなあ。


「リベールたん、武器を借りるわよよ」


 しゅてるんさんは兄さんから武器を受けとると、体の操作が俺に変わる。

 武器を掴むと、視界にキーボードが浮かびあがり、ゲームのようにキャラクターを操作する感覚でしゅてるんさんの体を動かせることが分かる。


「なるほど。兄さん。理解したよ」


「おお、響也か。操作できるか?」


 リベールさんの顔をした兄さんは心配そうだ。そんな顔をしないでくれ兄さん。大丈夫だ。


「一足先にVRMMOをプレイしたと思えば全く問題ないよ」


「VRか。なるほど。言い得て妙かもしれないなー。暴帝用の武器はこれから発注する。困ったことがあったらテルしてくれ」


「分かったよ。兄さん」


 兄さんは準備があると、急ぎ何処かへ行ってしまった。

 兄さんが部屋を出ると俺は目をつぶり、視界を白い空間に切り替える。しゅてるんさんと話すにはこちらの方が話やすい。


「しゅてるんさん、何とかやれそうだ」


「長方形の板みたいなのが見えたけど、あれを使うのかなな」


 しゅてるんさんとこれまで会話した限り、彼女はかなり鋭いと思う。

 俺のような精神体と共存することも初めてなようだし、適応力が桁違いだ。


「響也くんほどじゃないわよよ」


 考えを読まれてるらしい。全く敵わないな。

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